上空から迫る惑星のごとき邪気の球体を見て、ハルミはステルス爆撃機を急発進させる。
ハルミ「飛ばすぞシゲミぃ!舌噛み切らないよう注意せい!」
シゲミは奥歯を食いしばり、左右の
一直線に空中を進むステルス爆撃機。爆撃機を追跡するように邪気の球体も進路を変えた。マッハ1の速度で飛行するステルス爆撃機は、蛇行しながら降り注ぐ球体をかわす。
地上に着弾した球体はオフィスビルや高層マンションを巻き込みながら地面を
ハルミ「アレに当たったら、刹那であの世じゃな。楽に死ねそうではあるが」
シゲミ「ババ上、操縦に集中して。マジで死ぬわよ」
ステルス爆撃機は機体を左に90度倒し、縦向きになりながら球体の間を飛行。球体は次々に地表と接触し、クレーターを作りながら消失していく。爆撃機は無事だが、東京およびその周辺の県にも被害が拡大していた。
ハルミ「山のように犠牲が出てしまうのぉ。もしかして、フラフラ飛んでるアタシャが戦犯か?」
シゲミ「ポコポコに邪気を使わせるには、大規模な攻撃を誘発させる必要がある。だから仕方のないことよ」
ハルミ「そうか……もう少し励ましとくれ。メンタルブレイクしそうじゃ」
シゲミ「ババ上は悪くない。悪いのはポコポコ。それに私たちが諦めたら、犠牲者は爆増する」
ハルミ「だよな。よし、やったるわい!エンジン全開じゃあ!シゲミ、
再び両手で操縦桿を握るシゲミ。ポコポコの尻に狙いを定め、乱射する。弾丸はオムツのようにポコポコの尻を守る邪気によって弾かれた。弾がゼロになり、チェーンガンからはモーター音のみが漏れる。
シゲミ「ババ上、もうケツ穴責めはできそうにないわ」
ハルミ「なら次は頭じゃ!頭上から
邪気の球体を避けながら旋回し、一時的に低空飛行するステルス爆撃機。地上の建物ギリギリの高さを飛びながら、徐々に高度を上げる。
そのとき、ビルの屋上を何者かが走り、音速で飛行する爆撃機と併走。空中へと飛び出し、ステルス爆撃機の左側の翼につかまった。
ハルミ「……左翼に何かおるな。シゲミ、見えるか?」
シゲミはハルミの体越しに、機体の翼に目をやる。先端に白いワイシャツの袖と人間の右腕が見えた。ワイシャツには血がにじんでいる。目をこらすシゲミ。腕の持ち主が、風で吹き飛ばされないよう
シゲミ「リオ the チェーンソー……」
その人物は、ワイシャツにスカート、左手にチェーンソーを持ったリオだった。『
ハルミ「知り合いか?」
シゲミ「
ハルミ「音速で飛ぶステルス爆撃機に飛びついてくるとは……まるで怪異じゃな」
シゲミ「かなり怪我してるみたい……だけど、彼女の力があればポコポコに太刀打ちできるかも」
ハルミ「まさか爆撃機の上でポコポコとあの子を戦わせる気か?そんな誘いにポコポコが乗ってくるとは思えん」
シゲミ「けどリオちゃんは接近戦を得意としている。リオちゃんの力を最大限に発揮するならポコポコとの接近戦に持ち込まないと」
ハルミはステルス爆撃機の高度を上げる。操縦桿を握りながら2秒ほど考え込み、シゲミのほうへ顔を向けた。
ハルミ「シゲミ、
シゲミ「プランC……でもババ上」
ハルミ「チェーンガンは弾切れ、積んでいる誘導弾は僅か。ステルス爆撃機での攻撃も限界に近づきつつある。どのみちポコポコを仕留めるには、さらなる攻撃手段が必要じゃ。ならば、お前とあの子に賭けよう」
シゲミ「……わかった」
ハルミ「減速してコックピットのガラスを開けるから、外に出ろ。タイミングを見計らって合図するから、イヤホンをつけておけ。後は手はず通りに」
シゲミはヘルメットを脱ぎ、座席の下に置いていたパラシュートバッグとスクールバッグに手を伸ばす。パラシュートバッグを背中に背負い、スクールバッグからハンズフリーイヤホンをとりだして右耳に装着。そしてバッグを左肩にかけた。
ハルミの操作により、コックピットのガラスが開く。強い風がシゲミの黒髪を激しくなびかせた。
シゲミは座席の肘掛けに立つと、機体の外へ足を踏み出した。そして右の翼の上を走り、スクールバッグからC-4を取り出して翼に設置していく。翼の先端まで走ると、体を
シゲミは左の翼の上に乗ると、リオに向かって左手を伸ばした。シゲミの手を握るリオ。強く握り返したシゲミは翼を蹴り、空へと飛び出した。右手でパラシュートバッグの紐を引っ張り、黒いパラシュートを広げる。
シゲミたちが滑空していくのを確認したハルミは、ポコポコのほうへ向き直った。
ハルミ「さて、最後っ屁をくらわせてやるわい。邪神・ポコポコよ」
ハルミはステルス爆撃機の速度を急上昇させ、ポコポコ目がけて突っ込む。ポコポコは正面に両手を開いてかざし、10本の指から細長い邪気のレーザーを射出した。くねくねと曲がりながら飛ぶ10本のレーザー。だがハルミが操縦するステルス爆撃機は上下左右に動き、レーザーを全て回避する。
ステルス爆撃機の先端がポコポコの手のひらと接触。さらに加速し、ポコポコを押す。ポコポコは負けじと邪気を盾のように展開し、ステルス爆撃機の進行を食い止めた。
ハルミは足下のレバーを思い切り踏む。座席の下から煙が発生し、ハルミごと上空へ打ち上がった。ヘルメットのマイクに向かって叫ぶハルミ。
ハルミ「シゲミぃ!やれぇ!」
イヤホンから流れるハルミの声を聞いたシゲミは、スカートの右ポケットに入れていた円筒形の起爆スイッチを取り出し、親指で押す。ステルス爆撃機に貼りついていたC-4が全て起爆。機体ごとポコポコを巻き込んで大爆発した。