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第42話・こらそこ!

 太陽がサンサンと降り注ぐ白い砂浜。透明感のあるブルーでトロピカルでリゾートな海。爽やかな風が吹き抜けて、最高に気持ちがいい。


 ……ま、争い事がなければの話だけど。



 魔王軍の残りは三人。リーダー格のござる樹木人と、なんだかフワフワした感じのねーちゃん、そして羽根の生えた身長一メートル位の……妖精? 


 対するこちらは遠距離型のガイアと、鈍器アタッカーのタルボ。


「二対三か……」


 ここはプチにもでてきてもらうか、それとも戦闘力ミジンコのウチが……


「私がやるよ。かまわないよね?」

「おお⁉ ケーラちゃん!」 


 トリケラトプスの恐竜人ライズで、ティラノと互角以上のパワーの持ち主。物静かでいながら力強い目元と、周囲の状況をしっかりと把握して判断する性格。


 加えて、絶対防御のライズスキルを持っていて、これは心強いなんてもんじゃない。


「すまねぇ、頼むわケーラ」

「ああ、任せて寝ときな」


 ティラノが人任せにするのを初めて見る。

 今までこんな事はなかったのに、やはりウチとリンクしている恐竜人ライズじゃないと回復効果弱いのかな?


「んじゃ、ケーラちゃん。今はウチの戦術に乗ってもらうよ」

「了解した」

「さて……待たせたな、魔王軍の諸君。闘い方はどうする?」

「えらく余裕でござるな。では当初の予定通り次は二対二、セイレーンとハーピーでござる」


 なるほど、フワフワした雰囲気がセイレーンで、飛んでいるのがハーピーか。


 ウチのゲーム知識に照らし合わせると、セイレーンは幻惑系スキル持っているはずだし、ハーピーも魔法主体のハズ。

 魔法耐性がない恐竜人ライズでは戦い方を考えないと相当ヤバイぞ。


 しかし、そうは言っても二対二はむしろ好都合かもしれない。ガイア&タルボなら能力はわかっているし、二人までなら同時にジュラたまブーストで力押しもできる。


 それにケーラはスキル以外の能力がまだはっきりとわからないから、むしろソロがよかったんだよね。


「OK、じゃこっちはガイアちゃんと……」

「ここは私がでよう!」

「そう、ケーラちゃんで!」


 ――って、なんですと⁉


 いきなり宣言するから思わず名前言っちゃったじゃんよ。

 え~、マジか~。つか、メンバー交代を……ってぇぇ、すでに進みでて睨み合ってるし。


「ガイアちゃん、虹羽根アイリス・ウイングを二枚、ケーラちゃんのガードに回して!」

「わかり……ました。デス」


 しかたがない、これを基本形としてガイアに上手く動いてもらわないと。とりあえず今わかっているケーラの特性は……


「あかん、冷静な力持ちってこと以外なにも知らないわ」


 最初に攻撃を仕掛けたのはハーピーだった。いきなり猛スピードで真上に飛び上がると、そこから羽根をダーツのごとく撃ち降ろしてきた。


 頭上から雨のように降り注ぐ大量の羽根の矢。しかしこの攻撃は二人に届いていなかった。

 ガイアが虹羽根アイリス・ウイングを集めて傘にし、完全にガードしていたからだ。


「ケーラちゃん、セイレーンの動きに注意して。ガイアちゃんは防御に集中! ……って、あれ? でもこの攻撃続けさせておけば羽根なくなって落ちてくんじゃね?」

〔残念ながら、ハーピーの羽根矢は魔法攻撃です〕

「え~。羽根なくならないんかい」

〔それよりも、どうやらガイアの虹羽根アイリス・ウイングは魔法耐性まであるようですね〕


 言われてみれば、ハーピーの羽根矢はガイアの虹羽根アイリス・ウイングに当たると、光りながら砕けて消えている。


「これは嬉しい誤算。ガイアってメチャクチャ有能じゃないか」


 ウチ以外に魔法耐性の装備があるのは超ラッキー。ここはまずセイレーンを倒してからハーピーに、って順番がよさそうだ。


 ……って思っていたんだけど、このタイミングでアイツが口をだしてきやがった。


「おい、ケーラ。なにやってんだよ、さっさと攻撃しろよ!」


 ライズ・マスターである初代はつしろ新生ねおの指示に従いセイレーンに突っ込むケーラ。


 ……これはまずい、ウチがなにを言ったところで、アイツの命令の方が優先されてしまう。


「ケーラちゃんストップ! 防御固めて!!」

「うるせぇ、ちんたらやってんじゃねぇ。つっこめ!」


 ケーラは盾を構えてはいるものの、魔法に対しては無防備のままだ。


 そういった特性や相性を考えていないから、初代新生の恐竜人ライズたちは必要以上に疲弊してしまうのだろう。


 指示通りなんの対策もせずに突っ込むケーラ。そこにセイレーンの氷魔法がカウンターで発動する。


 ——鋭い四本の氷槍がケーラに向かって放たれた!


「ガイアちゃん、頼む!」


 その瞬間、ガイアは虹羽根アイリス・ウイングを重ねて、氷の槍とケーラの前に滑り込ませた。


 まさしく間一髪だ、ガラスが砕けるような音が響き、砕け散る氷の槍。


 ……だけど、ここにウチの誤算があった。それは、“防御”ではなく“相殺”だったということ。


 手数で押すハーピーの羽根矢とは逆で、連射はできないけど一発の威力が大きい魔法なのだろう。氷の槍を受け、四枚の虹羽根アイリス・ウイングは完全に砕け散った。


 そして、破壊された衝撃はガイアにフィードバックされる。相当なダメージを受けた彼女は、力なく仰向あおむけに倒れてしまった。


 ――そこへ容赦無く降り注いでくる、ハーピーの羽根矢。


「危ない!!」


 ウチは咄嗟にガイアの上に覆い被さった。

 サクサクッ……サクサクッ……という軽い音が聞こえ、そしてウチに刺さる“ザクッ”という音。……は、しなかった。


「あれ?」


 ああ、そうか。ウチには魔法耐性あったんだ。羽根矢くらいなら耐えられるのか。


「あぶね~。魔法の羽根でよかったわ。物理攻撃だったらマジでヤバかったな」


 不幸中の幸い、ガイアの意識はしっかりしていた。これならすぐに回復できる。


「よかった……ほんっと心臓に悪いわ。止まるわ、普通。ウチが“毛の生えたノミの心臓”じゃなければヤバかったぞ」

「マスター……重い。デス」

「レディに『重い』とか言うもんじゃありません」


〔……レディ?〕


「こらそこ! 疑問を差しはさまないように!」

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