「では、再開いたす!」
「うおっしゃ~! おらぁ~~~、はっ倒すぞぉぉうぉおおおおおおおおおお! 覚悟せぇやおらぁ~~~~あqwせdrftgyふじこlp~~~~~‼」
合図と同時にウチは、頭上で木刀を大げさに振りまわしながら、自分でもなにを言っているか分からない叫びと共にセイレーンに向かって走りだした。
たった今、氷の槍でガイアが大ダメージを負ったばかりだ。だからセイレーンは、『魔法を警戒して距離を取ってくる』と考えただろう。
しかし、防御を捨て攻撃する気満々で突っ込むウチをみて、セイレーンは慌てて氷の盾を作りだしていた。
「食らえ、ティラノ直伝、ジュラシック最強の技! レックス……」
「え、亜紀っちが俺様のスキルを?」
……そんな訳ないって。
戦闘力ミジンコのウチでもできる戦術。それは、相手を攪乱し思考停止させる“口から出まかせフェイント”。
漫画やアニメを始め、映画もゲームも戦略戦術の宝庫だ。
「——これがウチのサブカル戦術やで!」
ウチは攻撃を仕掛けると見せかけて、セイレーンの目の前で後方宙がえりをした。
「え、なんですの⁉」
セイレーンが驚くのも無理はない。一瞬前までウチがいた場所にはケーラが盾を構えて突進して来ているからだ。
ケーラの超重量級シールドチャージは氷の盾を砕き、セイレーンを数メートルうしろに弾き飛ばした。
「ナイス、ケーラちゃん!」
――しかしその直後、頭上からハーピーの羽根矢が襲いかかる。
「残念だったな、ハーピー。その魔法はすでに対策済みだぜ!」
後方宙返りをした時、ウチはケーラの背中を足場にして飛び上がっていた。
そして“シュババババッッ”と襲い来る魔法の羽根矢を、“パリンパリンパリン…”と猫人の魔法耐性でかたっぱしから打ち消した。
「魔法が効かないってわかっていても、怖いもんは怖えぇな」
なんかこう、目にサクッときそうで開けていられなかったのは内緒だ。
そのまま空中で宙返りして、スタッと着地。猫人の高スペックな身体能力がここで活きた感じだ。
人間だった頃にはとてもできない動きだけど、今は頭の中で想像した通りに動けている。猫人のスペックって、なにげにとんでもないな。
「さあ、どうする? セイレーンは行動不能、君の攻撃はまったく効かない。このまま続けるかい? こっちは二人して寝転がっててもいいんだぞ?」
と、まあ、これはブラフだ。この作戦は、一方的に力を見せつけて相手を“負けた気にさせる”というやり方。
今のハーピーは“ケーラにも羽根矢が効かない”と思い込んでいるはず。
こういうのって、こちらのペースに乗せれば意外と簡単に引っ掛かるもんなんだよね。もちろん知識元は以下略。
「ウチたちは君を撃ち落とす事ができない、遠距離攻撃がないからね。でもさ……」
ここで言葉を貯めてから、少しだけトーンを落として話を続ける。
「仲間を放っておくのかい? 全身をかなり強く打っているんだ。骨が折れていたり、呼吸ができていないかもしれない。君がそのまま飛んでいるだけで、セイレーンは苦しみ続けるんだよ?」
こちらは本当の話。嘘を言う時は真実を混ぜる、これが基本なんだ。もちろん知識元は……。
「ハーピー降りてこい。おぬしらの負けだ」
「……わかった。セイレーンは無事なの?」
「お主が看てやってくれ。……それにしても見事にやられ申したな」
ふう、助かったわ~。なんだかんだ言っても、セイレーンの容態が心配だったんだよね。ケーラの攻撃がクリーンヒットしていたからさ。
決断が早い敵リーダーに助けられたな。
それにしてもこのドライアドは“潔い武人”と言った印象だ。ミノタウロスと少し似てる感じがする。
――その時、突如として
「ケーラ、いまだ!」
背中を向けたら
それに備えてウチは、前もってガイアの
もちろんそれだけで完全に防げる訳ではないし、ガイアにまた怪我させてしまうかもしれない。
それでもウチが致命傷を負う確率が減る事で、結果的にみんなを守ることにつながると信じている。
それに今回はもう一人、
——他でもないケーラだ。
ウチがなにを言ったとしても、ライズ・マスターである初代新生の命令の方が優先されてしまう。
しかしケーラは突進攻撃が当たる瞬間、そっとウチの背中を押してダメージを軽減してくれていた。
突進は命令で行ったが、それ以外は彼女自身の意思で行動してくれたのだろう。
……と、いう訳で。
「効かぬ、効かぬぞ! 初代新生、お前の卑怯なやり口はわかっているんだよ!」
突進され、転がりながらも颯爽と立ち上がり、砂だらけの顏で初代新生を“ビシッ!”っと指さし、言い放った! ドヤってやった! むふっ、スッキリした~。
……でもさすがにちょっと背中痛いわ。