優先すべきは
しかし彼女とティラノたちとの間にはこれでもかと障害物があった。
ゴツゴツとした大岩と三メートル級ゴーレムに道を塞がれ、更にはその先にグレムリンとバルログがいる。これではすばしっこいベルノでもすり抜けるのはかなり無謀だろう。
「ゴーレムども、こいつらを捕まえるっぺ」
初代新生を取り囲んでいたクレイゴーレムの一団は、グレムリンの指示通りティラノたちに向かって動きだした。
しかし、パワーはありそうだが動き自体はかなり鈍重。どう考えてもティラノたち
「なぁなぁ、アレ殴っていいか?」
「イイと……思う。デス」
「ですわね。生物ではありませんし、破壊してしまいましょう」
そうとなれば行動が早いバトルマニア。ティラノは抜刀術の構えから、のっそりと歩いてくるクレイゴーレムの一団に向かって木刀を振り払った。
——軽い衝撃波がゴーレムの上半身を砕く。
これは、威力を抑えたレックス・ブラストの簡易版。
腰に力を溜めて
アンジーの言う『力のセーブ』の実践と、そして攻撃方向にいる初代新生の安全を考えての選択なのだろう。
ラミアは衝撃波の合間に魔法を放ち、ガイアは
そして一体、そしてまた一体と、
……しかし
「なんだ、こいつら」
「動き……おかしい。デス」
みんなが
そして、いつの間にかティラノたちはクレイゴーレムに囲まれてしまっていた。
「破壊しても動けるだなんて、こんな魔法聞いたことないよ」
魔王軍の事を知るラミアですら知らない魔法とあっては、対処のしようがない。
「お前様方はそのまま大人しくしているっペよ」
囲みの輪が段々と狭くなり、突然ぴたりと止まった。
——直後、クレイゴーレムの身体が崩れ始める。
「これは……マズい。デス」
そして、崩れると同時に盛り上がり、円柱状の壁を構築していく。その壁はどんどんどんどんと競り上がり、四人は、巨大なコップの底に入れられたような状態になってしまった。
「やられました。密集していたのが仇になりましたわね」
最初に事態を重く見たのはラミアだった。この状況がなにを意味するのか。それはグレムリンのやり口を知っているからこそ気がついたのだろう。
「このくらい俺様のレックスブレードで……」
目に見えるほどの
「ティラノさん、ダメです!」
「すとっぷニャ!」
「なんだよ、二人して止めるのかよ~」
「ティラノ……着いて周りを見る。デス」
みんなに止められ、肺に貯めていた息を吐き、周りを見回すティラノ。
直径三メートルほどの円柱状の空間。空は見えるが壁は遥か上まで伸び、それは到底ジャンプして超えられるような高さではなかった。
壁にはサラサラと砂が流れていて掴める場所もない。これを登るのはまず不可能だろう。
さらには普通に殴るだけでは破壊できない厚みのある壁。素材は足元にある無尽蔵の砂だ。軽く小突いてみたが、少しばかり壊してもすぐに修繕されてしまう。
そうなると、やはりここは一撃で破壊するだけの威力のある技が必要ということになる。
「やっぱりレックス・ブレードしか……」
「——ダメですって」
ティラノたちの会話が聞こえていたのだろう、壁の向こうからグレムリンが話しかけて来た。
「ぺぺっ! お前様、ティラノサウルスじゃろ」
「だったらなんだよ」
「それがお前様の弱点だっぺな」
「はあ? 俺様が俺様の弱点とかなに言ってんだ? わけわかんね」
多分、ティラノの技はかなり細かく研究されていたのだと思う。
超絶威力のレックス・ブレードを撃ちだした時、その周りには有り余ったエネルギーが放出される。
もちろん、本人の身体にかかる負担はかなりのもので、それを可能にしているのが暴君・ティラノサウルスの強靭な肉体だ。
しかし今、この中にいるのはそこまで耐久力のある身体を持っている者ばかりではない。ましてやベルノという猫幼女までいるのだ。
「ヒョヒョ、味方を犠牲にシテでもレックス・ブレードとやらを撃テるのかや?」
その一言で“弱点”の意味を理解したティラノ。数十秒前、考えなしに撃とうとした自分を思いだして、冷や汗が噴きでた事だろう。
「毛玉の言う通りニャ」
「こんな狭い空間であなたが全力をだしたら……」
「みんな……巻き込まれる。デス」
技を繰りだした時の衝撃は狭い空間の中に閉じ込められて逃げ場がない。その圧縮された反動ダメージを、四人が四人とも受ける事になってしまう。
ここから脱出できたとしても、ティラノ以外の三人が戦闘不能になってしまったら意味がない。
……まさしく、最恐ゆえの弱点だった。
「さてと、とりあえずこっちの猫人を始末するっぺよ」