振り下ろされる最恐の一撃。空気の壁をぶち破った剣先が、ウチに襲いかかって来た。
その瞬間――。
ギィイイイン……
響いたのは重く鈍い金属音だった。続けて野太い声がティラノを叱り飛ばす。
「——なにをやってるか、ティラノ!」
「え?
ティラノの一撃を受け止めたのはミノタウロスだった。その手に持つ大戦斧が鈍い光を放っている。
「ラミアに言われて来てみれば、これは一体なにごとか!」
そうか、上手く合流できたんだ。ちょっと複雑な気持ちだけど、今はホントありがたい。
……そして、めちゃくちゃ心強い!
「わりとガチめのメンブレふぁいあ~!」
「この声は
ウチの後方からいくつもの小火球が頭上を走り、弧を描きながらランフォと呼ばれていた翼竜の腕に命中する。
二発三発と同じ個所に当り、耐え切れなくなったランフォはベルノを落としてしまった。
「ニャ~~~~~~!!」
地面に向けて真っ逆さまに落ちるベルノ。ウチは咄嗟に走りだしたけど、乱立する木々が邪魔で間に合わない。
「やば……ベルノ!」
「大丈夫でヤンスよ」
と、しっかりベルノを受け止めるリザードマン。ラミアと連携し、落下地点に待機していてくれたみたいだ。
「
「トカげニャ~!」
「……あぁん? なんで敵がそいつの味方してんだよ」
「て、敵じゃない……」
微妙な立場ではあるけど。それでも、もうお互いに無意味な敵対心はない。だから助けてくれるんじゃないか。
「魔王軍でも、ウチうちの仲間だ!」
「バカかお前? 攻めて来てるヤツらが仲間の訳ねぇだろ。おいティラノ、ケーラ、その牛をさっさと倒せ」
トリケラトプスの
さすがのミノタウロスも
ましてや、ティラノ級のパワーを持ったケーラの加勢とあっては太刀打ちできないと思う。
――ザクッ!!
突然、ケーラは足を止めた。それは、
「やらせない……動くな。デス」
残った二枚の
彼女の顔や首に大量の汗が流れているのが見える、相当無理をさせてしまっているみたいだ。
「ケーラちゃん、動かない方がいいよ。ウチも
我ながら雑すぎるブラフ。そもそも、全快だったとしてもウチにはケーラと戦える力なんてないのだから。
でも、嘘でもなんでも、これが今のウチにできる最大限の援護なんだ。
「ベルノもトカげニャ〜も戦えるニャ!」
このベルノのひと言が追い打ちになったかはわからないけど、ケーラは周りを見渡して“ドスンッ”と盾を下ろし、初代新生の方を見て指示を仰いだ。
一方、ティラノとミノタウロスは少し距離を取って構えていた。お互いに間合いを外して息を入れているのだろう。
「ティラノ、お主……」
「くっ……ほっといてく……れ……」
「そうはいかん。お主と闘う約束はこんな形ではないぞ!」
「くそっ、やらねぇのかよ」
初代新生は『ちっ』と舌打ちをすると、さっさと背を向けて歩き出していた。
「どいつもこいつもアホすぎんだろ。お前ら引き上げるぞ!」
「待てよ、ティラちゃんを返えせ!」
「はあ? 最恐を手放すわけないっての。ティラノのジュラたまが欲しければ、オレを殺してみな」
戦力はお互いに七人ずつ。人数の上では互角だけど、ウチとベルノはほぼ戦力外だ。
女神さんに至ってはいないに等しい。ガイアは疲弊しているし、これで戦うのはあまりに無謀でしかない。
……むしろこの場は引いてくれて助かったと判断するべきなんだろう。
「ティラちゃん!」
初代新生について去り行くティラノに、ウチは声をかける事しかできなかった。
「……ごめん……亜紀っち……ミノ……」