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永遠のトンネル②

トシキ「……あれ?カズヒロー?サエちゃーん?シゲミちゃーん?」



3人を見失ったトシキは、トンネルの暗闇に向かって大声で名前を呼ぶ。しかし誰からも返答がない。



トシキ「本当に置き去りにするなんて……クズどもが!アイツら、合流したら全員僕のケツにキスさせてやる!」



3人を小走りで追いかけるトシキ。だがいくら進んでも3人の背中が見えない。ただひたすら闇が続いているのみ。



トシキ「……どうなってるんだ?……アイツらも走ってるのか?どこまでも僕をコケにしやがって!」



トシキは体力を温存するためにスピードを落とす。ゆっくりとしたペースではあるものの、来た道を30分は戻った。しかしカズヒロたちどころか、トンネルの入口にもたどり着けない。



トシキ「どうなってる……?入口にも出口にも……行けない……なんて……」



膝から崩れ落ち、両手を地面につくトシキ。手にしていた懐中電灯とハンディカメラがカラカラと音を立てて前方へ転がっていく。トシキの体は立っていることすら難しいほど疲弊していた。



トシキ「くそっ……僕は諦めんぞ……小6の修学旅行で置き去りにされたとき……奈良から東京まで徒歩で帰ったんだ。そのときに比べたら屁でもない……僕の底力を舐めるなよ……」



立ち上がろうとするが、地面についた両膝と手が滑り、上手く力が入らない。地面がヌメヌメとしている。右手を顔の前まで持ってきて開くと、透明な液体が付着していた。



トシキ「なんだこれ……ローション?」



トシキは手足を滑らせ、地面にうつ伏せで倒れた。動いていないのに、四つん這いの体勢すら維持できないほど激しく体力が削られていく。全身に力が入らなくなり、口からはよだれがしたたる。暑さや疲労だけで発生する症状ではない。何かが体を蝕んでいると感じるトシキ。


無理やり体を起こそうとするが、すでに指先を動かすことさえもできくなっていた。「これ以上ここにいたら危険だ」と頭ではわかっているのに、体が言うことを聞かない。意識もだんだんと薄れてきた。


トシキの体が機能停止へと近づく。意識が途切れ、まぶたを閉じかけた直前、大きな爆音がトシキの鼓膜を揺らした。



トシキの目の前、トンネルの壁面が砂煙を立てて崩壊し、シゲミが現れた。シゲミは右脇に、ぐったりとうなだれているサエを抱えている。トシキの傍らにしゃがみ込み、体を揺するシゲミ。



シゲミ「トシキくん、しっかりして。私一人じゃサエちゃんを運ぶのが限界。自力で立って」


トシキ「シ……ゲミ……ちゃん……」


シゲミ「早くこの気持ち悪いトンネルから出るわよ。このトンネルは生きている。器官のようにいくつにも枝分かれして侵入者を迷わせ、徐々に栄養を吸っている」



トシキはシゲミの左肩につかまりながら体勢を起こし、座り込む。



トシキ「トンネルが生きている……?」


シゲミ「私たちは猫跳ねことびトンネルに喰われた。いや自分たちから飛び込んでしまった。出口がないトンネルのお腹の中に」


トシキ「出口がない……ならどうやって出るの……?」



フラフラと立ち上がるトシキ。シゲミは先ほど破壊した壁と反対側の壁に近づくと、左肩にかけたスクールバッグから四角い物体を取り出し、壁に貼りつけた。C-4プラスチック爆弾だ。



シゲミ「出口がないなら作れば良い」



シゲミはスカートの右ポケットに入れた起爆スイッチを押した。C-4が轟音を立てて壁を破壊する。サエを抱えたまま破壊した壁の向こうへと駆けるシゲミ。トシキもその後を追う。


壁の向こう側もトンネルになっており、カズヒロが仰向けで倒れていた。トシキがカズヒロの左頬にビンタを見舞い目を覚まさせると、肩を貸して一緒に立ち上がる。その間にシゲミは再びC-4を壁にセット。爆破させて抜け道を作った。


シゲミが爆破した壁の先にも、やはりトンネルが続く。シゲミの言ったとおり、トンネルは何本にも枝分かれしていた。トンネルの隣にはまた別のトンネルが伸びている。


C-4で繰り返し壁を破壊し続けるシゲミ。カズヒロを救出してから5回目に壁を破壊したところで、暗い森の中に出る。枝分かれしたトンネルのうち、最も外側にある壁に横穴を空け、脱出することができた。


蒸し暑さから解放され、尻餅をつくトシキ。トシキに支えられていたカズヒロも一緒に地面に倒れ込む。倒れたときに顔を地面にぶつけた衝撃で、ハッキリと意識を取り戻した。シゲミに抱えられていたサエも目を覚ましており、地面にへなへなとしゃがみ込んだ。



シゲミ「想像していた以上に危険な場所だった……あと数分脱出が遅れていたら、全員トンネルに飲み込まれていたわね」


カズヒロ「助かったぜシゲミ……ありがとなー」


サエ「さすがシゲミだよね……爆弾使ったのにはビックリしたけど……」


トシキ「人間を迷わせ、養分にして生きるトンネルか……ウワサは真実だったってことだね。僕たち以外にも被害者が大勢いるんだろうな……」


サエ「でももう大丈夫でしょ?シゲミが壊したから」


シゲミ「いや」



シゲミは手にした懐中電灯で、4人が出てきたトンネルの横穴を照らした。コンクリートがスライムのようにモコモコと広がり、穴がひとりでに塞がっていく。


シゲミ「修復している……いや治癒している。猫跳トンネルは生きているから、自己治癒力があるんだわ」



1分程度で穴は完全に塞がった。



シゲミ「猫跳トンネルを破壊することは不可能……『近寄らない』。それだけがこのトンネルの対処方法」



充分に体を休めた後、シゲミたちは下山した。



<永遠のトンネル-完->


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