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第32話・トリガー

「亜紀ぴ! ちゃけばメンブレかもだけど、あげみざわで~」

「うん、そうだね、あげぽよだね……」


 ティラノが去ったあとの孤独感が半端ない。周りにはこれだけ仲間がいるのに、胸にポッカリ穴が開くってのはこういう感じなのかな。


 決して他の恐竜人ライズや仲間たちを軽んじている訳じゃないけど、それでも虚しさが先に立ってしまう。


 俗な言い方になるが、彼女はウチにとって特別な存在だったんだ。


「はあ、ウチ、こんなにダメダメだったんか……」


 結局、初代はつしろ新生ねおがティラノを連れて行くのを見ているしかなかった。


 ライズの制約がある以上、アイツの言う通り“殺してでも”ジュラたまを取り返すしかないのだから。


「ライズ……制約どころか、今は呪いにすら感じるよ」


 ミノタウロスがウチの襟首をつかんで無理矢理立たせて言う。


「八白亜紀、お主がそんな事でどうする?」


 わかっているんだよ、わかっている。でもどうすれば……


「ワシにはティラノと勝負をする約束があるのだ!」

「闘うだけなら今のままでもいいじゃん」

「そうじゃないでヤンス。あのティラノはティラノじゃないでヤンスよ!」

「なんだよそれ? わけわからんぞ」


 マスターが変わっても最恐は最恐のままじゃないか。なにが違うって言うんだよ……。


「わからぬだと? たわけ、お主との信頼関係があってこそのティラノの強さ。今のアレはうわべだけの存在だ」

「そう……なのか……」

「もう一度言うぞ、ワシはティラノと勝負をする約束がある。それには八白亜紀、お主の存在が必要なのだ!」


 ミノタウロスたちの言うティラノの力は、ウチに起因しているって意味なのかな? 


 ……いや、そもそもライズ化ってなんなんだろう。


「なあ、女神さん。アイツはどうやって恐竜をライズ化してるんだ? チョコとか持ってなさそうだったし」

〔不要なのでしょう。転生時に取得したスキルによるものなので〕

「え? それって、なんかこう、ライズ化しようと考えたらそれだけでできちゃうってこと?」

おおむねその通りです〕

「そんな簡単なのかよ……」

〔八白亜紀、あなたも同じ能力を持っているハズですが?〕



 ――!!! 



「なん……だって……。いやいや聞いてないよそれ。ウチも思っただけで恐竜を仲間にできるの? チョコいらんの?」 

〔よく聞きなさい、八白亜紀。私は最初、『あなたには【ライズ化】のスキルが付与されます』と伝えています〕


 あ……アイテムが必要とか言ってなかったな。“言ってなかったのを聞いて”たわ。


〔本来であれば、アイテム等は必要とせずに恐竜を変身させることができるはずなのですが、どうやらあなたの場合はようです〕


「ちなみに、体力回復効果もウチの能力なのか?」

〔ライズ化したときの体力回復はマスターの能力ですが、チョコによる体力回復は配合成分の恐竜人ライズ専用回復薬の効果です〕


 ……そんな成分を混ぜてたのか。ウチもベルノも普通に食ってたぞ。


〔そしてライズ化というのは、恐竜を人型にするのと同時に、心を約束珠の指輪に変える力の総称です〕

「ライズ化自体が、二つの効果の複合ってこと?」

〔ええ、フィジカルとメンタル……あなたの好きそうな言い方をすれば『心も体も』ってやつです〕


 なるほど、心は取られたけど体はウチのもの。ってことか。


 ……うん、この言い方はやめておこう。


「それってもしかして、ティラちゃんをライズ化したウチなら、ジュラたまがなくても取り返せる可能性があるのかな?」

〔極々わずかだと思いますが、その可能性はあります。ですが前例のない話なので、なにひとつ確証はありません〕


 そもそも、転生者や転移者が同時にいる事自体がイレギュラーなんだから仕方がない。


〔最終的にはジュラたまを取り返す必要がありますが、そのジュラたまの力をが上回れば、一時的にでもリンクする事は理論上可能でしょう〕


 そっか、希望が見えてきたぞ。まだまだ力不足だけど、とにかくやるだけやってみないとだ。


 みんながいれば、なんとかなるかもしれない。少しだけ目の前が開けてきた感じがする。



「マスター……向こう。デス」


 アクロとスピノを抑え、その上ケーラの牽制までしていたガイア。彼女には、ウチのせいでとんでもない負担をかけてしまった。


 戦いが終わった直後その場に座り込んでぼーっとしていたんだけど、そのガイアが急に立ち上がって、川下を指差していた。


「なにが見えるの? ガイアちゃん」

「死にかけ……虫の息。デス」


 ――まさか、タルボ?


「タルボちゃんが生きてる?」


 ――行かなきゃ。救わなきゃ。


 気持ちばかりが先走ったせいか、急に立ち上がろうとして力が入らず、少しよろけてしまった。


「ネネ、まだどこか痛いニャ?」

「大丈夫、痛くない!!」

「……無理はいたすな」


 といいながら、ミノタウロスはウチを持ち上げ……。まさか、お姫様抱っこ⁉ 人生初のお姫様抱っこがミノタウロスだって⁉



 ……と、思っていた時期がウチにもありました。



「なあ、うっし~(ミノタウロス)……なんでウチ、“肩に担がれて”いるん?」


 米俵じゃないんだからさ。『人生初のお姫様抱っこは、米俵担ぎでした』とか黒歴史にしかならんのだけど。


「うむ、このほうが移動しやすいのでな」


 ……ごもっともです。

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