グレムリンはティラノたちが閉じ込められている砂壁の筒をぽんぽんと叩き、笑いながら……多分笑いながら口を開いた。
「助けはこの
「……最初からあいつらに期待なんてしてねぇよ」
この
わかっているのは、”彼女がまともに戦える状態ではない“って事だけだった。
「ヒョォ、こいつまた……」
数分前に初代新生を助けたあの鳥が、再度バルログの顔の前を飛び、耳元で羽ばたき、ことごとく邪魔をし始めた。
「グレ、こいつ止めテくれ」
「だから、届かねえって言ってんだっぺ」
五〇センチもある鳥とは言え、バルログの体躯からしたらあまりに小さな的だ。狙うに狙えず、メチャクチャに杖を振り回すだけだった。
グレムリンは呆れた様子でスルーを決め込んでいた。相方の受難を放置し、改めて呪文の詠唱を始めようと構える。
「くそ、ふざけるな……」
初代新生はうずくまった状態で剣鉈を逆手に持つと、膝立ちのままグレムリンを睨みつける。
その眼には怯えも諦めもなく、ただ、力強い意志だけが灯っていた。
「お前様はもう動けないじゃろ。無駄だとなぜわからんっぺな?」
「てめぇになにがわかるんだよ……」
しゃべり終わると同時に、初代新生は低く
彼女が動けなかったのは確かで、攻撃に転じるなんて不可能だと、敵も味方も思っていた。
――しかしそれは
ティラノが衝撃波でゴーレムを破壊している時、ラミアは一緒になってゴーレムを攻撃していると見せながら、実は衝撃波の陰から初代新生に
それがなければ、今頃はグレムリンの言うとおり、完全に動けなくなっていただろう。
初代新生は先ほどの攻撃で確実にグレムリンを斬った。しかし、なんの手ごたえもなく、するりと抜けてしまっていた。
その原因がわからないうちは、グレムリンに攻撃を仕掛けても同じことの繰り返しになる。
ならば、と初代新生は攻撃対象をバルログに定め、飛び上がると同時にバルログの左脇腹から右肩にかけて下から斬り上げた。
剣鉈のリーチはショートソードと同程度、飛び抜けざまに斬りつけるには十分な刃渡りがあった。
そして今度はグレムリンの時と違い、バルログの脇腹にしっかりと刃が食い込んだ手応えがある。
――いける!
初代新生の中で確信があったのだろう。飛び上がった勢いで、右肩まで一気に斬り上げ、確実に仕留めたと思っていた。
しかしその直後、ジャンプの頂点付近。上がる事も落ちる事もない制止する一瞬。
初代新生はバルログに足首を掴まれ、地上四メートル近い高さから地面に叩きつけられてしまった。
全身が砕けるような衝撃を受けた初代新生は、瞬間的に呼吸が止まり、声を発する事もできなかった。
それでも意識をハッキリと保っていられたのは、左腕を犠牲にしていたからだった。
彼女は叩きつけられる瞬間、左手から接地するように強引に体をひねっていた。これは、自分の命を守る事を最優先とした行動だ。
これは他でもない『生きる』という強い意志が彼女を動かしたのだと思う。
母親のロープを切った時と同様、
「う……ぅ…」
初代新生の“仕留めた”というその感覚は間違っていなかったと思う。
――ただしそれは、相手が“人間だったら”の話だ。
バルログは斬られた傷跡を
「まだ息がアるのかや……」
バルログは足首を掴んだまま初代新生をもう一度振り上げると……無造作に、そして無慈悲に、地面へ振り下ろした。
いくら人間よりも基本能力が高い猫人と言っても、さすがにこれではひとたまりもない。全身が粉々に砕け、死に至ってしまうだろう。
いくら『生きる』という意思が強くても、到底かなわない脅威が彼女を飲み込もうとしたその時――。
「ぎゅぴ……」
今までバルログの邪魔をしていた鳥が初代新生の下に入り込み、クッションとなって全ての衝撃をその身で受け止めていた。
鳥は断末魔にも聞こえるような、それでいて悲鳴にもならない声を発して、動かなくなってしまった。
「なん…で……」
自分が鳥に守られた事が信じられず、唖然とする初代新生。血だらけの鳥を抱きかかえると、力なくぐったりとした重さが両手にかかってきた。
それでも微かな脈動を感じた——まだ生きている。しかし足先が痙攣しているのが見え、このままでは数分と持たないだろう。
「シつこいヤツだな……」
バルログは面倒だという態度を見せながら、とどめを刺そうと杖を振り上げた。
「——ちょっと待つニャ!!」
大空に
ドゴッッッッッッ………………!!!!
「ウゴッ……」
バルログの脳天に“もふもふ玉”がぶち当たった。杖を落とし、両膝をついて頭を押さえるバルログ。
「ベル……ノ……?」
魔王軍の中でも群を抜いた三メートルの高身長、普段頭に衝撃を受ける事のない巨人にとって、これはかなりのダメージだった。
「ネネ直伝、