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第77話・妄想暴走

 拠点に四人ともいないなんて……


「とにかく急ごう。ティラちゃんたちの安否もだけど……こうなると先行してもらったキティちゃんも心配だ」


 ――まさかすでに手遅れだったのか? 


 この、まったく見えない状況が必要以上に不安を掻き立てて来る。

 それはきっとアンジーも同じなのだろう、トリスの姿が見えない事に、めずらしく動揺しているのがウチにもわかった。


「ねえ、プチちゃん。トリスはどうしたの?」

「えと、少し周囲を見回ってみるって言ってました」

「そっか、わかった……八白さん、私は一旦自分の拠点に行くよ」


 トリスの安否もだけど、アンジーの恐竜人ライズたちも心配だ。ついさっき襲撃されたって話だけど、狡猾な相手って言ってるくらいだから再襲撃もありうる。


 アンジーは『トリスと合流したら適度によろしく』と言い残してスーを連れて拠点に走り去っていった。


「適度ってなんだよ……」


 余計な事に気を回してしまうのは、変えようのないウチのクセだ。それはよくわかっているつもりなんだけど


 ……でもこの状況では、悪い事ばかり想像してしまう。


 あの四人が誘拐されたとか?

 それとも、魔王軍に全滅させられたとか? 


 どちらもありえない。返り討ちならわかるけど。


 う~ん、そうするともしや……


「うう……みんな、かんにんやで~」


 労働環境に嫌気がさして、家出してしまったのかもしれない。


「マ、マスターさん、一体なにが……」

「姐さん、なぜ涙目なんスか」

「き、君たちはウチを見捨てないでおくれ~」


〔はぁ、相変わらずですわね。また妄想暴走ですか〕


 ……ぐすんっ。





 そろそろ拠点も近くなってきて、ウチたちは身構えながら進んだ。

 首が痛くなるくらい右へ左へと頭をうごかし、目ん玉が飛びでるくらい周囲をガン見したんだけど……


「なんか変ですわね……」


 タルボがぼそっと呟いた通り、これは……なにかおかしい。というか、なにものだ。


「まったく、いつも通りっスね」

「そうなんだよね。なにも変わってない」


 襲撃を受けたのなら、なにかしら戦闘の跡が残っていてもいいはずだ。それなのにまったく普段通り、木が折れているのでもなく、大地が踏み荒らされている訳でもなかった。


 ――おかしくなっていないのがおかしい。


 それはウチたちの拠点“しっぽの家”を目前にしても変わらず、警戒して進むのが馬鹿みたいに思えて来た。


 宴会ハウスの前にキティが見える。彼女は辺りを見回し、地面を調べ、異常がないかチェックしているようだ。


「キティちゃん、様子はどう?」

「誰もいないだすな(キリッ)」

「争った形跡もないね」

「よし、二人一組で周囲を探そう。ルカちゃんとキティちゃんで東側を。ウチとタルボちゃんで西。プチちゃんは空から探索してみて」


 とにかく周辺を調べてみないと始まらない。なにかちょっとの痕跡でもいいんだ、それさえ見つかれば……。


「こういう時にガイアちゃんがいてくれたらな~」

〔そのガイアを探しているのでしょう〕

「そうなんだけどさ。アンジーのとこに似た能力もってるいないかしら」

〔多分無理でしょうね。ガイアは特異体質というか、言わば特殊な個体と思われますので〕


 ま、普通に考えてあのは特殊すぎるくらいだ。


「マスター、足跡発見だす!(キリッ)」

「どこどこ?」

「ここだす(キリッ)」

「……はい?」


 わからん。普通に地面があるだけだが。片膝をつき、木の葉を丁寧にどかしながら地面を観察するキティ。


「マジで忍者かよ……」

「ここから四人の足跡が南東に続いているだす(キリッ)」

「つまり、なにかあって四人一緒に移動したってことか」


 とりあえず襲撃を受けたとかじゃなくてよかった。でも、いったいなにがあったのかは謎のままだ。


「姐さん追いかけるっス」

「あ、待って……」

「どういたしましたの?」 

「南東……南東……なんか引っかかるな。ずっとモヤモヤしてんだけど。なんだっけ?」


 さっきから引っ掛かっているなにか。全く答えがでて来なくて悩んでいる所に、女神さんがズバっと回答を示してくれた。


〔思い出しました。紫のマナ、ですね〕

「そうか、南東って初代はつしろ新生ねおがいるとこだ。なにか忘れてると思ったらアイツか」


 四人は初代新生を追いかけたのか? 


 あまりにムカついててボコりに行ったのか? 『皆でやっちまいますか、ティラさん!』『おう、しばいたるで!』とか。


 いやいやいや、さすがにそんな姑息なことをする恐竜人ライズたちじゃない、やるなら正々堂々だ。


 とすると……


「やはりウチ、見捨てられたんか? みんな、かんにんやで~」

「あ~、また始まったっスね」

「マスター、それはいいからさっさと追いかけるだす(キリッ)」



 ……ぐすんっ。

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