もちろん普通に戦えば、ティラノ率いる拠点組に勝てる相手は滅多にいない。だけど、位置を補足されているとなると話は別だ。
ガイアが魔王軍を感知したとしても、それでも遠距離から囲んで一斉に魔法を撃ち込まれでもしたらひとたまりもないだろう。
「八白さん待って」
「どしたの? 急がなきゃなのに」
「急がなきゃならないからだよ。とりあえずトリスとプチちゃんに先行してもらおう。だからちょい落ち着いて」
走りだそうとしたウチを止めて、アンジーは再びメデューサたちの方を向いた。
「メデューサ、もう一つ質問だ」
最大限の威圧をかけながらアンジーが問う。
彼女の言いなりになっているメデューサを見ると、なんかもう、魔王軍の相手はアンジーだけで全部解決できるんじゃないかと思えてくる。
「今この世界に魔王軍は
「じゅ、十二人……ざま……です」
「ミノやドライアドも入れてか?」
「……はい」
ミノタウロスたち二人とドライアドのチーム四人、すでに退散した死神。それからここにいるメデューサとウェアウルフを除いてあと三人がこの世界に来ているって事か。
ところで……そろそろ圧かけるのやめたって。メデューサが涙目だわ。
「グリムロックはさっき倒してきた。残りの二人は誰?」
「バ、バルログと……」
「マジか。ヤバいじゃんアンジ―、バルログったら……」
「そうね……多分だけど」
あれ? なんかアンジーがジト目でウチを見ているのですが……
「八白さんが想像している、格闘ゲームの飛び跳ねるあの人じゃないから」
「い、いやだな~。わかってるって。そんな想像してないよ……」
……違うんか~、めっさ想像してたわ。なんか残念。
「でもまあ、相性という面で考えたらヤバいのは確かだね」
「そんなに強いの?」
「魔力だけなら魔王軍随一の火炎魔人。まともに魔法を喰らったら私たちでもただじゃすまないと思うよ」
魔法耐性があっても防ぎきれないほどの魔力持ちなのか。
“魔法が来たらウチが防ぐ”っていう今迄の考えだと、
この先は別の防ぎ方か、もしくは避け方を考えなければならないな。
「それで、もう一人は?」
「グレムリン……です」
「マジか。ヤバいじゃんアンジ―、グレムリンったら……」
「そうね……多分だけど」
またもやジト目で……
「八白さん。魔王軍のグレムリンは、あの可愛い小動物じゃないから」
「え~、可愛くないの?」
「肉まんに顔を描いてグーパンで潰してから学校トイレの天井に叩きつけたような感じかな」
酷い言われようだ。そこまで言われたら逆に見てみたい気がしてくる。
「警戒すべきはグレムリンの方、十分警戒して。あいつはかなり狡猾なヤツなんだ。それがバルログと組んでいるとしたら……」
自信家のアンジーがここまで言うって事は、かなりヤバい組み合わせなのだろう。ますます拠点防衛組が心配になってきた。
「
キョトンとしているメデューサとウェアウルフ。ウチが謝ったのがそんなに不思議か? 平和主義者だぞ、ウチは。
「グレムリンが襲っているかもしれない拠点にさ、ミアぴが留守番してるんだわ」
「まだそんな事を……」
「死んでる仮定よりも生きている可能性を信じろって。君ら魔王軍の攻撃でミアぴが死ぬかもしれないんだよ? あぁ、もうおおおお、ここまで言ってわからないなら好きにすればいいさ」
答えを待たずに走りだすウチと
アンジーとスーもそれに続く。メデューサがついて来るかどうか、悪いけどそんな事に考慮している余裕はなかった。
それにしても『急いでいるなら落ち着け』というアンジーの判断はさすが百戦錬磨だ。
敵の情報がないまま向かっていたら、返り討ちにあっていた可能性が高い。
「キティちゃん、ウチに合わせなくていいから、超ダッシュで向かってくれる?」
「わかっただす!(キリッ)」
どう表現するのが適当なのかわからない。ベタな言い方だけど、キティはギアが入ったその瞬間、まさしく風になった。
熱を帯びた
……マジで衝撃波が半端なかった。
「でも、
「あ、八白さんも? 実は私もなんだ……」
なにが気がかりなのかわからないまま走っていると、前方からプチが飛ん来た。トリスと一緒に拠点を見に行ってもらったはずだけど……
「ま、マスターさん、大変ですですぅ~」
いつにもまして慌てているプチ。なんか嫌な予感しかしない。
「なにがあったの?」
「ティラノさんもベルノちゃんも、みんなみんな……誰もいないんですぅ~」
world:05 あの嘘この嘘ヤツの嘘 (完)
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