「ラミア、ティラノたちを回復してやってくれるか?」
「当たり前ですわ」
「なんだよ、なに笑ってんだよ」
「亜紀ぴが言っていた通り、あなたも根はやさしいのですね」
「う、うるせぇ。しゃべってないで……」
「はいはい、すぐに回復しますわよ」
照れる初代新生。表情がでて来たとでも言うのか、彼女はみんなと少しずつコミュニケーションが取れるようになっていた。
「ベルノさん、この技はできるだけ使わないようにしてくださいね」
ラミアが持つ魔法杖から薄緑の光がベルノに降り注ぐ。傷だらけの肉球が、ゆっくりとぷにぷにピンクに戻っていく。
「そうしてくれ。ベルノに怪我させたら亜紀っちに顔向けできねぇからな」
「仕方ないのニャ。ベルノも痛いのは嫌なのニャ。だからバカティラノ……」
「な、なんだよ……」
「さっさと技を完成させるニャ!」
藪をつついてベルノがでた。ティラノはバツが悪そうに折れた木刀を見つめていた。
「あとは毛玉ニャ!」
「お、おう、覚悟しやがれ……」
……。
「ニャ……?」
「え~……」
毛玉ことグレムリンがいた“はず”の場所には、乾いた風が砂埃を舞いあげているだけだった。
「逃げやがったニャ!」
「あんの野郎!」
呆れ気味に初代新生が、それでも申し訳なさそうにぼそっと呟いた。
「……まあ、ディザスター構えてた辺りで逃げてたよな」
「一目散……全力疾走。デス」
どうやらティラノとベルノ以外は気がついていたようだ。あえて口にださなかったのは、頭上に
あの場面で集中を切らせたら、どんな大惨事になっていたかわからないのだから。
「そんなことよりティラノさん、腕の治療させてください。あの状況で千切れ飛ばなかったのは奇跡みたいなものなのですよ?」
「ちぎれ……って、怖い事いうなよ、ミアっち……」
♢
「ビョ……ヒョ……」
「お、気がついたみてぇだな」
体を起こし、辺りを見回すバルログ。“負けた”という事実の認識はできていたのだと思う。うなだれ、頭を押さえながら、静かに口を開いた。
「ワシは負ケたノかや……」
「まあ、気にすんな。俺様たちが強かっただけの話だぜ」
「ヒョ……もう帰る事もでキぬ……さっさと殺セ。強き者たちよ」
バルログの言う『帰る事ができない』とは、負けて帰ったら処刑でもされるという意味なのだろうか?
漫画とかでは“悪役を引き立てるために”ありがちな話ではあるけど、実際、命を懸けて戦った者の末路が処刑とかふざけるなって思う。
きっとその感情はみんなに伝わっているのだろう。だからティラノは、”生かすための交渉“をはじめた。
らしくないと言えばそれまでだし、交渉事なんて苦手中の苦手だと思う。それでも、本気で戦った相手への敬意は、誰にも負けていなかった。
「なに言ってんだよ、おっちゃん。死ぬくれぇならよ……」
ティラノは仲間を見渡した。みんなは彼女が言わんとしている事を理解し、笑顔で返す。
「そうですわね、亜紀ぴなら……」
「うん……言うと思う。デス」
それぞれの顔を見て確信したティラノは、バルログに提案を持ちかけた。
これだけの強大な魔力を持った魔族が仲間になってくれるのなら、これほど心強い事はない。
「なあ、よかったら俺様たちの仲間に……」
――しかし! ここでまたもや猫幼女のフリーダムパワーが炸裂する!
「白亜紀の
ティラノの股下から顔をだし、バルログをビシッと指差すベルノ。
「ですから
「ヒョ……いいノかや? このワシを使い魔にしていタだけると?」
「ふっふっふ……それが“ごんたく”なのニャ!」
“じぇんとるめん”とか“ごんたく”の意味が通じていたとは到底思えないが、それでもバルログは晴れ晴れとした表情でベルノを見ると、嬉しそうに口を開いた。
「感謝いたス。小さき神よ」
……バルログも大概ハッタリに弱かったのだろう。
「アホか。なんだよ、この状況は……」
ぐったりとしながら悪態だけは忘れない初代新生。
「マジで訳わかんね……でも」
その場にバッタリと大の字に寝ころび、嵐が去って晴れ渡った空を見上げながらティラノはぼそっと言った。
「なんか、いい気分だぜ」
world:06 あの顔この顔ヤツの顔 (完)
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※多分解説は要らないと思うけど、ベルノは神使(しんし)を紳士(しんし)と思い込み『じぇんとるめん』と表現したという事です。