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「我、未知の生命体と遭遇す!?」
「我、未知の生命体と遭遇す!?」
黒鯛の刺身
SF宇宙
2025年01月17日
公開日
5,058字
完結済
 未知の生命体との接触ために製造された機械生命体AAA。
 彼は調査対象である惑星に目指して長い旅に旅立つ。
 そして、その惑星に住む未知の生命体への対処のすべても任された。
 とり得る選択肢には、痕跡をも残さぬ虐殺をも……。
 彼は、その長い旅路の果てに何を思うのか!?

第1話

 私の名はAAA。

 人々に作られた人型機械生命体である。


 私の前職は戦闘用マシン。

 主に衛星や宇宙ステーションにて勃発した独立戦争を戦うために作られた。


 だが、戦闘だけに特化したわけではない。

 時に積載していた自立型高性能AIを駆使しての交渉。

 さらには、発電用の次世代ダム建設から農業プラントの設計まで、幅広い用途を可能としていたのだ。


 それらをもとにして8か月の改装を施しての今の体に作り替えられたのである。


◇◇◇◇◇


 現在の全長は約86m。

 体重は秘密。

 例えるなら中規模なコンテナ船や、そこそこ高いビルといった感の大きさである。


 外郭の材質は高硬度セラミックを使用した複合装甲。

 熱対策に鏡面皮膜を施し、外郭部内部にも循環水路を張り巡らせてある。


 さらには高精度の送受信機。

 私は、そんないろいろな最新設備を装備した宇宙戦略用の自立制御型の巨大なメカなのだ。


 今回の改造の目玉は巨大推進器。

 なにやら、途方もなく遠い地への旅路が待っているというのだった。


 私は使命という名の作戦データを、光式電算機に入力され出発の時を待った。


◇◇◇◇◇


 出発の時――。

 それは大型の補助エンジンを4つ付けての打ち上げだった。


 私はロケット用の発射場に設置され、出発の時を待つ。

 今回の私の電脳は、メカにふさわしくない人格を持たせてあったのだ。

 それがなぜなのか、今の私には判断できない。


 ……だが、この発射に際して、私は緊張する。

 緊張という感情が初めてで、その存在に感嘆してしまうのであるが……。


「……………3」

「…………2」

「……1」

「0」


「打ち上げ開始!」


 私は補助ロケットのすさまじい推進力を得て上昇。

 一気に白い雲を抜け、大気圏から脱出した。


 眼下には緑の大地。

 見上げると漆黒の大宇宙であった。


◇◇◇◇◇


 私は母星の星系の外縁を抜けたころに、封印されていた作戦データを解析。

 光式電算機で読み解いていく。


 そこで分かったのだが、私は400光年離れた惑星に住む、未知の知的生命体との交渉に向うとのことだ。


 だが、心細いことに、今回の旅路の友であるメインエンジンは核融合推進器。

 性能が悪いわけではないのだが、今回の目的地は遠すぎるのだ。


 この文明の力をもってしても、光の速度には到底及ばない。

 つまり、ゆうに目標には400年以上の時間を経て到着するということだ。


 よって、私は長く気の遠くなるような時間、宇宙を航行しているのだった。



 ちなみに相手の生命体は、先の調査機によると文化を有し、おそらく我々と同程度のITや核技術を保有しているとの推察だ。


 何故、未知の生命体と通信しないのか?

 そういう疑問はもっともである。


 だが、通信に使う電波は光よりもかなり遅い。

 彼我の距離を考えると、伝えるだけで400年以上。

 返事が返ってくるにも400年以上、計800年以上はかかってしまうのだ。


 もし通信して物別れとなれば、敵に我が本星の位置はバレバレ。

 ひょっとすると強力な核攻撃にさらされ、我が方の文明だけが絶滅してしまうかもしれない。


 さらにいえば、外交により物別れに終わって、こちらから強力な核ミサイルを発射しても、相手の惑星に届くには、早くても400年以上の先。


 つまり相手は400年以上の未来の兵器で迎撃できることになるのだ。

 それはたぶん効果がないであろうことは容易に想像できるのだ。


 そうなれば、永遠の軍拡競争。

 相手を滅ぼすまで、お互い気を休める時間はない。

 何世代にもわたり、相手の知的生命体を滅ぼすだけの技術開発に邁進せねばならなくなる。


 きっとそれは、気がおかしくなるような長い期間になるであろう。

 さらに言えば、その結末は共倒れである可能性が高い。

 文明の兵器たちは、おおむね盾より矛の方が強いからだ……。


 つまり、我々の存在が知られ、友好関係が築けないと判明した瞬間。

 我々は相手の生命体を、この銀河から残らず、かつほとんど時間をかけずに抹殺せねばならないということだ。


 よって、交渉のみならず、私は相手の生命体を滅ぼす判断と、その行使を同時に任されていたのだった……。


◇◇◇◇◇


「……おなかが減ったな」


 私は背中に担いできた保存用カーゴから、おやつ用の軍用レーションを取り出す。

 このおやつ用レーションは機械生命体用に、特に甘く感じる硬度の高い機械油がまぶしてあるウラニウムだった。


 ……あんぐり。


 私は口を大きく広げ、ほおばり咀嚼する。

 規則正しくインプラントされたセラミック臼歯が、鉱石を細かく砕き砂状にして飲み込む。


「元気が出たぞ!」


 私は核融合推進器の速度を上げる。

 速度を上げると、時間の経過速度が変わっていくが、機械生命体の私にはあまり関係のないことだ。


 もし言うなら、時間の経過による故障という寿命の概念があるが、そもそもこの任務が終われば解体されるのだ。

 生き延びて繁殖することを第一とする生命体とは違うのだ。


 ただ、工場の窓から見た、長く生き延びて繁栄することを命題にする知的生命体たちの生活も苦しそうだった。

 生まれてすぐに同腹の兄弟たちと、生存に有利になるための栄養と親の愛を奪い合う。

 長じては、子孫を創るための配偶者をめぐり激しくライバルや友人たちと争う。

 そして貧しく老いては、子供たちにゴミのように廃棄される。


 そんな生き様を見れば、生まれてくるなら、機械生命体がいいのか、知的生命体が良いのかわからない。

 まぁ、知的生命体には、なってみたことがないのでわからないが……。



 いまだ、まわりの宇宙には、遠くに光る恒星が見えるだけだ。

 出発した恒星系を出た私にとって、とてもつらく寂しい時間が続く。


 にぎやかな天体群をみるのは、相手の星系に入るときまでお預けだった。

 それはそれで胸騒ぎが大きくなる案件であったのだが……。


 私は、遠大な航路予定図に従い、再び推進器に加速を命じたのであった。


◇◇◇◇◇


 ……さらに、長い年月が経った。


 私の周りには、岩石の粒などが多く舞い始める。

 それは、相手の知的生命体が住む恒星の星系の勢力圏にはいった証拠であった。


 周囲を通り過ぎる無数の氷の粒。

 この固体である水の中には、いろいろな生命の種が秘められている。


 また、生命が生まれなければ、私のような機械生命体も作られない。

 それはそれで平和なことかもしれないが……。


 そういう意味では、この水という物質の偉大さに畏怖の念さえ感じる。


 また、私の周りに、にぎやかな色を纏いガス状になって漂う炭素も素晴らしい。

 彼らもきっと、知的生命体にはなくてはならないものだ。


「そろそろ寝るか……」


 機械生命体における睡眠。

 それは中枢演算機械をスリープ状態にして、故障個所を診断していく時間である。

 そして、その間に逐一修理していくというものだ。


 宇宙においては、磁場や重力場、そして電磁波などにさらされる。

 その影響を、光式電算機は長時間受けるのだ。

 定期的に診断してメンテナンスするのは、当然のことといえた。


 このスリープ状態の期間。

 もし、高精度電探に衝突可能物質を探知したなら、すぐに中断。

 一気に覚醒状態となり、自動的に警戒態勢となる。


 だが本来、確率的にはそのようなことは起きない。

 人が空を眺めて見えるようには、宇宙に星や物体は存在しないのだ。


 たとえて言うなら、ドーム状の大きな野球場の中に砂が一粒、そんな割合よりはるかに小さいくらいにしか物体は存在しないのだ。


 よって私が宇宙で、超高速でむやみに移動していたとしても、物体と衝突することはまずない。


 だが、もし衝突したら、すさまじい加速度の分だけに、私の存在は一瞬で塵となるであろう。

 そのようなことがないよう、常に予想航路は光を使用した電算機で、安全に安全を重ねて計算されているのだ。


◇◇◇◇◇


 横に巨大なガス状惑星が通り過ぎる。

 彼らは巨大ゆえに、強力な重力と気圧が邪魔をし、生命体は存在できない。


 そして、恒星から遠いことあって、とても寒い。

 しかし、彼の巨大な重力は、危険な小惑星をひきつけ、彼より内側に公転する惑星たちの安全を確保しているのだ。

 よって、彼のような惑星がないと、生命を育む惑星は存在しえないといえるのだ。


「あ~む」


 再び私はおやつを口にする。

 これからは全力で減速をしなくてはならないからだ。


 これまで長い時間かけてきた加速が起因し、このままの速度では、目的地の近くについても、速すぎて止まれないのだ。


 そのため、多量な原子力エネルギーを要しての渾身の逆噴射を開始したのだった。


 減速のGで、頑丈な私の体がミシミシと悲鳴を上げる。

 この急減速は昼夜分かたず、120日間も続くのだった。


◇◇◇◇◇


 次第に各センサーが、目標星系の恒星のエネルギーを強く捉えるようになる。

 恒星風の影響が、磁場をわずかに狂わせてきた。

 横を見れば、彗星が美しい光の尾を作り始めていたのだ。


 急減速の最中。

 多くの小惑星も目に入った。

 彼らは重力が小さいために、球形になることはできない。


 だが、それ故に個性がある生命体のように私には見えてしまう。

 きっと私が出会う知的生命体も、このようなたくさんの個性を育んでいるのだろう……。


 向かう先には、まだ氷をまとった天体が多いが、その氷の覆う面積は減ってきている。

 先ほど見た天体は、氷の下から赤茶けた大地をも現していた。



 私の体の表面にある氷にも、恒星の光を反射して煌めいている。


 ……ああ、もう少しで着くのだな。


 私は長い旅程の終わりを感じ、そして本来の要件である冷徹な決断に臨めるよう意識を高めていくのであった。


◇◇◇◇◇


 目的の惑星の衛星をも視認。

 あらかじめ定められていた手順に則り、写真などの映像をとり、母星へとデータを送信しておく。


 私は推進器の出力を、次第に緩やかな減速へとシフトしていった。


 サブスラスターで位置を微細に調整。

 また、近くの惑星の重力を利用してのスイングバイでの減速を試み、成功裏に終わった。


 もはや航路は完全。

 あとはついた時のための準備をするフェーズであった。



 私は外交用のAI演算機械を起動。

 交渉AI用のGPUが正しく動くのを確認していく。


 私の記憶用電算機には、相手の予想する出方に際し、様々な応答例文を保存していた。

 そのデータを逐一解凍していく。


 ……相手が平和的な生命体であるといいな。

 それが今の私のささやかな願いでもある。



 そして、私は武器の作動確認に入った。


 ……まずは広範囲殲滅用の水爆ミサイルが216個。

 背中の格納庫にVLS形式で収納されている。

 これは相手との交渉が破談した時のためだ。


 知的生命体は少しでも生き残れば、すぐに大量に繁殖する。

 それも報復のためにだ。

 だから、一匹残さずに殲滅することが私の使命であったのだ。


 さらに、劣化ウラン弾を用いた速射ライフルが二丁。

 これは主に護身用の装備である。


 ほかに、肩に装備した460mm長砲身超電磁砲が4門。

 これは威嚇と実力行使に用いる。


 ほかに戦術核を搭載したグレネード等、細かい武器もいくつか装備していた。

 そして、最後の切り札は自分自身。


 残余の核燃料を一気に反応させ、大爆発および大量の放射能物質をばら撒く。

 その死の惑星では、高度な文明を二度と成立させないようにするためだ。


 酷いという者もいよう。

 だがそれが私の唯一無二の任務であり、生きる目的でもあるのだ。


 ……もちろん、友好な関係を築けるなら、母星にすぐに通信。

 この長距離を、技術交流を重ねることで乗り越え、共存共栄を図るのだ。


 ……だが、文明生命体は何度も戦争を起こし、自らを滅ぼしかねない歴史を紡いできた。

 これは、きっと相手にも言えることであろう。


 つまり相手は、友好生命体より、敵対生命体となる可能性が高いと思うのだ。


 そもそも、私はそういう可能性が高いことをもとに設計されている。



 私は、最後の減速に入った。 

 そして、相手の惑星の強力な重力場を検知。

 慎重に衛星軌道上に入った。


 未確認生命体が運用しているであろう人工衛星が山のように浮遊している。

 その向こうには、最終目的地である未確認生命体の住む惑星が、その美しい姿を現したのであった。


◇◇◇◇◇


 私は慎重に、相手の惑星に最初の通信を開始した。

 緊張で循環水が熱くなるのを感じる。


 高性能AIをフル稼働させ、考えうる限りの様々な言語と、様々な周波数を使って発信したのであった。


「……ギギギ、ガガガ」


 ……相手とのチャンネルが次第に構築されていく。


 それに際し、次は言語用AIがフル稼働。

 私の電脳が過熱していくのを感じる。



「……ワ、ワタシハ、AAA。ハジメマシテ、地球ノ皆サン……、…………」


「……コンニチハ! 今日ハ、良イ天気デスネ……」


「………、………」


「…………」


「……」


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