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第21話・へそ。

 鮮やかな濃緑の葉と隙間からキラキラと差し込む太陽、そして小川のせせらぎ。広場になっているスペースもあって、拠点としては申し分のない場所だ。


 風が気持ちよくて心が落ち着く。そんなまったり気分の中、実は切羽詰まっている恐竜人ライズが一人いた。


「マ、マスターさん、これ、なんですかぁ~」


 木々の間にぶら下がっている“下膨れの植物”から、プチが顔だけ出して聞いてきた。


「あ~それね。食虫植物って言って……まあ、生き物を食べる植物だよ~」


 それにしてもデカい。ヒトを丸飲みする大きさだ。白亜紀ってこんなのもいたのか。


 プテラノドンでいた頃は間違っても中に落ちるなんて事はないから、彼女が知らなくても当然の話だな。


「と、という事は私はもしかして……」

「うん、そのままだと消化されるよ~」

「見てないで助けてください~!」

「仕方ないっスね~」

「お、ルカちゃんやる気だね!」


 めっちゃ楽し気な笑顔で、両拳を胸の前で打ち合わせながら歩みでて来た。

 ここはお手並み拝見。ティラノと同じく気を貯めて放つ感じかな? これはワクワクするぞ。


「よっしゃ!! プチ、ヘソに力いれろよ!」

「……ひぇぇ?」


 精神集中、足元から立ち上がる闘気オーラ。ティラノと同じように恐竜の姿を形成していく。あれはカルカロドントサウルスの!!


 ……って、ウチには影だけでティラノサウルスと区別できるわけなかったわ。 


 ルカの右手からバチバチ……と電気が弾けるような音が聞こえる。このは雷属性なのかな? 

 目の錯覚か、拳がひと回りもふた回りも大きく見え、それに呼応してルカのジュラたまがボワっと光りだした。


「——いくぜ! レックス・インパクト!!」


 ルカは腰を落とした構えから、食虫植物の膨れ上がっている部分を狙って右ストレートを打ち込んだ! 


 雷のような細い光を絡ませた拳が、空気を斬り裂いて唸る! 


 そして、黒ひげ危機一髪の如く、不気味な液体と一緒に“ぽんっ”と飛びだすプチ。


「ひ、ひどいですぅ~」

「溶けないでよかったニャ」

「ルカちゃんやるね~!」

「任せてくださいよ姐さん。伊達に裸族やってないっスよ!」


 ……いや、全然関係ないし。もしかしてそれ、脱ぎたいアピールなのか⁉


 ところで今気がついたんだけど、恐竜って卵でかえるのに、恐竜人ライズになるとヘソがあるのね。


「なぜまたオラのヘソ見てるだすか!!(キリッ)」


 おっと、いかんいかん。いつの間にかキティのヘソに顔を近づけてしまっていた。


「相変わらず、キリッとした可愛いヘソだなぁ」

〔八白亜紀、セクハラですよ〕

「女神さん、それは違うで」


 ウチは人差し指を立ててチッチッチッとジェスチャーをしてみせた。


「それを言うならジュラハラや!」

〔はあ、また微妙なネーミングを……〕


 ……ほっとけ。


「ところでこの辺りに二~三人いると思うんだけど、全然見えないねえ」

「ちょっと飛んで見てみましょうか?」

「お~。プチちゃん頼む!……と、その前に」


 プチが体中にまとっているのは、茶色い食虫植物の粘液。うん、これはちょっと……


「臭いよ~」

「はうぅ……」

「夏場に一か月放置したシンク内の生ゴミみたいな臭いだぞ!」

〔つまり、やった事があるのですね?〕


 ……ちっ、墓穴を掘ったか。


 ぴちゃぴちゃと水浴びをするプチ。汚れを落としていると思ったら、急に滝つぼに潜り、そのままでてこなくなった。


「え? まさか……ヤバイ、溺れたのか⁉」

「マスター、大丈夫だすよ(キリッ)」

「え、そうなの?」


 目を凝らして見てみると、揺れる水面に反射する光の合間からプチが泳いでいるのが見える。


「翼竜なのに泳げるんか」


 水面が盛り上がり、プチは顏の二倍もある大きさの魚を口にくわえて上がって来た。


 満面の笑みで『獲れました』と魚を見せるプチ。つか、古代魚グロい。でも、魚はグロいほど美味いって言うし……でも、グロいなぁ。


「エ、エネルギー補充しました~!」


 あれ? 今……丸飲みしてなかったか? 恐ろしい娘や。そんなとこだけロックしてるのね。


「では、見てきますね!」


 颯爽と羽を広げると、力強く一気に飛び上がるプチ。さすがは翼竜、空の王者の面目躍如ってところか。


 場合によっては制空権の確保をしてもらう事もあるかもだし、この先の事を考えたら、あと二人くらいは飛べる娘が欲しいな。


「あ、女神さんや。チーム猫耳恐竜ってどう?」

〔どうって言われても……なんですかそれは〕

「ん? 今決めたウチたちのチーム名やで!」

〔……なぜあなたはそう言う微妙な線を突いてくるのか、心底不思議でなりません〕

「ひどい言われようやな。”す~ぱ~“よりはセンスいいと思うで」


 そんなやりとりをしているところに、プチがすーっと降りて来た。


「どうだった~?」

「え~とですね……わかりませんでした」

「はい? ……なんですと?」

「視力悪いんですぅ~」

「そうでした……」


 力が抜け、膝から崩れ落ちてしまった。ベルノの時も「小さいなにか」としか識別できてなかったし。


 もう、どこかに眼鏡でもおちてないかな。


「ネネ、ベルノも飛ぶ~!」

「君はネコ科だ。飛べないぞ」


 ……いや、ちょっとまてよ?


「プチちゃん、ベルノ抱えて飛べる?」


 ウチみたいな成人は無理でも、ベルノくらいの幼女ならなんとかいけるんじゃないかな?


「……シャーってしない?」

「しないニャ!」

「そ、それなら……」


 これでよし。プチの視力はベルノで補う。これが適材適所ってもんだ!


「ベルノ、この辺りに恐竜さんがいるか見てくるんだよ~」

「はいニャ!」


 万が一の為に、木々の間に張っているつるを命綱代わりにしてベルノとプチを繋ぐ。これで準備万端!


「いってらっしゃ~い。ご安全に~」

「くぅ、俺様も飛んでみてぇぜ!」


 気持ちよさそうにしばらく上空を旋回する二人。 


 しばらくして、ベルノがなにかを見つけたようだ。相変わらず短い手足を伸ばしてジェスチャーで伝えようとしている。


 バタバタ動くベルノを懸命に抱えながら、プチがスーッと降りて来た。


「ネネ~、いた。あっちにいたニャ!」

「どんなのだった?」

「ネネ、いたニャ!」

「いやだから……」

「ネネがいたニャ!」

「……?」


「マ、マスターさん、ベルノちゃんが言うには……」


 通訳助かるわ。なにを言っているかわからない時があるからなぁ……それもまた可愛いからいいけど。 


「む、向こうにマスターさんがいる、と」



「はい? ……ウチがいる?」

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