「まずはこの火傷ニャ！」

　初代はつしろ新生ねおの火傷を獲ったベルノは、すぐさまバルログに向けて投げつけた。

　モヤっとフワッとした“痛い”が赤灼の巨人に向けて飛んでいく。

「ヒョヒョ、二度も通用すると思っているのかや？」

「やってみなきゃわからねぇぜ」

　しかし、残念だがこれはバルログの言う通りだった。まったく見えないのならまだしも、モヤっとしたものが見えるのだからかわすのは容易たやすい。

　それならば手数勝負と、ベルノは、次々に“痛い”を吸い獲っては投げる！　投げる！！　投げる！！！

　見えにくい攻撃に注視しているバルログを見て、初代新生は背後に転がり込み攻撃を試みた。

　足元がおろそかになると読んだ彼女は、剣鉈をしっかりと握り込んでアキレス腱を狙い斬りつけた！

「ソれはナにをやってイるのかや？」

　しかし、彼女の一振りはあっさりとかわされてしまう。

　斬るタイミングから体重の乗せ方に至るまで、完璧とはいかないが今の初代新生にとって全てが全力の攻撃だった。

　……ただ単純にバルログの方が一枚も二枚も上手で、その動きを読まれていたという事に他ならない。

　これは、ずっと戦いの中にいたバルログと、平和な時代に生まれた現代人との差だった。

「くそっ……」

「非力。まだソこのガキの方が強いゾ」

　バルログは無造作にカカトを蹴り上げた。この予想外の攻撃にガードが間に合わず、初代新生は脇腹に強烈な一撃を喰らってしまう。

　肋骨の二～三本は逝っただろうか、もしかしたら一瞬意識が飛んだかもしれない。

　しかしその直後、ベルノが“痛い”を奪い獲った。

「喰らうニャ！」

　これにはさすがに慌てた様子のバルログ。“足元の小さいのがなにかを仕掛けて来た”という認識しか持てず、大きくうしろに飛び退いた。

「ふう、危ナい危ナい。マさか脚を狙ってくるとは」

「次は外さないニャ！」

　――ベルノに注意が向いた。

　バルログの視線を確認すると、初代新生は剣鉈を構え直して再度斬りかかった。

　そして初代新生に注意が向くと今度はベルノが仕掛ける。奇しくも、ベルノ・初代コンビは息がぴったりだ。

　しかし、“ダメージを負わないと反撃ができない”。この制限はかなり厳しく、決め手がないのも確かだった。

「オマエら、百年経ってもワシを倒せないゾ」

　ベルノも初代新生も、そんなことは言われないでもわかっていた。ダメージを返して攻撃する以上、相手の攻撃力を上回ることは不可能だからだ。

「だからさ。おっさん、なにか勘違いしてねぇか？」

「ナにを言っテいるのかや？」

「最初からお前を倒す気なんてねぇんだよ」

　――ベルノがペインスローを乱発した理由。　

　――初代新生とベルノがひたすら撹乱した理由。

　――バルログの足元に潜みながら、ベルノがわざわざ声を発した理由。

　初代新生は剣先でバルログのうしろを指し、ニヤリと笑う。

「ベルノは常・に・同・じ・方・向・に・し・か・投・げ・て・い・な・い・んだぜ？」

　バルログは咄嗟に振り返り、剣が指している先を見た。そこには、ペインスローの連続攻撃でヒビが入った土壁の円筒があった。

「ソう言う事かや……だガ残念だったな」

「なにがだ……」

「お前、もウ怪我していナい。投げる“痛い”はもうないダロ」

　バルログの指摘通り、今や初代新生は全快していた。いかにベルノと言えども、投げる“痛い”がなければまったくの無力。

「そしてオラは攻撃をしナいし、土の壁は勝手に修復スる」

　完全に打つ手なし。……しかし、それでも彼女の目は死んでいなかった。

「おい、毛玉！」

「あん？　なんだっぺ？」

「お前、さっきオレがバックアタック仕掛けるのを黙って見てたよな？」

「それがどうしたっペ？」

「……仲間じゃねえのかよ」

　初代新生は、仲間を見捨てた態度のグレムリンと、自分を裏切った友人を重ねていたのかもしれない。

　どこの世界にも平気で仲間を売るヤツがいる事に、どうしようもない憤りを覚えたのだろう。

「はぁ？」

「吐き気がすんだよ……」

　言うや否や右ひざをつき、逆手に持った剣鉈を振り上げる。そして――

「そういうヤツ見てるとな！！」

　叫ぶとともに、自身の左足に剣鉈を突き立てた。鋭い刃は抵抗もなく太ももに刺さる。

　そして初代新生は、痛みに顔をゆがめながら剣鉈を引き抜く。動脈を切った為か、激しく吹きでる真っ赤な血。

「……バカなのか？　オまエは」

「さあ、な……」　

　激痛の中、初代新生が絞りだした言葉が終わるよりも早く、ベルノは、左・手・で・痛・み・を・取・り・、・間・髪・入・れ・ず・に・右・手・で・傷・を・修・復・し・て・い・た・。

　しかしベルノは“痛い”をすぐに投げなかった。

　壁のヒビと自分の間にはバルログがいる。そしてこの一撃で壁を破壊できる。となるとバルログは体を張ってでも“痛い”を止めに来るだろう。

「ギリギリまで走り込むのニャ！」

　三メートルの巨体の足元を、コロコロとスルスルと走り抜ける猫幼女。その素早さにバルログは全く反応できていない。

「タッチダウンニャ！」

　ベルノは左手の”痛い“を軽く放り投げ、壁のヒビと”痛い“が重なった所を右手の”怪我“で殴りつけた。

　融合する”痛いと怪我“。

　――ピシッ

「壊れろ……」

　傷が治ったとは言っても、流れた血が戻ってくるわけではない。出血多量の初代新生は、霞む目で祈るように声を発していた。

　――ピシッ

　その時『オラッ！！』という声と共に、壁は内側から蹴り壊された。そこに立っていたのは怒り心頭、爆発寸前のティラノだ！

「よくやったな、ベルノ、新生ねおっち」

「ティラニャ～……」

　グレムリンとバルログに向き直りながら木刀を構え、ティラノが吠える！

「お前ら……覚悟はできてんだろうな？」