ウチはタルボに“目をつむる”ように伝え、続けて指示を飛ばした。
女神さんは『わざと負ける気ですか⁉』と驚いていたがとんでもない。
——これは勝つための戦術なんだ。
「タルボちゃん、右前方!」
「無理無理、あたらへんで♪」
空振り……方向はほぼあっているが間合いが取れていない。
「左に一歩、横薙ぎ!」
ああ、惜しい。かすった感じか。
「うほっ! あぶねぇ~。だが、当たらなければどうということはないんやで!」
そう、当たらなければ意味がない。そんな事はわかっている。むしろ今やっているのは、当たったらラッキーって程度の攻撃。
――そして狙いはここ。最初からここだけだった。
「タルボちゃん、足元! 全力で叩いて!!」
「いやいや、当たらへんで~。今日からワイのことは赤い彗……って、なんや、足元?」
「食らえですわ! レックス・ディヴァステート!」
「お~、なんかカッコいい技名じゃんか。意味わからんけど」
〔devastate、壊滅・荒廃と言った意味ですね〕
ウチのポケットで白黒のジュラたまが強く光り、タルボの大地を
大量の砂が飛び散り、舞い上がり、インプの視界を遮る。これは砂中で爆発が起きたような現象だった。
「ぺぺっ……なにしてくれんのや、口の中まで砂だらけや。まったく、砂も
――ヒュンッ
その時、
……そして舞い上がった砂が雨のように降り注ぎ、視界が開けた時にはすでに、インプはタルボの足元に倒れて砂をかぶっていた。
「あら、ごめんあそばせ。そのまま大地の栄養になってくださいまし!」
「インプのヤツ、どうやって自分が倒されたかわかってないだろうな」
ウチがタルボに目をつむるように指示した理由は二つ。
一つはインプの幻影魔法にかからない為。最初から見なければ幻影も見ないで済む。その分ウチが正確に攻撃位置を知らせればいい。
二つ目は自身の攻撃による爆発的な砂塵が目に入らないようにする為。
それにしてもティラノとの連携もバッチリだし、これは凄い戦力だ。
「くそっ! おいコラ、なにがあったんだ!」
「って、またなんかしようとしたんか~」
そこにはガイアの
何枚も何枚も上に重なり全く身動きができない。這いつくばったままプルプル震えて、なんか産卵時のカメみたいだ。
「ふむ……。してやられたのはこれで二度目か」
ドライアドは刀の切っ先をウチに向けて言葉を続けた。
「なるほど、真に警戒すべきはお主であったか。ア…… アク…… ア~…… え~と……」
「あ、ドライアドってばウチの名前覚えてねぇな」
〔八白亜紀、あなたがアクト・スノーなんて名乗るからです〕
しかたがないなぁ、もう。
「もう一度だけ名乗ってやろう。ウチの名は八白亜紀、この世界の守護神や!」
「ふむ……八白亜紀殿でござるか」
そしてウチはドライアドを“ビシッ”と指差し言葉を続けた。
「そして、
「確かに、この二人の力量は恐ろしく高い。先ほどのインプを倒した手腕も見事であった。だが、拙者とて引けぬ訳があるのだ!」
……マジで純粋な勝負って条件にしておいてよかった。ドライアドとはわだかまりを残さずに終わらせたいって心底思う。
「それに、久々に楽しいのでござるよ。さあ、双方とも遠慮せずに参られよ!」
「じゃ、ドライアド。すまないけど二対一のままやらせてもらうよ。さっきも言ったけど正義の味方じゃないんや、汚くても勝つためにはなんでもやるで!」
……と口では言うものの本当に汚い手を使うつもりはない。
そしてそれは、多分ドライアドも理解してくれているように思える。だって、そのひと言を聞いて笑っていたもの。
構え直すドライアド。
ここからは数的有利な闘いだけど、そもそもドライアドは一人で戦うつもりでいたのだし、対等に戦える自信があるって事だろう。
――常にティラノを剣先に捉えつつ、タルボを警戒するドライアド。
――ジリジリと間を詰め、
――プレッシャーをかけ、ドライアドの動きを抑え込むタルボ。
一触即発とでも言うのだろうか、三人の間には今にも破裂しそうな空気があった。
「ドライアド様、セイレーンが!!」
しかし、その均衡を破ったのは意外にもハーピーの叫び声だった。その場の全員が声の方を向く。
ケーラの体当たりを喰らったセイレーンは、思いの外ダメージを負っていたみたいだ。
「そうか、しまった。ケーラちゃんは……」
これはマジでやらかした。ウチのミスだ。
タルボたちはウチの意思を受け継いで『敵と言えども殺さない』って考えてくれているけど、初代新生の
むしろあいつの考え通りだと、相手を殺す事を前提としているのかもしれない。
そう考えた時にはすでに、ウチはセイレーンの所へ走りだしていた。