パラシュートで風に乗りながら滑空するシゲミとリオ。目を細め、太陽よりも明るく輝く爆発を見つめる。強い光は数秒で消え去り、柱のように立ち上り雲と一体化する煙だけが残った。
煙の中からポコポコが猛スピードで飛び出し、シゲミとリオの30mほど真下を通過。そのまま神奈川県の山地に、土煙を上げながら墜落した。
シゲミの右耳に装着したハンズフリーイヤホンからハルミの声が流れる。
ハルミ「シゲミ、良くやった。ナイスタイミングじゃ」
シゲミ「ババ上は?」
ハルミ「アタシャは緊急脱出装置で飛び出した。このまま不時着する。あとはお前と、そのくっつき虫のようなお嬢さんに任せるぞ」
シゲミは右手にぶら下がるリオのほうを見る。
シゲミ「リオちゃん、戦える?」
リオ「だから着いてきたんだよ」
シゲミは目だけで微笑むと、ポコポコが落下した地点を目指して高度を下げていく。リオを先に着地させ、自身の足が地面に着いたと同時にパラシュートバッグを背中から下ろす。山の中腹。ポコポコが墜落した衝撃で木が何十本もなぎ倒され、森に10円ハゲができていた。
倒れた木を踏みながらシゲミとリオの正面へ歩み出てくるポコポコ。体の至る所に火傷を負っている。大きくため息を吐くと、まぶたを半分ほど開いて2人に視線を向けた。
ポコポコ「……戦うにはスタミナが必要やと実感したわ。人類を滅ぼしたら、庭にトレーニング用のプールを併設した家を建てようと思う。せやけど屋外プールって、枯れ葉とか、虫の卵とか死骸とか、雨水とかが混ざりまくって絶対に汚いよなぁ?」
ポコポコの発言を無視し、チェーンソーのストラップを引いてエンジンをかけるリオ。シゲミはジャケットの右ポケットからスマートフォンを取り出し、いじる。
ポコポコ「チェーンソーの嬢ちゃんの反応はまだ納得できるが、爆弾魔シゲミ、何スマホいじっとんねん。デジタルデバイスが気になって仕方がない、Z世代っちゅうヤツか?」
右隣でスマホに視線を落とすシゲミを、横目で見るリオ。
リオ「敵とはいえ頑張って喋ってるんだから、ちゃんと聞いてあげたほうがいいぜ」
シゲミ「ごめん。ソシャゲのログインボーナスもらうの忘れてて」
シゲミは左肩にかけたスクールバッグにスマートフォンを仕舞い、代わりにM79 グレネードランチャーと弾を取り出して装填する。
ポコポコ「すぐ仕舞ったんなら大目に見たる。オレは寛大な神なんでな」
シゲミ「なら、アナタを駆除するのも大目に見てくれるかしら?」
ポコポコ「それだけは無理や」
ポコポコの足下から黒い邪気が立ちこめる。シゲミはグレネードランチャーを構え、ポコポコに狙いを定めた。が、射線にリオが割って入る。
シゲミ「リオちゃん?」
リオ「お前とアイツ、何か因縁があるみたいだな。だが、アタシもアイツに用がある。1発ブチ込んでやらないと気が済まねぇ」
シゲミ「……援護はするけど、前にポコポコと戦ったときは4人がかりでなんとか抑え込んだ。私たち2人が協力しても、勝てる可能性は充分とは言えないわよ」
リオ「4人か……ならよぉ」
リオはその場で反復横跳びをし始めた。あまりにも素早い移動で、残像が生まれる。
リオ「アタシが3人分になる」
リオが3人に分身した。それぞれの分身が1本ずつチェーンソーを握っている。目を擦るシゲミ。間違いなくリオが3人いる。ポコポコも目を丸くした。
ポコポコ「おいおいおいおい!お前らの学校、忍者アカデミーなんかぁ!?」
3人のリオが横一線に並び、同時にポコポコへ向かって走り出す。ポコポコは右手を真っ直ぐ前に伸ばし、手のひらから邪気のレーザーを放出。真ん中のリオを撃ち抜いた。リオの後ろにいたシゲミは右横にジャンプし、レーザーをかわす。
ポコポコが撃ち抜いたリオは残像。残り2体が近づく。ポコポコから見て左側のリオが消失。右側のリオがポコポコの肩から腹部にかけてチェーンソーで切り裂いた。チェーンソーを傷口から引き抜き、バックステップで下がるリオ。
リオ「初めて試す戦法だったが……効果ありだぜぇ」
ポコポコ「チクショウ!まんまと引っかかっちまった!」
ポコポコの傷口を邪気が覆い隠す。邪気が消えると、傷口も修復していた。この隙を見逃さなかったシゲミ。リオの背後からグレネードランチャーを発射。リオの顔のすぐ右横を通り抜けた弾丸がポコポコに当たり、その体を爆風で吹き飛ばす。
ポコポコ「ちっ」
地面を転がるポコポコに、再び3人に分身したリオが迫る。ポコポコは立ち上がると、今度は両手から邪気のレーザーを放ち、左右のリオを撃ち抜いた。しかし両方とも残像。真ん中のリオがチェーンソーの刃をポコポコの胴体に深く突き刺す。
ポコポコ「がはぁぁぁっ!」
腹部と口から大量に血を流すポコポコ。それでも倒れることなく、リオの顔面に向かって左拳を突き出す。リオは刃を抜き、バック転でポコポコから距離をとった。
リオの左斜め後ろからグレネードランチャーを撃つシゲミ。ポコポコは邪気を体にまとって爆風から身を守るが、衝撃を吸収しきれず吹き飛び、仰向けに倒れた。その間も傷口に邪気を集め回復を図るが、治癒速度は上がらない。
ポコポコ「クソッ……邪気の蓄えが尽きちまう……」
倒れたポコポコにトドメを刺すべく、反復横跳びをして分身するリオ。しかし足が止まり、その場で地面に左膝をつく。
シゲミ「リオちゃん!?」
リオ「分身戦法……想像以上に体への負荷が大きいぜぇ。あと1回が限界だ」
シゲミ「……わかった。じゃああと1回頑張って。リオちゃんが生んだチャンスを、私は逃さない。でももっと頑張れそうなら、もう5回やって」
リオ「テメェ鬼だな」