死神が右手を前に差しだすと、ティラノは膝をついて動けなくなった。
……木刀を杖代わりにして必死で耐えているように見える。
他の
「ティラちゃんどうしたんだろ。なんか押さえつけられているみたいな感じに見えるけど?」
「多分あれは、重力魔法だと思う」
「ふむふむ、さすがは異世界帰りアンジー。でもそれなら
「転生者や転移者には……あ、もちろん八白さんや私もだけど、魔法耐性があるんだ。耐えられるのはある程度の魔法までだけどね」
そうなのか……ウチにもそんな特性があったのか。これは有用な情報、聞いておいてよかった。
「女神さん、マジでこういう情報は先に教えておいてくれ」
〔でも、秘密にしておいた方が謎多き女神でカッコイイじゃん?〕
「存在そのものが謎でしかないだろ、いらん要素を増やすなって。 『じゃん?』じゃないっての。誰の影響だよ……」
アンジーを指差す女神さん。まあ、わかってはいるけど。
そして『ふ~ふ~』と吹けない口笛を吹く真似をしながら、視線をそらす異世界帰りの謎女。
「このまま初代新生が負ければティラちゃんを取り返せるかな?」
我ながら汚い作戦。だがしかし、初代新生に対して手段は選ばない。取り返せればよかろうの精神だ。
「普通の相手ならそれもひとつの手なんだけどさ。でも今回は相手が悪いよ」
「というと?」
「死神ってね、倒した相手を操って軍団を作るんだ」
――なんですと⁉
「え? じゃ、じゃあティラちゃんや他の
「うん、死神の軍団になったら厄介だよ。生きながら死んでいくから。そしたら奪う事も取り返す事もできなくなるし」
マジか。みんなを助けなきゃ。でも初代新生は助けたくないし。……いやいや、そんな場合ではない。でも初代は……
「って事でさ。ちょいと助けに行ってくるね!」
「はい?」
アンジーは『コンビニにプリン買いに行ってくるよ!』って位軽い感じで飛びだすと、死神までの五〇メートルほどの距離を、四~五秒で駆け抜けていった。
「マジか……世界記録レベルじゃん」
「オラをまいた時は、あんなものではなかっただす(キリッ)」
死神と初代新生との間に割り込んだアンジーは、いつの間にか剣を持っていた。
「あれもフードから取りだしたんだよな……?」
RPGとかによくある感じの、なんかこう、ぐちゃぐちゃ~っとした模様の入ってる柄の剣。
太陽光でハッキリとわからないけど、剣身自体が青白く光を発しているように見えなくもない。
死神は突然現れた乱入者の顔をまじまじと見ると、一瞬“ビクッ”と反応し警戒の色を強めた。明らかに初代新生と戦っていたときとは反応が違う。
上手くは言えないけど、ウチには、なにか恐怖を感じているように見えた。
アンジーが剣を構えると、それを見た死神は自身も武器を取りだす。身長よりも長い、二メートルはありそうな大鎌だ。
「死神って言ったら大鎌だよね~」
〔敵ながら芸がありませんこと!〕
「それにしても、どこからだしたんだよ、あれ」
「な、なんか手からでてきましたね。ふわぁ~って。ふわぁ~って!」
うん、確かに“ふわぁ~”だった。プチの表現ってなにげに的確なんだよね、抽象的だけど。抽象的確。
……うん、ジュラ流行語大賞にノミネートしておこう。
「ところで、あれも魔法の一種なのかな?」
〔魔法か、それに近い現象のようですね〕
「ってことは、ウチもだせたりするのかも?」
じっと手を見る……
手を見る……
手を……
「でませんでした」
〔当たり前です〕
「マスターさん、ティラノさんたちが」
「うわ、やる事が汚ねぇな……」
アンジーが助けに入ったのを見た初代新生は、協力するのでも声をかけるのでもなく、その場から逃げだした。
もちろん
だが今は仕方がない、むしろそうしてくれてよかったと思う。間違っても死神軍団にならせる訳にはいかないから。
「プチちゃん、やってもらい事があるんだけど」
「なにをするのですか? マスターさん」
「ウチはちょいとプリンを買いに……じゃなくて、アンジーを助けにいってくるわ!」
♢
「はいはい、そこの死神さん。ここからは二人がかりでやらせてもらうよ!」
「あら、八白さんでてきちゃったのね」
「……オマエ ナニモノダ?」
ウチは大きく開いた右手を顔にあて、親指と人差し指の間から右目だけで死神を睨みつけた。少し
——そして厨二病全開のそれっぽい単語を並べてブラフをしかける。
「この世界の守護者にしてジュラシック界の王! キサマら魔王軍がひれ伏すべき十四世界の創世主。そして全てを滅ぼす伝説の猫耳。それがこのウチ、エンペラー・
〔噛みましたね。……しかしよくもまあ、そんな
「だが効果はあったで。死神のヤツ、恐れをなして身動き一つしてないわ」
〔いえ、あれは……呆れているだけです〕
……女神さん、いけずや。