ティラノの怒りはすでに臨界点を遥かに超えていた。
「てめぇら、覚悟はいいか?」
その
「話は
「あの鳥は……」
自分を必死で助けようとしてくれた鳥。
自分の代わりに瀕死の重傷を負わせてしまった鳥。
今までは『使い捨てる』対象でしかなかった恐竜が、今は最も気にかかる存在となっていた。
もしかしたら鳥の献身的な行動に『母親の持つ無償の愛』を感じたのかもしれない。……と、ウチは勝手に思っている。
「早く回復を……」
「大丈夫ですよ、初代さん」
「頼む、トリス。早くラミアに回復してもらってくれ」
「もう
状況が飲み込めずに言葉を失う初代新生。そんな猫人を横目にトリスは続ける。
「冷静になってくださいな。私は空を飛べるのですよ?」
「……」
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔という表現があるが、この時の彼女にはまさにその表現がぴったりだっただろう。
「あ……くそ、そういう事か」
トリスは鳥を預かるとそのまま壁を越えて中に入り、ラミアにヒールをしてもらっていた。
つまり、ベルノと初代新生が『時間がない』と焦っている時には、すでに一命を取り留めていた。
「トリス……おまえ、急げって言ったよな?『まだ生きているうちに』って」
「ええ」
「なんでそんな事を言ったんだよ」
「あら。やる気がでましたでしょ?」
——策士! ケツァルコアトルスは策士だった!
危機感を煽り味方を奮起させる。これはひとつ間違えれば、大惨事にもなったかもしれない危険なブラフだ。
「じゃあ、おまえら全員……状況わかっていたのか」
ティラノが笑いながら、それでも半分呆れながら言う。
「だから今言っただろ? 話は
「マジか。オレ……足を刺す必要なかったんじゃねぇかよ」
「そんな事ありません。あなたの気持ちはこの鳥、ミクロラプトルにもきっと伝わっていますわ」
——めっちゃ策士! ケツァルコアトルスはめっちゃ策士だった!
真偽定からぬミクロラプトルの気持ちを勝手に代弁し、味方へのブラフを正当化してしまった。
……うん、さすがアンジーの
「そうか、よかった……とにかく、助かっ…たんだ……な」
安心したのか、その場で意識を失い倒れる初代新生。
多分今の彼女には、トリスの言葉を疑う余地は全くなかったのだろう。
「グレ、どうすルのかや?」
「さすがに多勢に無勢だっぺな……」
「逃げるならそれでもかまわねぇぜ。亜紀っちもそう言うだろうからな」
木刀と右肩に乗せながら、しっしっと追い払う仕草をするティラノ。
……しかし、バルログは逃げるどころか不敵な笑い浮かべた。
「いいヨなぁ? ヤっても」
「ああ、かまわないっペ。バルログ、お前様の“解放を許可する”でな」
「なに言ってんだ? こいつら」
「ティラノ……警戒して。デス」
ガイアが警戒を強める。マナから怪しい気配でも感じとったのだろうか?
「なにか……おかしい。デス」
そして、様子がおかしいのはラミアもだった。
「みなさん。ガイアさんの言う通り十分警戒してください」
「どうしたミアっち。顏青いぞ?」
元魔王軍のラミアは『解放』の意味がわかっているのだろう。今までになく真剣な面持ちで、みんなに注意をうながした。
「少しでも危険を感じたら、全力で逃げてください。自分だけ生き残る事を考えて……」