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第23話・イセカサギノメガサウルス

「あんたからは、なんかよくない臭いがプンプンするっス!」 


 数メートル先の木陰からでて来たのは、ウチと同じ猫耳しっぽの少女だった。

 濃紫のジャケットにピンクのストレートロングヘア、見た目だけなら学校で人気になるような可愛らしい見た目だ。


 ——ルカは警戒の色を強めた。容姿とは裏腹に、彼女自身が発する危険な香りをかぎ取ったからだ。


「ん~、マジで転生者だったか」


 ベルノが見間違えたのは彼女で間違いなさそうだ。

 もっとも、少女って言っても見た目だけで中身はわからないけど……おっさんとかだったらどうしよう。


「転生? そんなん知るかよ。オレは目的があって来ているんだ、一緒にするな」

「……来ている? 転移って事なのかな?」

「どっちでもいいだろ、うぜえな」

「はあ、そうっすか」 

「魔王軍はてめぇより先にオレがぶっ潰す! クリア報酬は絶対に譲らねえ、邪魔すんじゃねぇぞ」


 ……なんかムカつくな~。腕を組んで顎を上げ、同じくらいの身長なのにムリヤリ見下ろしてイキっていた。


「女神さん、こいつ誰?」

〔わかりません〕

「ってことは、ほかの神さんが転移させたとか?」 

〔どうやらそのようです。転生や転移に関して、私たちは一度にひとりの人間にしかアクセスできないのです〕

「なるほど……」


 目の前の猫耳少女は、手に持った変わった形の剣で女神さんを指し示して口を開いた。


「なにをコソコソ話してんだよ。……ってゆうかマジそいつなにもん? それも恐竜人ライズなのかよ」

〔失礼な! 私は……〕

「——ああ、そうや、この妖精もウチの恐竜人ライズや! イセカサギノメガサウルス言うんやで。レア中のレアや、知らんやろ!」


 女神さんの言葉を遮りながら、『話を合わせてくれ!』と視線を送る。妖精の姿を知らないって事は、アイツの神さんは実体化できないのかもしれない。


 どうせすぐにばれるだろうけど、この事は情報として与えない方がよさそうだ。


「相手が分からない今は、手の内を明かすのは得策じゃないで」

〔だからってその訳の分からない名前はなんですか……〕


 異世界詐欺の女神さんイセカサギノメガサウルス。お似合いの名前だと思うのですが~なんて言ったらまたカカト落としが来そうなので黙っておく。


「だからコソコソしてんじゃねぇよ、うぜえな。おい、タルボ!」

「は、はい……」


 木陰から恐る恐るでてきた小柄な恐竜人ライズ

 マーチングバンドが着るような、肩に飾りのついたビシッとした青い服に短めのスカート。お団子頭シニヨンがかわいい中学生くらいのだ。


「やっちまいな!」

「おま、そんな怯えている娘を戦わせるのかよ」

「はぁ? こいつ等は目的達成の為の駒だろ。そんなぬるいこと言ってるくらいなら、さっさと指輪置いて帰れよ!」


 ウチは死んでからの転生だからな、帰れと言われても帰る場所がないんだっての。


 それに恐竜人ライズを駒扱いするようなヤツに、大事な娘をやるわけないだろ。


 ……ってまあ、ウチも数日前までは大差なかったけどさ。


「ルカちゃん任せた。手加減してね」

「任せて下さいっス!」

「なんで手駒にちゃんづけしてんだよ。お友達ごっこか? アホが」


「なに言ってんだよ……。彼女たちは手駒なんかじゃねぇ! !!」


 こいつはまだ知らないだけなんだろうけど、めちゃくちゃ純粋で、生きることに素直な恐竜人ライズたちなんだ。


「ウチら人間みたいな邪念はもってないんやで。その娘たちを、お前の仲間をもっとちゃんと見てやれよ!」


 ……って、数日前の自分を考えたら恥ずかしすぎるセリフ。女神さんのジト目がザクザクと刺さる。


「うっざ。駒の使い方はオレが決めんだ。脳味噌のねぇカスどもは黙って従ってろ!」


 もう、マジでこいつなんなん? アホとかカスとか好きに言ってくれてもう……。穏便にと思ったけど、もういいや。


 ウチは“ビシッ!”と猫耳少女を指差し、キティとルカに号令をかけた。


「——助さん、格さん、目の前の悪党をぶっ叩いてやりなさい!」



「姐さん……それ、誰っスか?」

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