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インフェルノ・ブルー①

AM 9:55

とある埠頭にやって来た市目鯖しめさば高校心霊同好会のカズヒロ、サエ、シゲミ、トシキ。休日だが全員ブレザーを着て、肩にスクールバッグをかけている。理由は自分たちが高校生であると証明するため。


これから彼らが参加予定の船旅『ファントム・クルーズ』の企画者から、高校の制服で参加してくれれば学生割引を適用すると連絡があった。各自のお小遣いの範囲内で活動しなければならない心霊同好会にとって、少しでも安くなる方法があるのなら利用しない他ない。


埠頭を歩くシゲミたちに向かって、小太りでバーコード頭の中年男性が手を振る。『ファントム・クルーズ』の企画者・塩沢しおざわ。塩沢の背後には全長10m近くあろう中型クルーザーが停泊している。


塩沢「ご予約いただいた、市目鯖高校心霊同好会の皆さんですね!?ブレザーを見てすぐにわかりましたよ!市目鯖高校の生徒はどんなブレザーを着ているか、事前に調べておいたのでねぇ!」


カズヒロ「そうっすか……」


塩沢「皆さん、ブレザーがよく似合ってますよぉ!年相応!コスプレではありませんねぇ!学生割引を適用させてもらいますぅ!」



異様にテンションの高い塩沢に圧倒される4人。



塩沢「では早速、『ファントム・クルーズ』にご案内しますよぉ!私のクルーザーに乗ってくださぁい!総額1億円のクルーザーにねぇ!」


トシキ「あれ?参加者って僕たちだけですか?」


塩沢「ええ!私が個人サイトで募集しているニッチな船旅ですから、参加者なんてほとんどいないですよぉ!皆さんが予約してくださらなければ、開催しませんでしたぁ!『ファントム・クルーズ』は今日で3回目の開催となりますぅ!歴史、浅いんですよねぇ!」


サエ「それで塩沢さんの生計は成り立ってるんですか〜?」


塩沢「私の本業は会社経営でして、これは休日にやってる趣味みたいなものなのですぅ!だから儲けなんて出さなくてもOKなんですよぉ!本業でたんまり稼いでいるのでねぇ!」


シゲミ「……ちょくちょく自慢が差し込まれるわね」


カズヒロ「塩沢さん、ちょっと鼻につきますけど、すごいっすねぇー。こんなクルーザー買えるくらいだから相当儲かってるんでしょうし、趣味まで充実していて」


塩沢「私はいわゆる勝ち組ですねぇ!皆さんも将来、私のような人間を目指してくださぁい!さぁ、乗って乗って!」



塩沢に続き、クルーザーに乗り込むシゲミたち。船尾と船室が扉で区切られていない、半個室のような船内。船室の壁に椅子が取り付けられ、5人でも悠々と座れるスペースが確保されている。椅子やテーブルをすべてどければ、卓球台を置いてプレーできそうだ。船室の奥はガラス張りで、船の先端まで見通せる操縦席になっている。



塩沢「いざ!亡霊たちが待つ海へ!しゅっぱぁぁぁつ!」


塩沢が操縦席でハンドルを握り、かけ声とともにクルーザーを発進させた。水飛沫を上げながら、大海原を高速で駆け抜ける。


船室に荷物を置き、船尾に出たシゲミたちは、その全身で潮風を体感する。



サエ「ああ〜、非日常って感じ〜!気持ちいい〜!これを味わいたかったんだよね〜!」


シゲミ「最高ね」


カズヒロ「たまにはこういうのも良いなぁ……でも本当の目的を忘れるなよー」


トシキ「地獄の海域『インフェルノ・ブルー』だね」


塩沢「皆さ〜ん!そろそろ『インフェルノ・ブルー』についてご説明しますので、操縦席の近くにお集まりくださ〜い!」



塩沢の大声が聞こえ、シゲミたちは船尾から船室へ移動する。クルーザーを操縦する塩沢のすぐ後ろの椅子に腰掛けた。



塩沢「この『ファントム・クルーズ』の目的は、今し方皆さんがお話しされていた地獄の海域『インフェルノ・ブルー』近くを航海することですぅ!心霊同好会の皆さんなら、『インフェルノ・ブルー』について一度は聞いたことがあるでしょう!?」


トシキ「大小様々な船が沈没している海域ですよね?」


塩沢「さすが!そのとおり!1800年代から現在までに48隻が遭難、沈没しています!これほどの数の船がほぼ同じエリアで事故に遭っていることから、地獄の海域『インフェルノ・ブルー』と呼ばれるようになりましたぁ!」


シゲミ「えげつないわね」


カズヒロ「原因ってわかってるんすかー?」


塩沢「詳しいことはわかっておりません!が、船乗りの間では深海に棲む亡霊が船を引きずりこんでいると言い伝えられていますぅ!暗い深海で寂しく暮らす亡霊たちが仲間を求めているのだと!」


サエ「はた迷惑な話ね〜」


塩沢「まぁ迷信ですがね。実際に私はこのクルーザーでこれまでに2回『インフェルノ・ブルー』へ近づきましたが、何もない普通の海でした!もちろん沈没なんてしてませんし、亡霊も見てません!」


トシキ「なら安心だ」


塩沢「ただ念には念を入れて、『インフェルノ・ブルー』の中には入りませんよぉ!近くまで行って引き返しまぁす!」



シゲミたちを乗せたクルーザーは、地獄の海域へと進む。

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