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第30話・起死回生

 ――ティラノを初代はつしろ新生ねおに奪われた⁉


 もっとも注意しなきゃならない事だったのに。それも、よりによって恐竜人ライズを手駒としか思わないヤツに奪われてしまった。


 ベルノも捕まっているし、ウチは一体なにをやってんだよ。


 ……戦術もなく、恐竜人ライズを突っ込ませるだけのヤツだとあなどったのが原因だ。


「おい、チビのジュラたまもよこせよ」

「ふざけるな、やる訳ないだろ。ティラちゃんを返せ!」

「負け犬の遠吠えってやつだな。取り返せるならやってみろよ……。やれ、ティラノ。こいつぶっ倒して持ってる指輪を全部奪うんだ!」


「うぅ……あ……亜、亜紀っち……ごめん……」 


 頭上に木刀を構えたまま、必死に抵抗しているティラノ。小刻みに震え、尋常ではない量の汗が噴きだしていた。


 ジュラたまの持つ強制力が相当なものだって事がよくわかる。


「ふふ、さっさと負けを認めろ、クズ」


「クズクズクズクズって、確かに白亜紀ここに来る前はそうだったかもしれないけど。そんなウチでも信頼してくれている仲間ができたんだ。裏切れないんだよ、そういうのは」


 とは言ったものの、結局は虚勢でしかないってわかっている。初代新生だけならまだしも、ティラノや他の恐竜人ライズたちが相手なのだから。


 ――だけど、なにもせずに屈するのは、絶対に違う。


 パワハラに負けて引き篭もった前世。そんなウチが白亜紀ここにきて、みんなのおかげでやっと前向きになれたんだ。


「彼女たちを裏切る事だけは、絶対にしてはいけない。例え、死ぬことになっても」

〔しかし、死んだらみんなを守れませんよ? それは裏切ったことになりませんか?〕


 ……なんでこんなときにド正論言うんだよ。


 確かにウチには恐竜人ライズと戦えるだけの力はない。


 それでも、まだ手はある。ティラノの攻撃をかいくぐり、初代新生に直接攻撃を仕掛けて気絶させる一手だ。



 ――猫人の身体能力ならワンチャン行けるはず。



「あ、そうそう、八白亜紀。うちの神さんって意外と優秀らしくてさ」

「……?」

「お前がオレを直接狙ってくるんじゃないか? って予測してるんだけど」

「な……」

「お、当たり? 神さんマジ優秀じゃん」


 と、バカにした笑いを向けてくる初代新生。


 それまでウチの中で色々な感情が入り乱れていたけど、その表情をみた時、モヤモヤっとした嫌な気分が支配していくのを感じていた。


 そのまま感情にまかせて踏みだそうとした時、ティラノのうしろにいたトリケラトプスの恐竜人ライズがスキルを発動させた。


「レックス……」


 地面に突き刺した巨大な盾が光を帯びる。


「ディヴァインベイル!!」


 光は左右に分裂し、その場に光の盾を発生させた。


 トリケラトプスの恐竜人ライズが持つ巨大な盾。そしてその左右に展開する光の盾。


 それは、『ここは通さない』という意思が籠った、絶対防御に振り切ったスキルだった。


「嘘だろ……ティラちゃんを避けるだけでも相当困難なのに」


 恐竜人ライズ二人を回避するルートがまったく見えず、十数メートル先の初代新生がはるか遠くに感じる。いくら考えても打つ手がなくて、あきらめの気持ちが頭をよぎっていた。


「ちっ、さっさとやれよ、アホが」


 初代新生は舌打ちをして、ティラノに悪態をつく。そして、その指に光るジュラたまが絶対順守の命令を恐竜人ライズに下した。


「――亜紀っち避けてくれ。頼む!」 


 ティラノの意志に反して、容赦なく振り下ろされる木刀。


 そして、空気を切り裂く爆音をまとった一撃が、なにもできないウチに迫っていた。


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