「姉ちゃん、どうしてもやるのか?」
「当たり前ざます。目の前に妹の仇がいて、戦わない理由はござりんせん」
「だから殺してないっての」
……この場でだせる証拠はないけど。
「ミアぴに会わせるから待っててよ」
「その手にはのらないざます。我々には
これもアンジーが言っていた『会話が成立しない相手』ってやつのひとつか?
「そんな名前に賭けんでええって」
「なんと不敬な。そんな名前とはなんざんす!」
「
「なんと、さらなる不敬! 主さんごときが魔王様を
……ダメだ、疲れる。ここまで話がかみ合わないと、会話する気力すらなくなってくるな。
「メデューサって昔から全然変わらないよね~」
「アンジーの言うとおりだわ。会話が通じねえ……」
って、彼女はメデューサだったのか。もっとも、ラミアの姉なのだからなにもおかしくないのだけれど。
それにしても、とりあえずあの思い込みをなんとかしないと話が進まない。ラミアに会わせることができれば万事解決なんだけどな。
ウチがミア姉……メデューサと牽制し合っている隣で、ルカはウェアウルフと睨み合っていた。
まあ、パワーが上がっている今の彼女ならなんの心配もないだろう。
一番驚いたのは、キティが魔王軍二人の目の前で消えて見せた事だった。
——メデューサたちに心理戦を仕掛けたのだ。
ウチとルカが派手に動けば動くほど、魔王軍の二人は消えているキティが気になって、無意識に行動に制限をかけてしまう。
地味に見えて凄い
むしろ心配なのはアンジーだった。折角タルボがワニの恐竜を押さえこんでいたのに。
――
「アンジー、あんたなにを考えているのさ」
ワニの恐竜と真っ向勝負をするアンジー。
ウチたちがあれだけ手こずった相手と一人で戦い始めたものだから、ウチも
「あ、言ってなかったっけ?」
とぼけているのか本音なのかわからない事を言いつつ、魔法を織り交ぜながら流れるような剣さばき。強力な一撃を与える事はせずに、疲れさせる作戦のようだ。
この、恐竜を傷つけない戦い方は、さすが異世界十年選手と思わせてくれる。
「私のライズトリガーは“恐竜にタイマンで勝つこと”なんだ」
「なにその”人類の許容範囲を全力でぶっちぎった条件“は。アンジー、あんたってば……」
「カッコイイっしょ!」
戦闘中だってのにわざわざこちらを振り向き、あごチョキでドヤってくるアンジー。
「アホかぁ!」
「ひっど!」
昔読んだボクシング漫画に描いてあった。パンチの空振りは体力消費が激しいと。
ワニの恐竜が噛みつこうとしても、はたまた前脚で潰そうとしても、ヒラヒラとかわしてどんどん体力を削っていく。
「ティラちゃんもあの魔法には弱かったしな」
そろそろ真剣に、
特に
「姐さん、決着ついたみたいっスよ」
力なく地面に伏しているワニの恐竜。荒い呼吸に交じって小さな唸り声が聞こえるだけだった。
「さすがアンジーって感じね。……アホだけど」
「八白さん、聞こえてるよ」
「はいはい、睨まない睨まない」
〔このワニの恐竜は、サルコスクスという種類ですね〕
……しれっと解説に入る女神さん。
アンジーが動けなくなった恐竜にそっと手を触れると、青白い光を発しながら徐々に小さくなっていった。
人間サイズなった所で『ぽんっ』という軽い音と共に煙が発生し、中から
当たり前なのかもしれないが、ウチがチョコなしでライズ化できたときと同じような工程だった。
「これは、なにが起こりやがったデスか⁉」
この
恐竜少女というよりは、恐竜アスリートって感じのスポーツマンの雰囲気。栗毛の髪は軽く波打っていて、精悍な顔立ちに強めの眼力。
白のキャミソールに健康的な褐色の肌が美しく映える。
身体は細身だけどしっかりと筋肉がついているのが見てとれ、これはアンジーが欲していたアタッカーで間違いなさそうだ。
まあ、見る角度によっては単なる黒ギャルだけど……これは黙っておこう。
ちなみにジュラたまはディープマリンブルーで、アンジーとの相性もバッチリ。
「よろしく。スーちゃん」
スッと自然に手を差しだすアンジー。その手をガッチリと握り返すサルコスクスの
「よろしく頼まれやがれデスよ!」
それにしても、アンジーでもトリガーが必要だったとは思わなかった。
とすると、ライズ化に関しては
……なんかモヤモヤするなぁ。