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VS ポコポコ様 Round3⑪

向かい合って立ち、お互いに鋭い目つきでにらむシゲミとポコポコ。シゲミから7mほど後ろでツバサが固唾かたずを飲んで見守る。


シゲミは右足で上段蹴りを、ポコポコの頭を目がけて見舞った。ポコポコも同じように右足の上段蹴りでシゲミの足を受け止める。双方の蹴りがぶつかり、弾かれ合った。


端から見ていても感じる、常人なら一撃で死に至るであろう威力の蹴りを目の当たりにし、ツバサの心の声が漏れる。



ツバサ「相手を即死させる蹴りを、即死級の蹴りで相殺する……格闘技の領域を超えた、スポーツマンシップの欠片もない戦い……」



シゲミはすぐさま体勢を立て直し、ポコポコの懐に入ると、アゴに左アッパーを食らわせる。顔を上げて吐血するポコポコだが、「良いパンチや」と余裕げにつぶやいた。そして、のけぞった上半身を前方に引き戻しつつ、右ストレートをシゲミの顔面に入れる。



ツバサ「ノーガードの殴り合い……いや、命の奪い合い!イカレてるぅ!」



後ろによろめくシゲミ。ポコポコは一気に距離を詰め、腹部にボディーブローを連打。シゲミも口から血を吐く。



ツバサ「無慈悲なラッシュ!シゲミ、押されているぞぉー!」



連打を止めるべくシゲミは、ポコポコのアゴに頭突きをする。脳が揺れ、視界がかすみ、動けなくなるポコポコ。その隙にシゲミは両手を組んで大きく飛び上がり、ポコポコの頭頂部に手を振り下ろして殴打した。



ツバサ「反則臭い!反則臭い反撃ぃー!しかしこの戦いにルールなど皆無!相手を殺せればどんな手段でも構わないのだぁー!」



度重なる頭部への攻撃でポコポコの意識が飛びかける。気合いで何とか耐えるが、足を滑らせ、尻餅をついた。


転んだポコポコの両足を脇に抱え、体をぐるぐると回転させるシゲミ。ポコポコの体をひとしきり回した後、地面に投げ下ろす。



ツバサ「ジャイアントスイングゥー!打撃から投げ技にシフトしたシゲミ!おそらく回すことに意味はないが、戦いを魅せる精神を忘れていないぃー!」



衝撃で一瞬だけ息ができなくなったポコポコ。だが痛みと苦しみが、消えかけていた意識をはっきりとさせた。即座に立ち上がると、ジャイアントスイングで目を回して体勢を崩すシゲミのほうへ一直線に走り、右腕でラリアットを食らわせる。



ツバサ「ポコポコ、ラリアットで奇襲ぅー!シゲミの隙を突いたぁー!」



背中から仰向けに倒れるシゲミ。ポコポコは追撃するべく、地面を蹴って高く跳躍。バック宙しながら体を広げてシゲミに降りかかった。



ツバサ「まずいぞぉー!ポコポコのムーンサルトプレスゥー!」



シゲミは地面の上をゴロゴロと横に転がり、ムーンサルトプレスをかわす。地面に腹から着地したポコポコは、その衝撃を全身に受けた。



ツバサ「自爆だぁー!ムーンサルトプレスは諸刃の剣ぃー!全体重を乗せた必殺の一撃を食らわせられるが、外れたら衝撃が全て自分にのしかかるぅー!」



右腕一本で上半身を持ち上げたポコポコの腰を、後ろから両腕で抱えるシゲミ。左右の腕をがっちりと組み、ポコポコを無理やり立ち上がらせると、ブリッジの要領で頭から背後の地面に叩きつける。ポコポコは大量に吐血した。



ツバサ「シゲミ、負けていないぃ!ジャーマンスープレックスが決まったぁー!こんなにキレイなジャーマン、なかなか見れないぞぉー!」



シゲミはポコポコから腕を放し、前屈みにしゃがむ。後転してシゲミから離れ、起き上がるポコポコ。そして立ち上がったシゲミに接近し、右腕のひじでエルボーを顔面に何度も打ち込む。



ツバサ「まだ倒れないポコポコォー!残された右腕でエルボー!エルボー!エルボー!エルボーのバーゲンセール!肘の供給過多ぁー!」



腫れ上がるシゲミの左頬。その痛みを顧みず、シゲミは左手でポコポコの顔を覆い、頭を思い切り握りしめた。側頭部を電流のように走る激痛に、ポコポコは「あ、あ、あ、あ」ともだえる。



ツバサ「シゲミのアイアンクロー!ポコポコがうめき声を出しているぅー!おそらくそんなに痛くはないが、傷だらけのポコポコには致命的だぁー!」



ポコポコのエルボーが止まったのを見て、シゲミは左手を離し、ポコポコの腹部へ右回し蹴りを放った。足はポコポコの腹の奥にある内臓にめり込むほど深く突き刺さる。リオのチェーンソーによってできた腹部の傷が開き、水風船が破裂したように血飛沫が舞った。


ポコポコの体は勢い良く後方へ吹き飛び、背後の木にぶつかる。木が幹の中間あたりでへし折れた。膝から崩れ落ち、うつ伏せで倒れるポコポコ。そしてゴホッゴホッとせき込んだ。死んではいないが、起き上がる様子もない。



ツバサ「き、決まったぁー!このステゴロ勝負の勝者は……爆弾魔シゲミぃぃぃー!」


シゲミ「さっきからウルサい」



シゲミは静かにツバサを叱った。そしてしょぼくれるツバサに歩み寄ると、その手からスクールバッグを取り上げる。


虫の息のポコポコ。右腕で体を回転させ、仰向けになる。腹筋に力を入れて体を起こそうとするが、岩のように重く、背中が地面から離れない。


激しく息を切らすポコポコにシゲミが近づいてきた。左脇に立ち、血まみれの邪神の顔を見下ろす。



シゲミ「……私はこれまで、人間を苦しめる怪異と何度も戦ってきた。その中で、怪異がなぜ悪事を働くのか、理由を知りたいと思ったことは一度もない。でもアナタのことは少しだけ知りたくなった。3回も戦ったからかしら」


ポコポコ「はぁ……はぁ……オレは……サツキちゃんの……ために……」


シゲミ「サツキ……喉具呂のどぐろ島にいた女性のこと?彼女の復讐のために戦っていたの?」


ポコポコ「せや……オレは……サツキちゃんを……」


シゲミ「大切な人のために戦ってたのね。気持ちはわかるわ。私も大切な人を奪われたら、何をやらかすか自分でもわからない。だけど、アナタのやったことを正当化する気は1ミクロンもない」


ポコポコ「……ごめんな……サツキちゃん……オレは……ここまでや……」


シゲミ「……」



シゲミはスクールバッグからC-4を取り出し、ポコポコの胸に貼りつけた。そして右手に円筒形の起爆装置を握らせる。



シゲミ「私が謝ったところで死んだサツキさんは戻って来ない。ならばせめて、サツキさんの意思を、少しだけでも尊重してあげたい。彼女は死の直前、アナタについて、『島でのんびり暮らしたいだけ』と言っていた。それが本当かどうか……アナタに選択肢を与える」


ポコポコ「……」


シゲミ「そのスイッチを押せば、C-4は爆破する。いくら邪神・ポコポコでも、もう耐えることはできないでしょうね。体がバラバラに吹き飛ぶわ。だけど、もし今後は人間を襲わず、どこかの島でひっそり生きていくと誓えるのなら、殺さずに見逃してあげてもいい。できないなら、起爆スイッチを押しなさい。どう選択するかはアナタ次第よ」


ポコポコ「……」


ツバサ「シゲミさん……」



口から血の泡を吹き出しながら、かすれた声で笑うポコポコ。



ポコポコ「はは……ははは……お前ごとき人間が、神に生き死にの選択を迫るとは……おこがましい……このポコポコ様を舐めるなよ。人間の与えた生にすがりつくと思うな……」



シゲミはツバサのほうへ駆け出す。



シゲミ「ツバサくん!リオちゃんを!」



ツバサは背後で倒れ、気を失っているリオを右肩に担ぎ上げた。ポコポコから全速力で離れるシゲミ。ツバサも一緒に走り、シゲミとともに近くの木の後ろに身を隠した。



ポコポコ「サツキちゃん……今すぐ会いにくで」



起爆スイッチを親指で押すポコポコ。胸のC-4が爆発し、煙を巻き上げる。十数個の部位に分かれて宙に浮かび上がったポコポコの体は、瞬く間に黒い霧となり消滅した。

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