「え~と、君。ごめん、名前分からないけど……怪我ない?」
ウチが咄嗟に猫玉アタックで吹っ飛ばした
転がって泥まみれになった彼女に声をかけたら、“キョトン”とされてしまった。ウチが声かけるのって、そんなにおかしな事か?
「ウチたちが戦う理由なんてまったくないんだからさ。みんな仲間なんやで?」
「——はぁ? 勝手に仲間にしてんじゃねぇよ」
悪態をついてくる猫耳ブラックはとりあえずスルー。それよりもこの
「大丈夫?」
「は、はい……大丈夫……です」
たどたどしくしゃべりながら、視線を隠すようにつばの広い帽子をかぶり直していた。
やはりこの
「クソがっ! 答えてんじゃねぇよ!」
「だ~か~ら~! そういう態度取ってる間はウチたちには勝てへんで!」
「なにが『ウチたち』だよ。てめえのとこの
……言われてみて気がついたけどキティが見当たらない。辺りを見回すウチを見て、猫耳ブラックは『だっさ……』と悪態をついてから言葉を続けた。
「野生の本能とやらで、勝てねぇと思って逃げたんじゃね?」
「あの娘は、この状況で逃げるような
「そうっスよ、キティはへそ仲間っスから!」
……うん、それは言わなくていいとお姐さんは思うぞ。
♢
少し前の事。キティの得意なことや苦手を知っておいた方がよいと思って、なんとなく質問してみた。
「得意なこと、だすか……(キリッ)」
「そうそう、君をもっと知りたくてさ!」
キティは遠くを見ながら首を傾げ、唇に人差し指を当てて考え始めた。……ってあざとい、あざとすぎる仕草じゃないか。
多分本人は無意識にやっているのだろうけれど、これは可愛いぞ。
「オラは、走る事と……」
「うんうん」
「早く走る事だすな(キリッ)」
……ボケ属性かい!
「え、えと、武器とかなにか持ってるの?」
「よくわからないだすが、これが……(キリッ)」
と、胸の谷間から取りだした扇子。ってなんでそんなところからでてくるのよ。いや、そもそもなんで隠せるのよ。
ルカもキティも胸を強調しすぎだろ。……ウチのHPはもうゼロやで。
「マスター、オラ……使えないだすか?」
キティはちょっとだけ悲し気な表情で『自分は使えないのか?』と聞いて来た。
「あ、ちゃうちゃう。そうじゃないって!」
扇子を取りだした時に『可愛くてあざとくて胸が大きいとか反則だろー』と軽い嫉妬をしてしまったウチ。
多分その時の表情を見て、ガッカリしたとでも受け取ったのだろうか。
「キティちゃんはウチにない
「……それはないだす(キリッ)」
「え?」
「皆に比べたらオラは非力だけど、仲間を見捨てる事だけはしないだす(キリリッ)」
その時のキティの表情はいつにもましてキリッとしていた。ウチはキラキラと澄んだその目を見たときに、心底信用できる言葉だと確信したんだ。
♢
「彼女は逃げない。あの時のゆるぎない言葉を、ウチは
「うぜえ……おい、タルボ、アクロ、そのまま押さえてろ。オレが直接とどめを刺してやる」
猫耳ブラックは
「やらせるわけ無いだろ。——頼む、キティちゃん!」
ウチのポケットから桜色の光が漏れる。
——キティのジュラたまの光だ。
ティラノやルカがスキルを使った時のような強烈な発光ではなく、本当に一瞬だけふわっと光った感じだった。
「——まかせるだすよ!(キリッ)」
突然、猫耳ブラックの真横に姿を現したキティ。
「こいつ、どこから……」
彼女が一瞬怯んだ隙を狙い、キティはその場で前方宙返りからのカカト落としを放った!
「喰らえだす(キリリッ!)」
凄まじい速度の蹴りだ。脚は鞭のようにしなり、摩擦熱のせいか空気が揺らいで見えた。
「これが本当のカカト落とし! どこかの詐欺女神とは全然モノが違うで!」
直後、ウチの後頭部に“ぺしっ”と木の枝かなにかが当たった感触があった。……うん、多分これはイセカサギノメガサウルス妖精のカカト落としモドキだな。
正確に武器だけを狙い、蹴り落としたキティ。猫耳ブラックは、なにが起きたのか理解が追いついていないのだろう、たじろいて数歩後ずさっていた。
「ふっ、安心いたせ。峰打ちでござるだす!(キリッ)」