~前書き~
Past Story 初代は、理不尽かつ鬱展開です。 キャラクターの掘り下げ話なので、これまでの【ジュラシック・テイル】とはかなり内容・作風が異なります。
内容的に苦手な方もいるかもしれませんので、途中でキツイと思った方は読まずに飛ばしてください(world:04の最後に内容をまとめておきますのでそちらをお願いします)
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“物心がつく頃”というのが何歳くらいを指すのかわからないけど、少なくともオレの記憶の中に父親はいない。
覚えているのは母さんの笑顔と、ちいさな暖かいボロアパートだけだった。
『なんでパパがいないの?』と母さんに質問して困らせた記憶は数回ある。その母親はと言えば、朝早くから夜遅くまで、ときには朝まで働き、オレを育ててくれた。
もちろんこれには最大限感謝すべきで、今になってみれば、家の中の事ぐらいは手伝えばよかったと思う。
……言い訳になるけど、遊び盛りの子供にはそんなことを考える余地はなかった。
中学校までは可もなく不可もない成績で、高校は女子校に行く事になった。これは母さんの希望が強く、特になんの疑問も持たずに言われるがまま進学していた。
その頃からかな、なんとなく自分を“オレ”と言うようになったのは。
「普通に暮らせるのが一番幸せなのよ」
これが母さんの口癖だ。……しかし、そんな普通の幸せを壊したのは“会った事もない”父親だった。
その頃は毎日、気の合うヤツらとつるんで昼も夜も遊び歩いていた。
世間からは不良グループと
だけど、実際に他人に迷惑をかけるようなことはしていない。だから母さんも周りからなにを言われようとも全く取り合わなかったし、こんな厄介者でも信じてくれていた。
オレはそんな母さんに心底感謝していた。もちろん、恥ずかしくて口にだした事はないけど。
だけど一つだけ、内緒にしていることがあった。それは……母さんが仕事でいない時間に、男を家の中に入れていた事だ。
顏は知っていた。母さんと写っている写真があったから。それでも初めて会った時は写真よりも大分痩せこけていて、同じ人間だとはすぐにわからなかった。
その男……父親は母さんのいない時に来て、高校生のオレに“金の無心”をしてきたんだ。
「ふざけんな。自分で働けよ!」
「ああ? そんな事言っていいのか? 俺がお前の父親だって学校にばらすぞ?」
「てめぇ、マジでクズだな……」
「そのクズから産まれたのがお前だろう?」
「知るか。親だなんて認めねぇよ」
「かまわんさ。お前が認めなくても、世間の目はどうかな?」
――終始ニヤニヤして見下してきやがる。
オレの父親、
恐喝や誘拐、詐欺等、人殺し以外の大抵の犯罪に手をだしているクズだった。
八年前、かなり大きなニュースにもなった誘拐事件で逮捕され、出所後、母さんに“たかり”に来たところでオレと遭遇したんだ。
最初は殊勝な態度で接してきたから、オレもコロっと騙された。もちろん犯罪者だなんて知らなかったし『オレにも父さんがいたんだ』という喜びもあった。
だから家に入れたし、母さんが返って来るまで待とうと思ったのだが……
こいつは、オレの学校や母さんの職場に『俺が乗り込んで行ったらどうなるかな?』と脅してきやがった。この男は母親にたかるよりも、未成年相手の方が搾取しやすいと踏んだのだろう。
実際、母さんのことを考えるととても言えなかった。ましてや職場をクビになるかもしれないって思ったら、オレがなんとかしなきゃと……目の前のゲス野郎の要求を飲んでしまった。
……今思えばその選択が全てを狂わせたのだと思う。
アルバイトを増やし、葛城に渡す分の金を稼いだ。
誰にも言えない秘密を抱えるストレス、友人たちと遊ぶ時間だけが唯一の救いだった。
――しかしこのあとすぐに、そこにあった友情は“貼りつけただけの薄っぺらいもの”だったと思い知らされる事になる。