~前書き~
Past Story アンジュラは全五話で展開します。キャラクターの掘り下げ話なので、これまでの【ジュラシック・テイル】とは“かなり”内容・作風が異なります。
内容的に苦手な方もいるかもしれませんので、途中でキツイと思った方は読まずに飛ばしてください(world:04の最後に内容をまとめておきますのでそちらをお願いします)
♢
――それは“噂に聞いたことがある”と言う程度で、実際自分で遭遇するまでは都市伝説位にしか思っていなかった。
あのとき私に決断力があれば、こんな結果にはならなかったのかもしれない。
これは、私の後悔、懺悔の話だ。
東京都立川市。商業施設が乱立する駅から少し歩くと、そこには閑静な住宅街が初夏の日差しを浴びてクッキリと浮かび上がっていた。日曜日の今日は通勤通学もなく、人通りは殆どない。
そんな穏やかな“はず”の日曜日の朝、我が家には年の離れた妹の声が響いていた。
「
……安心しろ、妹よ。朝七時から開いている映画館はない。
「早くっ! 早くっ! は~や~くぅ~!」
落ち着け。『慌てる乞食は貰いが少ない』と言うぞ。まあ……乞食の時点で大概だけど。
とは言え、このところ部活に忙しくてかまってあげられなかったから仕方ないのかな。
ちなみに、今朝も一時間ほど走ってきた。休みの日でも欠かさず走るのがパフォーマンス維持の秘訣なんだ。
「
「朝から騒がしいわねぇ、この
「ママ、お姉ちゃんに早く来るように言ってよ~」
うるさいな~。でも……年の離れた妹ってなんか可愛いんだよね。ペットみたいと言うか、グリグリとなでまわしたくなる。
スマホの待ち受けも幼稚園のスモックを着ている写真だし、なんなら友達と遊びに行くときも連れだしてる。自分が褒められるよりも、妹が可愛いと言われる方が数千倍嬉しい!
……これは間違いなくシスコンだな。うん、認めよう、全力で!
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
「はいはい、今行くから~」
「お姉ちゃん新聞にでてるよ! はやく~」
「あら、しっかり映ってるじゃない。優希、早くおいで」
リビングに入ると、母さんと愛希はニヤニヤしながら私と新聞を交互に見て来た。記事の写真と“目の前の本物”が同じかどうか確認しているかのようだ。
「って、うわ、恥ずかしいなこれは……」
朝刊のスポーツコーナーにかなり大きい見出しで、昨日の大会記事が載っていた。
【第57回全日本大学陸上大会。猫玉学園大学一年、
と、まあ読んでいるこっちが恥ずかしくなる見出し。
おまけに“美人過ぎる”とかハードル上げまくって、更に小さいとは言え……どアップの写真つき。
「お姉ちゃん、顏赤いよ?」
「うん……さすがに、ね」
母さんは私が嫌だと言っても切り取ってスクラップしておくんだろうな。出張中の父さんに見せるって理由で。
大会でしっかり結果をだしたこともあって、今日は久々の学校公認オフ。
友達と十時半の待ち合わせで、妹と三人で映画見て買物とカラオケして……とにかく色々する予定。
彼女は高校からの親友で、愛希も懐いているんだよね。だから今日だけは気兼ねなく、思いっきり羽根を伸ばせるんだ。
愛希にせかされながら朝食を摂り、愛希にせかされながら髪を縛り、愛希にせかされながら日焼け止めを塗り、愛希にせかされながら……気がついたらじゃれていた。……反省します。
それでも十五分前には待ち合わせ場所の立川駅南口に到着。大体いつもこのくらい早く着くように行動するのが癖だ。
性格的なものなのか親の教育なのかはわからないけど。
「ねぇねぇ、優希姉ちゃん」
「なに~?」
「みんなお姉ちゃんを見ているよ?」
「え?」
まさかこれって新聞の影響? スポーツ欄にちっちゃく載っただけなのに。気のせいだよね?
気にしすぎだとは思うけど、ちょっと居心地悪いな。それに、なんかチャラチャラしたのが寄ってくるし……
「ねえねえ、お姉さん、美人っすね~! ひとり?」
ナンパ? とう言うかこいつアホすぎないか? 『アホすぎるアホ』とか見出しつけてやろうか?
「目がついてないの? 妹連れだから。二人だから!」
「え~、いいじゃん。妹ちゃん、一人で帰れるよね?ね?」
……『アホすぎるゲス』に見出し変更。
「とにかく、アンタに用はないからどこか行って!」
「そんな事言わないでさ~」
「迷惑条例知らないの? それに、私は自分よりヘボい男は相手にしないから!!」
「あ~~~、おっまわっりさ~~~~ん! こっち~~~!」
妹よ、ナイスだ! 実際お巡りさんがいなくても、周りの人の目がこいつに集中する。この機会を逃さずにちょっと腹から声をだして……
「迷惑だから! どこか行って!!」
あ……思ったより大声になってしまった。
ずっと運動部だったから、結構肺活量あるみたいで……余計に周りの注目を浴びちゃったな。
「くそっ……このチビが」
「チビじゃないよ! “みらいのれでぃ~”なんだよ!」
咄嗟にでたのが、いつも母さんが愛希にかけている言葉だった。妹の切り返しに拍手するギャラリーもちらほらいた。
……あ、自慢の妹です! 見てやってください。私の方は見ないでください。
「愛希、時間までちょっと向こうに行っていようか」
少し
ベルトに吊るしておいた帽子を深くかぶって顏を見られないように……って、芸能人の気持ちが少しだけわかるな。
コンビニに寄り、南プスの天然水とリンゴジュースを買って外にでようとした時。入口横の新聞棚に、私の顏写真がデカデカと載ったスポーツ新聞が並んでいるのを発見した。
「あ~。原因はこれか……」
『お姉ちゃんが載ってる!』と言いかけた愛希の口を慌ててふさいでそそくさと外にでた。う~ん、芸能人の気持ちが……以下略。
ここから少し西に歩くとコインパーキングが並んでいる通りがある。そこなら普段から人通りが少ないし、目立たずに時間が潰せそう。
――だけど、こんな事になるなんて全く思いもしなかった。というか、誰にも予想はできないと思う。
少ない人通りが途切れたその時。
私と妹は……
誘拐されてしまった。