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想像力の化身①

PM 3:41

市目鯖しめさば高校 化学実験室

実験用の大きな黒いテーブルを囲んで座るカズヒロ、サエ、シゲミ、トシキ。放課後、化学実験室は心霊同好会の活動場所となる。


4人は今週末にどこの心霊スポットを探索するか、話し合いの真っ最中。



トシキ「前に行ったトンネルみたいに、僕たちに危険が及ぶような場所はやめようよ」


カズヒロ「いや、多少のリスクを冒してでも怪現象が起きる場所に行かないと、心霊同好会の名折れだろー」


トシキ「怪現象っていっても危なくないものもあるじゃない。例えば……小さいおじさんが出てくるとか、写真を撮るとオーブがたくさん写るとか」


カズヒロ「そんなショボいの見ても満足できねぇって。それに、ウチらには爆弾魔・シゲミがついてるんだから心配ねーよ。どんどん危険な場所に行こうぜー」


シゲミ「私ができることにも限界があるというのをお忘れなく」


サエ「話の流れぶった切るけどさ〜、心霊スポットとか関係なく海行きたいんだよね〜。なんかこう、すっごい広い自然に触れて、日頃のストレスを発散したいっていうか〜」


カズヒロ「海かー、いいねー!つーか海辺の心霊スポットも探せばあるんじゃねー?」


トシキ「うん、たぶんあるよ」


カズヒロ「それじゃあトシキ、探しといてくれ。良さげな場所があったら次の探索地に決定なー」


トシキ「また僕が雑用か。世知辛いねぇ」



4人の意見がまとまったところで、実験室の入口扉が外から3回ノックされた。カズヒロが「はーい」と大きな声で扉の向こうにいる人物に呼びかける。扉がスライドし、外から市目鯖高校のブレザーを着た小柄な女性生徒が入ってきた。長い黒髪を後ろでお団子結びにし、赤いフレームのメガネをかけた女の子。心霊同好会の誰とも面識がない。



カズヒロ「あのー、何か用ですかー?」


女性生徒「すみません、お邪魔して。ここ、心霊同好会の活動場所ですよね?シゲミさんに相談があって来ました」


シゲミ「私に?」


トシキ「ってことは、幽霊に関すること?」


女子生徒「まだよくわかっていないのですが、おそらく……」


サエ「じゃあウチらの専門分野じゃん!話聞くから、座りなよ〜」



サエが空いている椅子に座るよう促す。女子生徒はシゲミたちが使っている机のすぐそばにある椅子に腰掛けた。


女子生徒はヒロコという1年生で、美術部に所属している。これから自分が話すことをシゲミたちに信じてもらえるか、半信半疑という面持ちでヒロコは口を開いた。



ヒロコ「私が描いた油絵のモチーフが、たまに絵の中から飛び出して学校内をさまよってるみたいなんです……皆さん、『筋肉モリモリマッチョマンの変態』のウワサ、ご存じですよね?」


トシキ「もちろん。最近学校内で目撃されてる幽霊だよね?突然現れてモリモリの筋肉を見せつけてくる、ブーメランパンツ一丁のおっさんの幽霊」


サエ「私も聞いたことある〜。実際に見たって言ってるクラスの子もいるよ〜」


カズヒロ「先生も見てるらしいなー」


ヒロコ「その筋肉モリモリマッチョマンの変態、私が2週間くらい前に描き上げた絵のモチーフとそっくりなんです。アメリカのボディビルダー、エイドリアン・シュバルツベッガーが、ブーメランパンツ姿でサイドチェストのポーズをしている絵で……ウワサが出回り始めたタイミングも、私が絵を描き上げた時期と重なってて……」


シゲミ「エイドリアン・シュバルツベッガーは生きている人よね?生き霊……とも考えられるけど、日本の市目鯖高校に出現する理由がない。妙ね」


ヒロコ「そうなんです。で、絵は美術室に飾っているんですけど、昨日の部活動中にふと見たら絵の中からエイドリアン・シュバルツベッガーが消えていました……でも今日見たら、絵の中でしっかりサイドチェストを決めているんです」


カズヒロ「だから『絵から飛び出している』って考えたのかー」


ヒロコ「私の見間違いかもしれませんが……」



シゲミはヒロコの表情を観察する。深刻そうで、ウソを言っているようには思えない。



シゲミ「私が力になれるかどうかわからないけど、その絵を見てみましょう」


ヒロコ「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」


シゲミ「ただし、その筋肉モリモリマッチョマンの変態の幽霊を駆除するとしたら、絵を破壊するか、飛び出したモチーフを爆破しないといけなくなるでしょうね。どっちみち絵画としての価値はなくなってしまうけど、良いかしら?」



数秒うつむくヒロコ。



シゲミ「……話を聞く限りでは、無理に駆除しなくていい気もするの。筋肉を見せつけてくるだけで実害はないわけだし」


カズヒロ「……実害がないって言っていいのかー?突然目の前でポージングされたらビックリして、気絶しちゃうかもしれいぜー?」


サエ「大事な部分は隠してるけど、ほぼ生まれたままの姿で校内をさまよってるのもグレーだよね〜。超ブラック寄りのグレー」


トシキ「ヒロコちゃんには申し訳ないけど、僕はそんな変態許せないな。自分の欲求を無理やり満たそうとするなんて、強姦魔と変わらないじゃないか」


シゲミ「……私、少数派?」



顔を上げるヒロコ。先ほどまでおどおどとしていたその顔は一変、強い覚悟がうかがえる。シゲミたちにもヒロコの心の中が伝わってきた。



ヒロコ「わかりました。シゲミさん、私が描いたエイドリアン・シュバルツベッガーを始末してください。絵ごと壊してもらっても構いません」


???「ちょっと待てぇい!」



ヒロコがシゲミに幽霊の駆除を依頼した瞬間、化学実験室の入口から男性の声が響いた。

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