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インフェルノ・ブルー③

水飛沫を上げて猛スピードで走る、シゲミが操縦するクルーザー。カズヒロたちは床に座って踏ん張り続ける。船内に乗っている人が立つことすらできないほど、シゲミは速度を上げていた。



トシキ「シゲミちゃん!スピード狂が過ぎるよ!」


シゲミ「最高速度じゃないと追いつかれる」



トシキが船尾のほうへ目をやると、まるでイルカのように水面をジャンプしながらクルーザーを追いかける人間たちが見えた。



トシキ「来てるぅぅ!」


カズヒロ「あ、あれが海の亡霊かー!?」


シゲミ「おそらく沈没した船に乗っていた人たちね。群れを形成し、群体の怪異としてここらの海域に生息している」


サエ「寄ってたかって何なのよ〜!」


シゲミ「個体として弱い怪異ほど群れを形成する傾向がある。やっぱり元は人間。弱いヤツほどよく群れる」



亡霊たちを振り切るため、ハンドルを左右に切って蛇行運転するシゲミ。しかし亡霊たちはクルーザーの動きに合わせてピッタリと追跡する。



シゲミ「いくら進んでも霧の中から出られない……私たちはもう『インフェルノ・ブルー』に囚われてしまったようね」


トシキ「やっぱりぃぃ!?」


カズヒロ「このままじゃヤベぇぞ!クルーザーの燃料が切れたら追いつかれちまう!」


サエ「シゲミ〜!何とかならないの〜!?



シゲミは操縦席を見回す。右脇に置かれた無線機を見つけ、左手でハンドルを握りながら周波数を調整し、マイクを取った。



シゲミ「こちらシゲミ!ババ上、応答されたし!」



無線機から女性の声が響く。



???「こちらハルミ。シゲミ、何があった?状況を報告せい!」


シゲミ「海で怪異に襲われた。現在クルーザーで逃走中。爆撃を要請する」


???「現在置は?」


シゲミ「北緯35度20分、東経138度15分付近を航行中。海上に濃霧が発生している」


???「『インフェルノ・ブルー』か……20分後に爆撃を開始する。それまで無線をつないだまま走り続けるのじゃ」


シゲミ「りょう



シゲミは無線機の上にマイクを置き、両手でハンドルを握り治す。



カズヒロ「シゲミ!誰に連絡したんだ!?」


シゲミ「私の祖母。上空からこの海域ごと亡霊たちを爆撃してもらう」


サエ「どうやって!?」


シゲミ「祖母愛用のステルス爆撃機で」



−−−−−−−−−−



上空700m

三角形の黒い飛行機が音速で飛ぶ。シゲミの祖母・ハルミが操縦するステルス爆撃機。雲を切り裂き、シゲミが指定した海域近くへと到着した。


クルーザー内の無線機にハルミからの連絡が届く。



ハルミ「間もなく『インフェルノ・ブルー』上空。海上を覆う濃霧を視認。霧がなくなるまで爆撃するからのぉ……シゲミ、投下したミサイルを全て避けるのじゃ!」


シゲミ「無茶言うわね」



飛行するステルス爆撃機の機体下部が開き、大量のミサイルが霧に向かって放出される。ミサイルは霧を抜けて海面に落ち爆発。無数の水の柱を作った。


亡霊たちは次々に爆発に巻き込まれ、水泡と化す。


シゲミはクルーザーを操縦し、ミサイルが作り出した水の柱を全てかわす。四方八方へ向きを変え高速で逃げ回るクルーザーの中、カズヒロたちは吐き気に見舞われながらも振り落とされないよう姿勢を低くし耐え続けた。


およそ5分後、クルーザーが霧の中を抜け、快晴の空の下に出る。ハルミの爆撃により海上を包んでいた霧は消えていた。クルーザーを追いかけてくる亡霊もいない。速度を落とし、無線機のマイクを口元に近づけるシゲミ。



シゲミ「脱出に成功。霧と亡霊たちの消失も確認」


ハルミ「このまま先行し、陸地へ誘導する。着いてきなさい」


シゲミ「ババ上、協力感謝するわ。帰ったらチョコレート&フルーツパフェのデラックスサイズをおごるわね」


ハルミ「杏仁豆腐もつけてくれんかのぉ?」


シゲミ「……わかった」



ハルミのステルス爆撃機を追いかけるようにクルーザーを操縦し、シゲミたちは無事陸地へと戻った。



<インフェルノ・ブルー-完->

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