化学実験室の入口扉のほうへ視線を向ける、心霊同好会の4人とヒロコ。扉を開け、2人の男子生徒と1人の女子生徒が入室し、シゲミたちのところへ歩み寄ってきた。
3人の先頭に立つのは、黒髪をヘアジェルで固めてオールバックにした男子生徒。頭はゴキブリのように黒光りしている。身にまとうブレザーとは不釣り合いなヘアスタイルだ。
オールバック男子の左後ろには、学校指定の紺色のジャージを着た、角刈りで筋骨隆々の大柄な男子生徒。身長は190cmを優に超えており、体重は100kgでは収まらないだろう。ジャージは今にも張り裂けそうだ。
右後ろには暗い茶髪をポニーテールにした女子生徒。眠そうに目を細めている。
トシキ「キミたちは……たしか生徒会だよね?」
オールバック男子「そのとおり!全校生徒が僕らのことを知っている!だから名乗る必要はないよな?」
カズヒロ「いや名乗ってくれ。アンタが思ってるほど、生徒会って誰も興味持ってないから」
意外な返答を受け、オールバック男子の表情が歪んだ。咳払いをし、すぐに平静を取り戻す。
オールバック男子「僕は
モトヨシ「どうも」
フミヤ「そしてもう1人は書記を務めるコズエさんだ!新進気鋭!現生徒会唯一の1年生!」
コズエ「新進気鋭って……会長、私そんな熱意ないっすよ。生徒会は内申点欲しさに入っただけっすから」
サエ「で、その生徒会ご一行様が私らみたいな木っ端の同好会に何の用〜?」
フミヤ「同好会ではなく、2年C組のシゲミさんに用があるのだ」
シゲミはピューマのように鋭い目つきでフミヤをにらみつける。シゲミの威嚇に動じることなくしゃべり続けるフミヤ。
フミヤ「シゲミさん、キミは学校内に爆発物を持ち込んでいるそうじゃないか」
シゲミ「ええ、そうよ」
フミヤ「ふん。開き直って隠すことすらしないか……キミの爆発物によって校舎の一部が破損している」
シゲミ「仕方ないの。怪異を駆除するためだから」
フミヤ「知っているよ。キミは除霊のために爆発物を使っているのだろう?生徒からの相談を受けて。今まさにその話をしていたようだね」
フミヤはヒロコのほうに視線を移す。モジモジと顔を背けるヒロコ。
フミヤ「生徒を救っていることに免じて先生たちは見て見ぬ振りをしているようだが、僕は生徒会長として校内での危険行為を見過ごすわけにはいかないのだ!シゲミさん、キミの爆発物使用を生徒会長権限で禁止させてもらう!」
カズヒロ「ちょっと待ってくれよ!シゲミが爆弾を使えなくなったら怪異が野放しになっちまう!この学校、危ない怪異がおかしなくらいウヨウヨしてるんだ!死人が出るかもしれないぜー!」
フミヤ「校舎が壊れるのも死人が出るのも困る……しかし心配無用!今後、怪異の駆除は全て生徒会が請け負う!正確には、書記のコズエさんがな!」
トシキ「……いや、やめたほうがいいよ。危ない怪異のことは、同じくらい危険なシゲミちゃんに任せておきなって。毒をもって毒を制すって言葉もあるし」
フミヤはトシキに向かって、左手の中指を立てる。
フミヤ「舐めてもらっちゃ困るなぁ!コズエさんは先祖代々続く除霊師の家系の生まれ!そして彼女も除霊術を身に付けている!」
コズエ「そうなんす。小さい頃から嫌々やらされてきたんすよね、除霊」
フミヤ「コズエさんの除霊は爆弾など必要としない!校舎を壊すことなく安全に遂行できる!コズエさんがいればシゲミさん、キミなどお払い箱なのだよ」
黙るシゲミ。友人がバカにされていると感じて腹を立てるカズヒロ、サエ、トシキだが、フミヤの指摘がもっとも過ぎて言い訳ができない。奥歯を噛みしめながら、サエがなんとか反論を絞り出す。
サエ「本当に除霊できるの〜?シゲミは実績があるけど、コズエちゃんが除霊したなんて話、聞いたことないし〜」
フミヤ「そう言うと思ったよ……では実際にコズエさんの実力を見てもらおうじゃないか!美術部のヒロコさんの相談を、コズエさんが解決する形でね!それでどうだ?」
ヒロコ「えっ……ま、まぁ、私は構いませんが」
トシキ「……シゲミちゃんは?」
シゲミ「いいわよ。結果的に筋肉モリモリマッチョマンの変態の幽霊を駆除できるのなら、私がやってもコズエちゃんがやっても同じだから」
勝ち誇ったように笑みを浮かべるフミヤ。
フミヤ「コズエさんが除霊できた暁には、シゲミさんが持っている爆発物は全て没収し、今後は生徒会に無断で除霊することを禁止させてもらう」