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想像力の化身③

ヒロコの案内で美術室にやって来た心霊同好会と生徒会。教室の奥、白い布がかけられたキャンバススタンドの前に並んで立つ。



ヒロコ「もう飛び出してこないようにと、布をかけておいたのですが……あまり効果がなかったみたいで」


フミヤ「絵を見せてくれ」



ヒロコは布を取って、キャンバスを露わにする。サイドチェストのポーズをした笑顔の筋肉モリモリマッチョマンが描かれた油絵。



フミヤ「コズエさん、この絵を見て何か感じるか?」



コズエが1歩前に出て、キャンバスに顔を寄せる。



コズエ「……わずかに邪気をまとってますね。幽霊の気配みたいなものです」


カズヒロ「シゲミはどうだー?」


シゲミ「私も邪気を感じる」


トシキ「じゃあコズエちゃんが言ってることは本当か」


コズエ「どういう理屈かわからないっすけど、怪現象の原因はこの絵っぽいっすね。試しに除霊してみます」


フミヤ「頼んだよ。そしてモトヨシ!心霊同好会が自分の立場を守ろうとコズエさんの邪魔をしないか見張ってろ!特にシゲミさんの動きをな!彼女は何をやらかすかわからん!」


モトヨシ「アイサー」



モトヨシはシゲミたち心霊同好会とヒロコの前に仁王立ちし、コズエに触れられないよう立ち塞がる。



サエ「何もしないって〜。ねぇシゲミ?」


シゲミ「うん。C-4も手榴弾も全部実験室に置いてきたから何もできない」



コズエはキャンバスの前で正座をすると、ブレザーのジャケットの右ポケットから5枚の札を取り出し、等間隔で床に並べる。その様子を背後で腕組みをしながら見守るフミヤ。



コズエ「では除霊術を始……め……」



コズエの言葉が途中で止まる。直後、コズエは顔を上に向け大きく口を開けた。口から白くて丸い塊が抜け出ると、空中を浮遊し、絵の中に吸い込まれていった。息を切らし横座りになるコズエ。



トシキ「シゲミちゃん!今の何!?」


シゲミ「わからない……具現化した魂、エクトプラズム?でもコズエちゃんの意識はある……魂が抜け出たわけじゃない……?」



シゲミやフミヤ、美術室にいる全員がコズエと同じように顔を上に向ける。体の自由が利かない。そしてそれぞれの口から白い塊が吐き出され、宙を舞いながら絵に吸収された。全員、強い疲労感に襲われその場に膝を付く。



サエ「何なの……体から何かが出ていった……」


ヒロコ「絵……私の絵が!」



ヒロコの言葉を受け、視線を絵のほうに向けるシゲミたち。絵の前に、筋肉モリモリマッチョマンこと、エイドリアン・シュバルツベッガーがサイドチェストのポーズをしながら笑顔で立っていた。



カズヒロ「で、出た……」


フミヤ「本当に……絵から筋肉モリモリマッチョマンの変態が……コズエさん、除霊を!」



コズエは正座の体勢に戻り、顔の前で両手を合わせ念仏を唱える。しかしエイドリアン・シュバルツベッガーに変化はなく、笑顔でポージングしたまま。



エイドリアン「ハッ!」



エイドリアンはサイドチェストからモストマスキュラーにポーズを変える。その瞬間、エイドリアンの体から大量の邪気が放出され、コズエは大きく弾き飛ばされた。コズエの体はフミヤに当たり、2人とも床に倒れ込む。



フミヤ「コズエさん……大丈夫か?」


コズエ「私は大丈夫っす……でもあの幽霊、強過ぎます……私の力じゃ除霊できない……」


フミヤ「そんな……」



うろたえるフミヤとコズエ。そんな2人の前にモトヨシが歩み出て、エイドリアンと向かい合う。



エイドリアン「Oh……!You、素晴らしい筋肉ですね!どうです?僕と筋肉バトルをしませんか?」


モトヨシ「……受けて立ちます」



エイドリアンは微笑んだまま、モストマスキュラーからフロントラットスプレッドへポーズを切り替える。一方モトヨシはフロントダブルバイセップスで対抗。モトヨシの筋肉が大きく膨れ上がり、上半身のジャージをビリビリに破った。



エイドリアン「ハァァァァァ……ッ!ハイヤッ!」


モトヨシ「おぉぉぉぉぉ……ッ!ソイヤッ!」



至近距離で繰り広げられるポージング対決は拮抗していた。



シゲミ「くっ……うかつに近寄れない……なんてハイレベルな勝負」


フミヤ「行けぇぇ!モトヨシぃ!コズエさんがやられた今、お前だけが頼りだぁ!」


コズエ「切れてます!モトヨシさん切れてます!ナイスバルクっすー!」


ヒロコ「描きたい……あの上腕二頭筋!腹斜筋!広背筋!絵に残したい!」


カズヒロ「つーかよぉー、この対決に勝ち負けあんのかー?」



筋肉のチョモランマと化すエイドリアンとモトヨシ。



サエ「あのさぁ、私らどうすればいいの?意味不明な状況なんだけど」


トシキ「ボディビルには声援が必要……モトヨシくんを応援するんだ!いいぞーモトヨシくん!デカいぞー!筋肉の6世帯住宅!」


シゲミ「マッスル大博覧会!」


カズヒロ「背中に鬼の顔が浮かび上がってる!……ってこんな感じでいいのかー?」


サエ「恥ずいけど……よっ!筋肉のダウンジャケット!冬になったら肉ごと剥いでユニクロで販売してよー!」


ヒロコ「もっと見せてぇー!私の脳という筋肉も活性化させて、その肉体を脳裏に力いっぱい刻みつけてぇー!」



背後からの応援を受け、モトヨシの筋肉が1.35倍ほど肥大化する。各筋肉の大きさだけでなく、血管の浮かび上がり具合、肉と肉の溝の深さ、スジの入り方……ボディビルの知識がないシゲミたちでも一目瞭然なほど、モトヨシの筋肉がエイドリアンを圧倒していた。



モトヨシ「……どうですぅ?俺の筋肉はぁ?」


エイドリアン「フ、Fu●k!僕の……負けだぁぁぁ!」



エイドリアンの体が絵の中に吸い込まれていった。その瞬間を見逃さなかったシゲミ。立ち上がってジャンプし、エイドリアンの絵を右足で蹴り、貫いた。


キャンバスから足を引き抜くシゲミ。



シゲミ「ヒロコちゃん、ごめんなさい。絵をダメにしてしまって。でもさっき言ったように、これしか対処法がないの」


ヒロコ「……構いません。絵はまた描けばいいだけです。それにエイドリアン・シュバルツベッガーより素晴らしいモチーフを見つけましたから。もっと良い作品ができそうです」



ヒロコはモトヨシの左腕にしがみつき、頬ずりをした。

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