「スゴイっスね~。戦ってみたいっスよ!」
ルカは感心したように言うが……ホント勘弁してくれ。
さっきはレックス・インパクトに反応して暴れだしたワニの恐竜。今度はプチの手榴弾の音に影響され、興奮してしまったようだ。
その辺りにいるスケルトンを蹴散らしながら、魔王軍の指揮官に突っ込んでいった。
「あら、とんでもないパワーでございますわね」
恐竜界トップアタッカー五本指に入るであろう、カルカロドントサウルスとタルボサウルスが二人して感心するとか……ワニの恐竜ってどれだけの
「「でも……」」
「負けはしないっスよ」
「負ける気はありませんわ」
うん、二人のその自信、めちゃくちゃ心強い。
「なんかウチ、恐竜運に恵まれているな~」
強さだけでなくて、みんな素直で優しい。なにより、一緒にいて楽しいぞ!
「しかし、あれ……治まるんスか?」
〔あらあら、暴走してますね〕
ワニの恐竜は暴れ放題、無人の野を行くがごとくだった。強靭な顎でスケルトンを嚙み砕き、丸太を束ねたような尻尾で薙ぎ払う。
暴れる巨大な恐竜に焦ったのか、指揮官は魔法で撃退しようと詠唱を始めた。なんの魔法かわからないが、だからこそあれを喰らわせるわけにはいかない。
ウチは、指揮官とワニの恐竜との間に入り込もうと猛ダッシュをかけた。しかしここからでは少し距離がある。
「もうちょっとのんびり詠唱してくれてもええんやで~」
そんな願いもむなしく、指揮官の魔法が発動してしまった。
直径にして七~八〇センチくらいの、両手で抱える位の大きさの火の玉がワニの恐竜に向かって飛んでいく。
――しかし!
小さく『ジュッ』と音を立てて消える火の玉。いくら魔法とは言えど、水棲生物に火の玉ってのはどう考えても効果が薄い。
それも、川から上がったばかりで全身ずぶ濡れなんだから、ダメージが皆無なのは当然だろう。
「火魔法の選択はないわ~。よっぽど焦っていたんだな」
いきなりあんな巨大生物が現れて暴れ始めたら慌てるのは当たり前だ。ウチもティラノサウルスに追いかけられたときは“マジ死ぬ”って思ったし。
そしてウチは、ズザザザザ……と、魔王軍とワニの恐竜の間に滑り込んだ。
「おおっと、そこまでだ魔王軍諸君。この場はウチが預からせてもらうで!」
背負った漆黒の大剣に手をのばす魔王軍の一人。
「そごの耳つぎ、キザマ何者だ?」
問いかけてきたのは、
「ふっふっふっ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!」
〔ふう……またなんか始まりましたね〕
「恐竜たちの守り神にして地球の支配者、キサマら魔王軍すを駆逐する伝説の猫耳……」
いつも通り少し斜に構えて腕を組み、ピッと立てた親指で自分を指し……
「エンペラー・アクトスぐぼあぁぁぁぁぁ!!!!」
名乗りの途中でいきなり突っ込んできたキティ。横からウチの腹部に思いっきりタックルをかましてきた。
「もう、なにすんのよこのタイミングで。変な声がでちゃっ……」
と、倒れ込みながらキティを振り返ったその瞬間——。
ウチの頭上を、質量マシマシのぶっとい物体が、“ブオン”と空気を震わせながらかすめて行った。
これはワニの恐竜の尻尾。魔王軍しか見てなかったから、うしろから攻撃が来てるのに気がついていなかった。
「ちょ、こんなん当たってたら即死レベルだぞ」
「マスター、大丈夫だすか?(キリッ)」
「お、おぉう……。ありがとう」
怖えぇ~、冷や汗が吹きでてきた。ワニの恐竜からしたらウチと魔王軍の区別なんてつかないのは当たり前の話。キティがいなかったらマジ死んでたよ。
折り重なって倒れているウチとキティを見下ろしてくるワニの恐竜。グルルルル……と、喉を鳴らしているのか怒りからか。
「もしかして、怒ってる?」
言葉が通じたのかどうかはわからないけど、直後、ワニの恐竜は雄叫びをあげながら襲い掛かってきた。
——間髪入れずに走りだすウチとキティ。
「マジか、こんなのライズ化する余裕なんてないぞ……」
ウチが必死の形相で走るのを見て、魔王軍の二人は固まっていた。というか状況が飲み込めなくて困惑しているのだろう。
「こらこらこら、ぼ~っとつっ立ってないでアンタらも逃げや~!」
我に返った魔王軍の二人は
「はっ! ジュラシックとランデブーでジュランデ……」
〔黙っていて下さい、八白亜紀。舌噛みますよ!〕
ワニの恐竜は思った以上に足が速く、ジリジリと差が詰まって来ていた。『ワニから逃げる時はジグザグに走るとよい』なんて
十メートル超えのワニの前では、ジグザグに走っても全く意味がないと報告しておきます。
隣を走る魔王軍の二人の深くかぶっていたフードが風を受けてめくれ、顔が
ウチは必死で逃げながら横目でチラリと顔を見てみた。……うむ、端整な顔立ちの黒ローブさん。長い黒髪がバサバサと風に乱れていた。
「……あれ?」
思わず二度見。そしてガッツリ凝視。だって、あまりにも意外な顔がそこにあったから。
……なんという奇遇、なんという邂逅!
「その顔は……。姉ちゃん、姉ちゃんだろ⁉」