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三者面談②

魔王ペアレント・トモミの口撃を受け、たじたじになる怠岡だるおか。苦手意識があったシゲミのほうが何倍もマシに思えてくる。内心、これ以上トモミと言葉を交わしたくなかったが、シゲミについて絶対に避けられない話題が残っている。



怠岡「お母様は把握されているかどうかわかりませんが……シゲミさんはその……学校に爆発物を持ち込んでいるようでして」


トモミ「はい。シゲミには家業を手伝ってもらっています。その都合上、爆発物を持たせているのです」



「いやお前が積極的に持たせてたんかい!」と心の中でツッコミを入れる怠岡。しかし口には出せない。もし言えば、トモミから手痛い反撃を食らうことは確実。怠岡は落ち着いて次の言葉を選ぶ。



怠岡「……家業というのは、幽霊退治のことですよね?怪現象に悩む生徒をシゲミさんが助けたという話は、私たち教員の耳にも届いています」


トモミ「おっしゃるとおり。我が家は私の母の代から怪異専門の殺し屋業をしておりまして、私も殺し屋です。怠岡先生、怪現象にお困りのときはぜひご連絡ください。娘の担任ということで、1割引きで駆除の依頼を請け負います」


怠岡「お気遣い感謝いたします……ただ、シゲミさんが幽霊退治のときに使う爆発物により度々校舎が破損しておりまして……」


トモミ「あらそうでしたか。それはいけませんね。シゲミ、怪異と戦闘する際は余計な破壊を避けろと何度も言ってきたはずです」


シゲミ「……怪異を消すには膨大なエネルギーをぶつける必要があるって、母上が教えてくれたことでしょ?音とか熱とか。だから武器として爆弾がピッタリなの」


トモミ「エネルギーを生み出す手段なら他にもあるでしょう?強い光を発する閃光手榴弾を使いなさい。光エネルギーなら校舎を破損することはありません」


シゲミ「閃光手榴弾だとどうも倒した実感がなくてスカッとしないのよね」



日本とは思えない武器談義が目の前で繰り広げられ、怠岡は呆然とする。もうこの親子には関わらず、放っておくのがベストだと考えることにした。



怠岡「と、とにかくお母様からシゲミさんへの指導をよろしくお願いします。校舎だけでなく生徒にも危害が及ぶ可能性がありますので」


トモミ「はい、閃光手榴弾を持たせるようにします」


怠岡「そういうことじゃないのですが……対処はお任せします。私からお話しすることはありません。これにて面談は終了です」



怠岡が椅子から立ち上がる。ほぼ同時に教室の後ろ側の扉が勢い良く開いた。3人の視線が扉のほうに集まる。


外の廊下から学ランを着た男子学生が入って来た。五厘刈りで顔色は真っ白。目が細く、唇を三日月のように曲げて笑っている。学生だが、その顔に見覚えがないシゲミ。そもそも市目鯖しめさば高校の生徒は男女とも学校指定のブレザーの着用が義務づけられている。学ランを着ているということは他校生だ。


男子学生が歩くたびにグジュグジュという音が鳴る。そして教室内にアンモニア臭が微かに広がったことから、男子生徒が失禁しているのだと悟るシゲミとトモミ。



怠岡「キミ……何の用だね?どこの学校だ?勝手に入って来ちゃダメじゃないか!」


男子学生「覚えていないのか……怠岡……愚図め……」


怠岡「愚図だと?私の何を知ってる!?誰なんだ貴様は!」


男子学生「32年前……お前の熱血指導という名の……自己満足に付き合わされ……自殺した生徒……覚えていないか……?」


怠岡「32年前……自殺……まさかお前、柏議かしわぎか!?柏議 トシオ!?」



怠岡の表情が引きつる。柏議 トシオと呼ばれた男子学生はじりじりと怠岡との距離を詰める。シゲミとトモミの目に、トシオが右手に握る日本刀が映った。



怠岡「お前は死んだはず……」


トシオ「ずっと探していた……怠岡……地獄へ道連れにするために」



腰を抜かし、机と椅子をひっくり返す怠岡。トシオは日本刀を両手で握り、振り上げる。



トシオ「道連れ……道連れ……地獄への道連れだAnother One Bites the Dust……」


シゲミ「母上、あの子」


トモミ「ええ。この世ならざる者……怪異ですね」



トモミが椅子から立ち上がり、怠岡とトシオの間合いに割り込む。



トモミ「シゲミ、怪異を始末するのに閃光手榴弾でも充分だというのを見せてあげましょう」


トシオ「どけ……どけ……どかないと……お前も道連れ……地獄への道連れだAnother One Bites the Dust……」


トモミ「アナタと怠岡先生の間に何があったのか知りません。が、これ以上憎しみに囚われ続けるのはやめなさい」



トモミはスカートをまくり上げると、右太ももにベルトで巻き付けていた閃光手榴弾のピンを抜き、トシオに投げつける。


トモミの動作を見たシゲミは机の上を飛び移って怠岡のもとへ素早く移動すると、後ろから怠岡の両目を手で抑え、自身も目をつむった。


閃光手榴弾が破裂し、教室内を光が包む。強い光エネルギーに当てられたトシオの体は、光が消失するのに合わせて霧散した。


目を開け、怠岡の顔から手を離すシゲミ。怠岡は息を大きく切らしている。



トモミ「……おやすみなさい」



トモミは怠岡のほうに振り向き歩み寄ると、左頬に平手打ちを食らわした。机を跳ね飛ばしながら床を滑る怠岡。トモミの平手打ちは、オスのニシローランドゴリラ並みの威力を誇る。



トモミ「さっきの子の代わりです。事情はわかりませんが、怠岡先生に一発お見舞いしたほうが良いと判断しました」



怠岡は白目を剥き、口からよだれを垂らしながら意識を失った。



シゲミ「ちょっと母上、やり過ぎ。私、先生に目をつけられちゃう」


トモミ「心配要りません。私の平手打ちを食らった人間は必ず前後不覚になりますから。怠岡先生が目を覚ましたとき、この三者面談の記憶すら残っていないでしょう。それよりシゲミ、閃光手榴弾の力、見ましたか?大抵の幽霊なら閃光手榴弾だけで追い払えるのです」


シゲミ「あまりにも光が強くて目を閉じてたから見てませーん」



シゲミとトモミは気絶した怠岡を椅子に座らせ、倒れた机や椅子を元通りに戻し、C組の教室を後にした。


翌日、怠岡は校長に辞表を提出した。退職の理由について怠岡は「よくわからないが、これ以上教師を続けるのが恐ろしくて堪らない」としか語らなかった。



<三者面談-完->


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