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第53話・フォーク? or スプーン?

「このままだと、最後は私たちで戦う事になりそうだね」


 背筋に寒気を感じる位、冷徹な視線。


 身体が動かせない。これが異世界を生き抜いてきた人間の迫力なのか……まさしく蛇ににらまれたカエルだ。


 ウチは首筋を流れる冷や汗を感じながら、それでもなんとか声を絞りだした。


「まだ、ハッキリとした答えはだせないけど。とにかくウチは、このたちと笑うために戦うよ」


 そう、みんなで楽しく生きていく為だ。誰かを犠牲にしたら、心から楽しめない。

 みんなで……ウチと恐竜人ライズたちと、アンジ―や初代はつしろ新生ねお。……そして魔王軍も。


 とにかく、笑っていられたらと思う。


 敵には容赦しないけど仲間を大切にするアンジー。

 自分の周り全て否定して利用する初代新生。

 まだ二人の方がウチなんかよりずっと現実的な思考だとわかっている。


 ……自分でもわかってるから、甘い考えだって事は。



「マスターさん、あの人、持ちなおしたみたいですぅ」

「ああ、一命は取り止めたか。よかった、本当に……」

「じゃ、私は行くよ。初代新生あれが目を覚ますと厄介だからね」


 ……あれ、いつものアンジーの表情に戻ってる。さっきのはなんだったのだろう、正直……めちゃくちゃ怖かった。


『逆鱗に触れた?』とか『なにが気に障ったのだろう?』とか色々考えていたが、彼女のあっけらかんとした爽やかな表情を見たら、なんかもう考えるのが馬鹿らしくなってきた。


「あ、その前に……トリス~!」


 アンジーに声をかけられた翼竜の恐竜人ライズが、スッと降りてきた。


「アンジーを乗せて来た娘だね」

「この娘は最初のライズパートナー。ケツァルコアトルスのトリスだよ」

「始めまして、マスター・八白。マスター・アンジュがお世話になっております」

「あ、いえいえこちらこそ……」


 ……ってなになに? メチャクチャ上品な娘じゃないか。

 くるっとしたロングヘアに、お嬢様が着るような感じの清楚なドレス。スカートの裾を“ちょこん”とつまんで会釈している。


 翼竜状態で上空に待機していた時はプチと同じくらいの大きさだったんだけど、変身して降りて来たら、なんというか……モデル体型ってやつ? スっとしてシュっとして、なんかスマート。 


「あと、予定通りこの娘たちも私の仲間にするけど、問題ないよね?」


 ケーラを始め、アクロやスピノといった“初代新生にぞんざいに扱われていた”恐竜人ライズたち。


 そのみんなが、アンジーをライズ・マスターと認めたようだ。


 アンジーならしっかりケアしてくれるだろう。そう言った意味ではなにも心配はないのだけど……。


「じゃ、またどこかで。その時、敵同士じゃなければいいね!」

「だから怖いってそれ」


 冗談っぽくは言っていたけど、マジで敵になる事は全力で避けたい。


 そしてアンジーたちは入り江の方に向かっていった。『なんかそこの入り江、イイ感じだから拠点にするね~』と言い残して。



「そこ、ウチのプライベートビーチなのに……」

〔……違うと思います〕

「でも、これでよかったのかな?」

〔それを望んでいたのではないのですか?〕

「そうなんだけど……考えてみれば、初代新生こいつ独りになっちまったんだよな」


 もしこれがウチだったら、当分立ち直れない気がする。


〔自業自得です。命が助かっただけでも十分でしょう。それよりもあなた自身の目的を忘れないように!〕

「ああ、わかってる。なあ、ひとつ聞きたいんだけど……。さっき相性がどうとか言っていたじゃん? それって、そんなに影響がでるもんなのか?」


 アンジーが五人まとめてライズした時に、女神さんがぼそっと『相性が良さそうですね』と漏らしていたのを聞き逃さなかった。


〔そうですね。例えば八白亜紀、あなたをスプーンとしましょう。初代新生はフォークです。そこにコーンスープと唐揚げがあったら、どちらを食べますか?〕

「それならコーンスープだ。スプーンで唐揚げは食べにくいもんな」

〔そして、フォークの初代新生では、コーンスープが飲めないって事です〕

「コーンスープがティラノやタルボか。彼女たちが不調だったり弱かった訳じゃなくて、単に初代新生と合わなかっただけだと?」

〔相性は精神的なつながりに影響し、精神的なつながりは身体能力に影響が出ますね〕


 これはスポーツ選手がメンタルを大事にするのと似ているのかもしれない。 

 最良のパフォーマンスを維持するためにはフィジカルだけ強くてもダメで、メンタルとのバランスが大事とか聞いたことがある。


 より相性のよい者が恐竜人ライズの力を引きだせる。これはジュラたまブーストとは全く別の要素だけど、多少なりとも影響があるのなら今後は考慮しないとならないな。


「ケーラちゃん、今以上に強くなっちゃうかもしれないんだね……」

〔そうですね。逆に唐揚げは、あなたと相性が悪いということです〕

「あ、それちょっと違うよ!」


 ウチは人差し指を立てて、『チッチッチッ』と左右に振って見せた。


「コーンスープはスプーンで飲んで、唐揚げは手づかみで食う!!」

〔……はあ、そういう人でしたね。まったく、あなたという人は〕

「あきれ口調のわりに、なんか楽しそうじゃん」

〔ほっとけ~ですね〕

「それウチのセリフや!」


 ……女神さん、笑いすぎだって。


〔あ、ところで。先ほどから木の上で、じ~っとこちらを見ている恐竜さんがいますよ〕

「どこどこ? ……って、なにあの“ちっこかわいい鳥さん”は。あの娘も恐竜(注)なん?」

〔ええ、あの恐竜さんの名前はですね……〕






 world:03 殴り殴られ振り振られ 完

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(注)恐竜は鳥類

 『一説によると』という条件付き。近年の研究で『羽毛が生えていた』という説まで出ています。昭和の頃の恐竜の本と、平成後期の恐竜の本ではイラストの傾向が変わってきているのがわかります。

 バンダイやタミヤ他から恐竜のプラモデル等が出ていますが、模型界隈では昭和デザインの物の方が多い様です。

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