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VS ポコポコ様 Round3⑥

ビル街の細い路地。男性の自衛隊員に肩を貸してもらいながら、倒れないよう何とか歩く、陸上自衛隊所属の五島ごとう1尉。腹部に戦闘服の上から包帯を巻いており、左脇腹部分に血がにじんでいる。額からは大量の脂汗が流れ落ちる。


痛みで表情を歪める五島。部下の男性隊員は五島の苦悶の声を聞き、歩みを止めた。



部下「1尉、動けますか?ここに長居するのは危険です!カマキリ人間がまだ……」


五島「わ、わかっている。が……体が重い……俺のことは捨て置け。お前は逃げろ」


部下「上官を見殺しになんてできません!」


五島「けっ、一丁前なこと言いやがって……だが、そんなお前になら、俺の家族を任せられる……」



五島は被っているヘルメットの隙間に左手の親指と人差し指を突っ込んだ。そして中から写真を引きずり出し、男性隊員に見せる。



五島「俺の娘だ……今年で4歳になる。先週公園で遊んだときの写真……かわいいだろ?」


部下「娘さん……?1尉、汗でにじんで心霊写真みたいになってます!娘さんか息子さんかさえわかりません!しかも臭い!」


五島「しばらく家に帰ってなかった……なのに、こんな酷い戦いがはじまっちまってよぉ……今頃、嫁とどこかに避難してるはずだ……もし俺が死んだら、家族のことを」


部下「このポンチ野郎ぉ!こんな誰が写ってるのかわからない写真を見せて、無責任に死ぬなぁ!自分で会いに行ってしっかり守れぇ!」



男性隊員は五島の腰に回した左腕に力を入れ、意識を失いそうな上官を思い切り引きずった。五島が苦しそうな声を上げるが、聞こえないふりをして進む。


5mほど先、路地の出口にマンティノイドが1体立ち塞がった。そして虫の息である2人を大きな目で見つめる。


男性隊員は右腰に装着したホルスターからハンドガンを抜き、「うあああぁぁぁっ!」と叫びながら乱射。弾丸が数発、マンティノイドの体に当たった。しかし威力の低い拳銃弾では、硬い体表の薄皮一枚剥ぐこともできない。


弾が切れ、ハンドガンからはカチカチという引き金の音しか出なくなった。失禁し、五島と一緒にその場に腰を抜かす男性隊員。


マンティノイドは、表情が青ざめていく男性隊員と今にも死にそうな五島を見下ろす。ただ見下ろすだけで、近寄りも攻撃しようともしない。まるで子供が、虫かごに入れたカナブンでも観察しているかのように、じっと見つめている。


五島は自身の腰に装着したホルスターからハンドガンを抜き、男性隊員の右手に握らせた。



部下「い、1尉……この銃では……」


五島「撃つのは敵じゃない。俺と……お前の頭を撃ち抜け」


部下「で、ですが」


五島「アイツは俺らが苦しみながら死ぬのを待ってる……精神的、肉体的に追い詰められていくのを観察してるんだ……遊び感覚でな……だから最後にせめてもの反抗だ。アイツの楽しみを奪って、死んでやろうじゃねーか……やれ」


部下「……」



死を覚悟し、目をつむる五島。男性隊員は五島の首の付け根に銃口を向け、引き金に指をかけた。指に力を入れた瞬間、轟音が響き、マンティノイドがビルの上まで大きく吹き飛ばされる。路地に強い突風が吹き、男性隊員が被っていたヘルメットが頭から落ちた。


2人の目に、マンティノイドの後ろを何かが高速で通り抜けていったのが微かに映った。それによって生まれた風でマンティノイドは吹き飛び、30m近い高さから落下。体は潰れ、白い体液の中で絶命した。


事態が飲み込めない五島と男性隊員は、言葉を発さず視線だけを合わせる。男性隊員が五島の右腕を肩に回し、同時に立ち上がった。ヨロヨロと歩き、マンティノイドの死骸を踏まないよう足下を注意しながら路地から顔を出す。上空100mほどの高さを、黒いステルス爆撃機が飛行した。


ステルス爆撃機に設置されたスピーカーから、女性の声が流れる。



ハルミ「こちら、ハルミ。陸上自衛隊の諸君、よくぞ耐え抜いた。戦闘はアタシャと家族に任せ、民間人の避難と救助を優先せよ」



ハルミの声を聞き、考え込む五島。



五島「ステルス爆撃機……ハルミ……まさか、ハルミ元1等空佐か!?」


部下「……どなたです?」


五島「知らんのか!?航空機が遭遇した、を何百体も葬り、日本を守ってきた伝説のパイロットだ!その功績が認められ、ノンキャリアなのにも関わらず1等空佐まで上り詰めた異例の経歴を持つ!」


部下「……へぇ、すごい人なんすね」


五島「俺が入隊する前には退役していたから、面識はないんだけどな。とにかく、地上でその戦いっぷりを見られるなんて俺たちはツイてるぞ!」


部下「ツイてるって……さっきまで死にかけてたじゃないですか、1尉。なのにメジャーリーガーに会った野球少年みたいにはしゃいじゃって……しかも1尉、空自のこと嫌ってませんでしたっけ?」


五島「ハルミ元1等空佐は別だ!あの人が現役だったころの自衛隊には、陸・海・空問わず加入できるハルミファンクラブがあって、幕僚長クラスまで入っていたと聞く……とにかくカリスマなんだよぉ!」



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ステルス爆撃機 コックピット内

爆撃機を操縦しながら、ヘルメットのマイクに向かって自衛隊を鼓舞するハルミ。一通り言いたいことを述べると、右隣の席に座るシゲミにスピーカーをオフにするよう手だけで指示を出した。



ハルミ「自衛隊の青二才ども、だいぶ苦戦しとるようじゃのぉ」


シゲミ「助太刀する?でも、じきに母上たちがここにも来ると思うけど」


ハルミ「本命を叩く前に、ステルス爆撃機のウォームアップをしておきたい。シゲミ、地を這いつくばるカマキリどもにチェーンガンという名の駆除剤を撒いてやれ」



座席の左右のひじ掛けに取り付けられた操縦桿そうじゅうかんを握るシゲミ。操縦桿の先端はトリガーになっている。シゲミは両手の人差し指でトリガーを引いた。


ハルミの操縦で、市街地のビルの上を低空飛行するステルス爆撃機。逃げるマンティノイドたちの背後から爆撃機が迫り、その両翼の下に装備されたチェーンガンから弾丸をあられのごとくまき散らした。

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