「あんたからは、なんかよくない臭いがプンプンするっス!」
数メートル先の木陰からでて来たのは、ウチと同じ猫耳しっぽの少女だった。
濃紫のジャケットにピンクのストレートロングヘア、見た目だけなら学校で人気になるような可愛らしい見た目だ。
——ルカは警戒の色を強めた。容姿とは裏腹に、彼女自身が発する危険な香りをかぎ取ったからだ。
「ん~、マジで転生者だったか」
ベルノが見間違えたのは彼女で間違いなさそうだ。
もっとも、少女って言っても見た目だけで中身はわからないけど……おっさんとかだったらどうしよう。
「転生? そんなん知るかよ。オレは目的があって来ているんだ、一緒にするな」
「……来ている? 転移って事なのかな?」
「どっちでもいいだろ、うぜえな」
「はあ、そうっすか」
「魔王軍はてめぇより先にオレがぶっ潰す! クリア報酬は絶対に譲らねえ、邪魔すんじゃねぇぞ」
……なんかムカつくな~。腕を組んで顎を上げ、同じくらいの身長なのにムリヤリ見下ろしてイキっていた。
「女神さん、こいつ誰?」
〔わかりません〕
「ってことは、ほかの神さんが転移させたとか?」
〔どうやらそのようです。転生や転移に関して、私たちは一度にひとりの人間にしかアクセスできないのです〕
「なるほど……」
目の前の猫耳少女は、手に持った変わった形の剣で女神さんを指し示して口を開いた。
「なにをコソコソ話してんだよ。……ってゆうかマジそいつなにもん? それも
〔失礼な! 私は……〕
「——ああ、そうや、この妖精もウチの
女神さんの言葉を遮りながら、『話を合わせてくれ!』と視線を送る。妖精の姿を知らないって事は、アイツの神さんは実体化できないのかもしれない。
どうせすぐにばれるだろうけど、この事は情報として与えない方がよさそうだ。
「相手が分からない今は、手の内を明かすのは得策じゃないで」
〔だからってその訳の分からない名前はなんですか……〕
「だからコソコソしてんじゃねぇよ、うぜえな。おい、タルボ!」
「は、はい……」
木陰から恐る恐るでてきた小柄な
マーチングバンドが着るような、肩に飾りのついたビシッとした青い服に短めのスカート。
「やっちまいな!」
「おま、そんな怯えている娘を戦わせるのかよ」
「はぁ? こいつ等は目的達成の為の駒だろ。そんなぬるいこと言ってるくらいなら、さっさと指輪置いて帰れよ!」
ウチは死んでからの転生だからな、帰れと言われても帰る場所がないんだっての。
それに
……ってまあ、ウチも数日前までは大差なかったけどさ。
「ルカちゃん任せた。手加減してね」
「任せて下さいっス!」
「なんで手駒にちゃんづけしてんだよ。お友達ごっこか? アホが」
「なに言ってんだよ……。彼女たちは手駒なんかじゃねぇ!
こいつはまだ知らないだけなんだろうけど、めちゃくちゃ純粋で、生きることに素直な
「ウチら人間みたいな邪念はもってないんやで。その娘たちを、お前の仲間をもっとちゃんと見てやれよ!」
……って、数日前の自分を考えたら恥ずかしすぎるセリフ。女神さんのジト目がザクザクと刺さる。
「うっざ。駒の使い方はオレが決めんだ。脳味噌のねぇカスどもは黙って従ってろ!」
もう、マジでこいつなんなん? アホとかカスとか好きに言ってくれてもう……。穏便にと思ったけど、もういいや。
ウチは“ビシッ!”と猫耳少女を指差し、キティとルカに号令をかけた。
「——助さん、格さん、目の前の悪党をぶっ叩いてやりなさい!」
「姐さん……それ、誰っスか?」