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想像力の化身④

エイドリアン・シュバルツベッガーの絵はシゲミの蹴りにより大きな穴が空いた。絵としての原型は留めておらず、「もう絵からエイドリアンが飛び出すことはないだろう」という感覚を得たシゲミたち。


皆が安堵する中、フミヤだけが腹を立てている。



フミヤ「何もかも僕の計算外だ……シゲミさん……いやシゲミぃ!自力で除霊ができて悦に入ってるのだろう!?」


シゲミ「いや別に」


フミヤ「コズエさんの力は及ばなかったが、モトヨシの肉体美があったからこそ今回の件は収められたのだ!つまり生徒会の力!」


カズヒロ「趣旨変わってねーか?」


トシキ「今回の怪異は筋肉バトルで何とかできたけど、他の怪異も筋肉だけで追い払えるとは限らないよね」


フミヤ「ぐっ……いいだろう。この場はおとなしく身を引いてやる。シゲミ、お前の爆発物の持ち込みについてもしばらくは目をつむろう」


シゲミ「やったー」


フミヤ「だが諦めたわけではない!コズエさんの術に磨きをかけ、今度こそ生徒会の手で平和的に怪異を追い払ってみせるからなぁ!首を洗って待っとけ!行くぞ!モトヨシ、コズエさん!」


モトヨシ「アイサー」


コズエ「変な因縁ができちゃったなぁ……めんどそう」



美術室の入口扉へ向かうフミヤに、コズエとモトヨシが続く。生徒会の3人は美術室を後にした。



サエ「なんか、また突っかかってきそうじゃない?あのトリオ」


カズヒロ「でも心配なくねー?アイツらポンコツだし」


トシキ「そうだよ!あんな連中にシゲミちゃんが負けるわけないって!」


シゲミ「もし次に生徒会と勝負することになったら、爆弾を使ってもいいのよね?」



話し込む4人に近寄るヒロコ。



ヒロコ「あの、ありがとうございました。でも……何で私の描いた絵から怪異が?」


カズヒロ「そうだよ。その理由がまだわかってねーよ」



左手で自分のアゴを触るシゲミ。



シゲミ「エイドリアンの幽霊が現れる前、私たちの口から何かが抜け出て絵に吸収された。人間から何らかのエネルギーを奪い取ったモチーフが具現化して動き出し、エネルギーが切れると元の絵に戻る……こういうことじゃないかしら?」


トシキ「だとしても、なんでヒロコちゃんの描いた絵が?」


シゲミ「これも推測だけど……ヒロコちゃん、アナタの描く絵には特別な力があるのかも。絵を見た人のエネルギーを吸い取って、モチーフを具現化させる力が」


ヒロコ「私の絵に、そんな力が……?」


シゲミ「これからは風景画を描くことをおすすめするわ。そうすれば今回みたいに幽霊を具現化することはなくなると思う」


ヒロコ「わ、わかりました!」



笑顔になるヒロコ。その直後「あっ」という言葉とともに、何かを思い出す。



ヒロコ「私の絵、見た人のエネルギーを吸って動き出しちゃうんですよね?」


シゲミ「おそらく」


ヒロコ「……例えば私の絵をもっと大勢の人、何十、何百って数の人が見たらどうなるんでしょう?」


シゲミ「それだけたくさんのエネルギーを吸い込むことになるから、飛び出したモチーフはより長く動き続けるんじゃないかしら?」


ヒロコ「実は……私が描いたある絵がコンテストで大賞を獲って、先週から市目鯖しめさば美術館に飾られているんです」


サエ「……ってことは」


カズヒロ「美術館に来た客がヒロコちゃんの絵を見てる……」



シゲミたちの背中に悪寒が走る。



シゲミ「何の絵を描いたの?」


ヒロコ「私の家族が昔から信仰している神様の絵です。私のアレンジが少し入ってますけど」



−−−−−−−−−−



市目鯖美術館

薄暗い館内の一角、壁に掛けられた1枚の油絵が目立つように上部からライトアップされている。白い腰布を巻き、上半身裸で両手を小さく開いた少年の全身像。黒髪のマッシュウルフカットで目鼻立ちがはっきりした10代半ばの少年で、絵のすぐ下には『化身』と書かれた札が飾られている


絵を半円状に囲み見上げる50人近い群衆。その中から初老の男性が前に出た。男性が床にひざまずくと、群れを成す男女全員が続いてひざまずく。



男性「神よ……私たちのによってこの世に蘇りたまえ……」



男性が顔を上げる。その口から白い塊がズリズリと抜け出て、宙を舞った。絵を囲む男女ぞれぞれの口からも白い塊が現れる。塊は全て絵に吸収された。


絵の中の少年が瞬きをし、両手で額縁を掴んで3D映像のように飛び出た。そして着地すると同時に、ひざまずいている男性の頭を右足で踏みつける。男性の頭は床にめり込んだ。



少年「所詮は人間がイメージした体やな。本来の力の10分の1も出せへん……お前らの想像力だけやなく、体そのものをオレに寄越せや」


男性「……神は我々に永遠の命を与えてくださると……」


少年「オレは本体オリジナルを模して描かれた絵。劣化コピーみたいなもんや。そんなけったいなことできひん」


男性「……そんな」


少年「せやけど、お前らはオレをこの世に具現化し続けるエネルギー源として、オレの体の中で生き続けられるでぇ」


男性「……ですが」


少年「オレの体内こそ最も平和で安全ってわからへんの?地球上のどの生物よりも長く生きられる場所やで。オレに命を狙われることがないんやからなぁ」


男性「……承知しました。この身、喜んで差し上げます。我らが神・



ポコポコ様と呼ばれた少年の頭が風船のように数十倍に膨らむ。そして巨大な口で、ひざまずく人々を一人残らず丸呑みにした。


膨らんでいたポコポコの頭が元のサイズに戻る。


ポコポコ「全然足りひん。もっと人間を食って力を蓄えんとなぁ」



<想像力の化身-完->

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