椅子の背もたれに体重をかけ、「へっ」と馬鹿にしたように笑うキリミ。
キリミ「職員が全滅ねぇ。今頃、葬式で大忙しだろ?だからアタシらにポコポコを駆除する依頼をしてきたってわけだ」
サシミ「お姉ちゃん、失礼だよ」
ノートパソコンの画面の向こうから
モロ「残念ながら、死を
キリミ「どうだかねぇ。自衛隊が出動しても止められてねーんだろ?アタシら5人が加勢したところで焼け石に水だと思うけどなぁ」
キリミとモロの問答に、シゲミが割って入る。
シゲミ「本来なら、ポコポコは
モロ「……言い訳にしかなりませんが、先ほど申し上げたように『魎』の運営は理事に一任していました。ポコポコを捕獲し、収容したのも理事たちの判断で、私の指示ではありません。その理事たちとも連絡がつかない状況です」
シゲミ「だとしても、アナタが『魎』のトップなら、責任はアナタにある。正直に言うと、自業自得としか思えないわ」
モロ「シゲミさんの言うとおりです。私が『魎』をコントロールできなかったことが全ての原因。そして今さらになって、シゲミさんたちの力を借りようとしている……申し訳ないとは思っています。それでも、ポコポコの駆除を依頼したいのです」
シゲミは奥歯を強く噛みしめる。その表情を見たハルミが、口を開いた。
ハルミ「シゲミよ、ポコポコ駆除の依頼を引き受けるかどうか、お前が決めろ。お前が納得できないなら、アタシャらも協力はせん。たとえ世界が滅んだとしても、家族の意思を軽んじることだけはしたくないのでな」
シゲミ「ババ上……」
キリミが右手を上げる。
キリミ「アタシもババアに賛成。『魎』に何か嫌がらせされたわけじゃねーが、前々からどうも
サシミ「私も。シゲミ
シゲミ「キリミ……サシミ……」
抱いていたキアヌをシゲミに手渡すトモミ。
トモミ「シゲミ、アナタがどういう決断を下しても、私たちに後悔はありません。キアヌも同じ気持ちでしょう」
キアヌ「のぉ〜ん」
シゲミ「母上……キアヌ……」
考え込むシゲミ。頭の中に様々な人たちの、大切な人たちの顔が浮かぶ。カズヒロ、サエ、トシキ、
シゲミは瞳を閉じ、思案し続ける。モロの言葉が、シゲミの集中を遮った。
モロ「ポコポコだけでなく大量のマンティノイドも発生し、自衛隊と交戦しています。非常に危険な戦いになることは確実。そんな戦いに、何のリターンもなく皆様を巻き込むわけにはいきません。ポコポコおよびマンティノイドを駆除した報酬として、お一人につき500億円、合計2500億円お支払いいたします」
ハルミ「よし、依頼を受けるぞシゲミ」
閉じていた瞳を大きく見開き、ハルミのほうを見るシゲミ。
シゲミ「えっ、決断は私に任せるんじゃなかったの?」
ハルミ「バカ者!2500億じゃぞ。こんな美味しい案件を逃すわけにはいかんじゃろ。ノータイムでイエスじゃ」
キリミとサシミが、ハルミの言葉に続く。
キリミ「そんだけの金があれば、一生遊んで暮らせるんじゃね?なんかやる気出てきたわ」
サシミ「シゲミ
キアヌはシゲミの腕の中からジャンプしてテーブルに着地する。そしてノートパソコンの角にアゴをこすりつけた。その様子を見ながら微笑むトモミ。
トモミ「キアヌもお金に目がないみたいですね。シゲミ、アナタがどう決断しても後悔しないと言いましたが、この依頼を断ったら私はめちゃくちゃ後悔して今日の晩ご飯の味噌汁を飲めないくらい高温にしちゃうかもしれません」
シゲミ「現金なヤツらめ……大切な人たちの顔が頭に浮かんでこないの?その人たちを守りたいという気持ちはない?」
トモミ「私は、家族さえ無事ならどうでもいいですね。でもアナタたち、そう簡単に死なないでしょ?」
シゲミ「……キリミとサシミは?学校の友達のこと、心配じゃないの?」
キリミ「アタシ、学校行ってねーから友達いねーし」
サシミ「私は学校に行ってるけど、クラスメイトのことは寄せ集めとしか思ってない。だから不安はない」
シゲミ「薄情者ども……ババ上は?さっき敬老会の友達とサバゲーしに行くって言ってたわよね?」
ハルミ「サバゲーは実弾を使ってやるのでな。アタシャが参加した時点で、他の老いぼれどもは死ぬの確定じゃ。ポコポコに殺されるか、アタシャに殺されるかの違い。がっはっはっはっ」
シゲミ「……初めてだわ。1つのコミュニティ内で私が一番社交的なの」
シゲミは大きくため息を吐き、画面に視線を向ける。
シゲミ「わかった。ポコポコとマンティノイドの駆除、引き受ける。でも私はお金のためじゃない。大切な人たちを守るために戦う。もちろん私の取り分はもらうけど、お金のためではないから」
モロ「……心より感謝いたします。ポコポコの位置や戦況については随時報告しますので、皆様のスマートフォンでこのWeb会議に参加してください」
シゲミ「了解」
テーブルの向こう側に回り込むハルミ。
ハルミ「決まりじゃな。これより、ポコポコ駆除作戦を開始する。トモミ、キリミ、サシミはマンティノイドとやらを全滅させろ。シゲミはアタシャと来い。ステルス爆撃機でポコポコを直接叩く」
うなずくシゲミ、トモミ、キリミ、サシミ。
ハルミ「シゲミ、喉具呂島ではポコポコとどうやって戦った?」
シゲミ「ポコポコは邪気で身を守っていて、あらゆる攻撃を防いでしまう。でも邪気を使い果たしてからは攻撃が通るようになった。とにかく攻撃を繰り返し、ポコポコに邪気を限界まで使わせる。それがヤツとの戦い方」
ハルミ「うむ。モロさん、アタシャらが到着するまで自衛隊に攻撃を続けさせてくれ。効果がないように見えても、ポコポコの邪気を削れるじゃろう」
モロ「わかりました」
ゴウシロウ「あのぉ……」
リビングのすみっこに、ゴウシロウとシゲミの祖父が並んで立っている。ゴウシロウのほうに顔を向けるシゲミたち。
ゴウシロウ「私も家族の一員として何か役に立てればと思いまして……『戦いに勝つ』という願掛けで、トンカツを作ろうと思うのですが、いかがでしょう?」
ハルミ「いらんわ!お前らは家で金魚のようにおとなしく留守番しとれ!」
視線を床に落としてしょぼくれるゴウシロウ。その右肩をシゲミの祖父が叩く。
シゲミの祖父「ほら、言ったじゃろ?ゴウシロウくん。ワシらは邪険にされるだけじゃ。マリオテニスでもやってようぞ」