「しっかし、あのワニの恐竜さん強いな~」
川から上がってきたワニの恐竜は、手当たり次第にスケルトンを叩き潰していた。
なんか『保護しよう』とか考えるだけ無駄な感じがしない事ともないけど、それでも魔法なんて使われたらひとたまりもないだろう。
〔八白亜紀、感心している場合ではありませんよ?〕
「あ、そうだった……。プチちゃんは空から奇襲を仕掛けてもらいたいんだ。あそこにいる魔王軍の指揮官とワニの恐竜さんとの間に、手榴弾を二~三個落としてきて」
「だ、大丈夫でしょうか……?」
「そうそう、間違ってもワニの恐竜さんには当てないでね」
これで驚いて逃げてくれれば成功だ。ついでに魔王軍への牽制もできればラッキーって感じか。
問題があるとすればプチの視力の弱さだけど、こればかりは仕方がない。双眼鏡片手に飛ぶのはそれだけでも危険がともなうし、ましてやその状態で手榴弾をまくのはまず無理だろう。
「緊張しますぅ~。ワニさん当たったらごめんなさいです」
と、ワニの恐竜に向かって合掌するプチ。
「タルボちゃんはスケルトンの先頭をやり過ごして、一団の真ん中あたりになったら横から思いっきりディヴァステートをぶちかましてね!」
「はいですの!」
ルカに向かって来ているのは二十体ほどだ。タルボが中団に撃ち込めば五~六体は吹き飛ばせるだろう。
……残りは一体ずつ潰すしかないか。
「ルカちゃん、タルボちゃんが撃ったら一気に潰しちゃって」
「了解っス!」
歩みはゆっくりだが、ジリジリと間を詰めてくるスケルトン軍団。ウチたちが隠れている大岩の前を一体、また一体と通りすぎぎていく。
「八……九……今!」
「——行きますの! レックス・ディヴァステート!!」
タルボは大岩から躍りでると同時に、スケルトン軍団の横っ腹に全力の一撃を叩き込んだ。
地面を割り、土砂をまき上げ、地響きをとどろかせる。
そして、そこから繰りだされたドーナッツ状の衝撃波は、ウチの予想を遥かに超え、約半数のスケルトンを破壊していた。
「マジか……技の威力がメチャクチャ上がってんじゃん。直撃したヤツなんて粉々やで」
〔八白亜紀、それはあなたと
「ウチが成長した分と、みんなが成長した分が乗算されたのか~」
転生前の時代に『1+1は2じゃないぞ』ってレスラーの名言があったな。『オレたちは1+1で200だ。10倍だぞ10倍』って凄い力技な続きがあったけど。
……でも今の二人は、10倍なんてもんじゃないくらいの強さを引きだせている感じだ。
「1×1は2000なんやで!」
〔相変わらずですね……〕
ウチが女神さんと掛け合いをしている間に、プチはすでに目標ポイント上空に到達していた。
空から攻撃を仕掛ける時に一番怖いのは、
術にかかったら最後、地面に激突して大怪我を負うのは必至。
「ま、言うても対策はバッチリやで!」
魔王軍が使う魔法の特性は、ラミアから事細かに聞いておいた。
ゲームやアニメみたいに“魔法を使ったら無条件に相手に当たる”のでは無く、どんな魔法であれ“命中させなければ効果が無い”らしい。
しかし、命中精度や射程距離は人それぞれの技量やスキル次第なのでそこは計算ができない。よって、一番の対策は“とにかく動きまわる”ことに尽きる。
もしヤバいと思ったらウチが全力で下敷きになる覚悟はしているけど……
「まあ、そんな事にならないように祈ってるで~」
プチはポケットからピンクの手榴弾を取りだし、三つ四つと続けざまに落としていった。ウチが頼んだ通り、丁度ワニの恐竜と指揮官の中間に上手く落とせているようだ。
一つ目が地面に落ち、周りのスケルトン数体を巻き込んで爆発した。
破片や小石がかなりの勢いで飛び散るが、十メートル以上もあって皮膚がゴツゴツしている恐竜ならそれほど被害はないだろう……多分。
この爆撃が終わったらウチの出番だ。ルカとタルボもスケルトン殲滅まで三分とかからないだろう。
そこから一気に戦局を有利に持って行って制圧からの説得。これがベストな流れだと思う。
以前アンジーから『力を見せて相手の戦意を無くさせるのは対話と違う』って言われたけど……それは認めることにした。
——認めた上で行使する。
ウチにはそのやり方が、一番誰も傷つかないと思うから。
勝っても絶対に
――それが、みんなを護る戦い。それが、ウチの戦いだ。
しかし……せっかくイイ感じに先手を取ったと思ったのに、このあと
「……マジかよ。今回こんなのばかりだな」