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第39話・ハッタリ

「死神よ、我があるじエンペラー・アクトスノー様の御前であるぞ、頭が高い!!」


 アンジー悪ノリ中。自分のセリフにツボって笑ってんじゃん。


 これで死神が引いてくれればよかったのだけど、さすがにそう簡単には行かなかった。


「ナラバ ソノモノヲ タオシテ オワリダ」


 そう来たか~。そうよね、そうなるよね。ウチがターゲットになったわけね。ならば仕方ない。いきなりだけど奥の手だ!


「——後悔いたせ、愚か者よ!!」


 顔にあてていた右手をそのまま頭上に上げ、指を鳴らす。直後、死神の後方で地面が破裂した! 


 もう一度指を鳴らすと、今度は死神の左にある岩が爆散して崩れた。


「ナンダ コレハ……」


「大自然の怒りだ。エントロピーのフェルマーがシュレーディンガー次元に干渉し、クロネッカー誘爆を起こすんだぜ! 次はキサマの足元を破裂させてやろうか?」


 ……うん、イイ感じだ。


 タネを明かせば、『ウチが手を上げたら死神のうしろに手榴弾を投げて』とプチに頼んでおいただけなんだけど。


 魔法ではない爆発現象は、いくら死神と言えどそう簡単に理解が追いつくものではない。


 それに魔王軍が手榴弾を知らないのは、ミノタウロスたちで実証済みだ。


「さあ、どうする? 諦めて魔界に帰るか、それともここで倒されるか!」


 右手を上げ、合図をだす。へろへろと山なりに飛んでくる手榴弾は、死神の右側の林の中で爆発し木々をなぎ倒した。


 死神が倒れ込んでくる木を大鎌で薙ぎ払うと、鎌が触れたその瞬間、スーッと木が跡形もなく消え去った。


 ――そして、死神の注意が倒木に向いたその時。  


「来た!」


 ポケットの中のジュラたまが光る。桜色の強烈な光、ティラノやルカがスキルを使った時と同じくらい強い光だ。


「食らうだす! レックス・ヴォルテックス!!(キリリッッッ!!)」


 ウチとプチで隙を作るから、鎌を狙ってバックアタックを仕掛けるようにとキティに指示しておいたんだけど、


 ……まさかこんなに強力なスキルを持っていたなんて。


 死神の死角から現れると同時に蹴りを放つキティ。カカト落としの時とは比べ物にならない速さだ。摩擦熱は炎を生み、大気を歪ませていた。


「ナン……ダト⁉」 


 キティの強靭な足腰から繰りだされる炎をまとったハイキックは、大鎌の柄を砕き死神の目をかすめた。


 アンジーはこの一瞬の隙を見のがさず、瞬時に間合いを詰めて剣で胴を薙ぎ払う! 


 死神は上下真っ二つになり、断末魔を上げる事もなく……その場で水が蒸発するかのように消えていった。


「……殺しちゃったの?」

「いや、死んでないよ、アイツは」

「もしかして、魔王と同じような特性ってこと?」

「そそ。死神は不死だから。残念ながら殺しても死なないんだ~」


 いや、残念じゃないけど。でもまあ、死んでないのならよかった。

 甘いのはわかっているけど、“殺す”とかはやはり抵抗がある。ありまくりマクリスティだ。


「死神はね、死ぬことはないけど死ぬだけのダメージを与えると暫くは活動不能になるんだ。三〇〇年くらいかな」

「そうなのか……魔王よりもかなり長いんだ」

「不死特性を持っているのは、私の知る限りでは魔王と死神のみかな。それにしても助かったよキティちゃん。あの鎌だけは厄介だったからね」

「今度は息を止めてただす(キリッ)」


 ついさっきアンジーから貰ったばかりの助言の事だ。自身の欠点を理解し、すぐに実践に役立てる。この理解力の速さがキティの強みなのかもしれない。


「ところで、さっきのはなに? 木が消えたけど」


 不思議な現象だった。“スパッ”と切れるイメージだったのに、“ス~”っと消えていったのだから。


「なんだろうね。実は私もよくわからないんだ。あの鎌で斬られたモノは、どこかの世界のどこかの時間にすっ飛んでいくらしいよ?」

「らしいって、わからないの?」

「だって誰も確認できないもの」

「あ……そりゃそうだ」

「でも、とりあえず厄介なヤツを先に倒せたのはラッキーだね」


 なんかそれを聞いて安心した。ティラノたちが消えたりとか操られたりとか……死んだりとかごめんだからな。


「とりあえずよかったよ~。あ、でもさ……」

「どうかした?」

「アンジー、初代はつしろ新生ねおには“存在を隠す”って言ってたじゃん。それなのにいきなり顏見せちゃったのって……」

「そこはじゃないかな。死神の特性を知っている以上、あのままにしておいたらライズたちみんなが可哀想だもの」

「やっぱりか……。ありがとう……」


 うう……素敵すぎるぞアンジー。今後の作戦を白紙にしてでも恐竜人ライズの為に戦ってくれるとか。この恩はどうにかして返さないとな。


 アンジーからの予備知識もあって、対死神戦は自分で思う以上に緊張していたようだ。


 首や肩が凝っている感じがして、多分無意識になのだろうけれど……やってしまった。


「八白さん、ストレッチするのはいいけどさ」

「ん?」

「今、手を上げたらマズくない?」

「なんで?」

「あれ……なんだけど」


 アンジーは腕を組んだまま右手の人差し指をピンッと立てて空を指差した。目を凝らしてよく見てみると……


 手榴弾がヘロヘロと飛んでいました。 


「あ、忘れてた。……つか、こっちに飛んできてんじゃん!」

「あはは。逃げるよ、アクトスノー様、キティちゃん!」


 ……う~む、当分ネタにされそうだな。


「ところで女神さんや」

〔なんですかご隠居〕

「エントロピーって、なに?」

〔知りません!〕


 ……女神さんのカカト落としがぱふっと炸裂しました。

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