「ちょっ、脱ぐってなんで?」
「なんでって……いや、そもそもなんで
「まあ、確かに元々は裸には違いないけど。って、いやいや、裸族だとしてもここで脱ぐとかそんなんじゃなく……てえぇえぇぇ!」
いきなり脱ぎ始めたよこの
前言撤回、眩しすぎるのは性格じゃなくて裸でした!
「とりあえず、胸にサラシくらい巻いてくれ!」
「え~、マジっスか~。なんか布ってごわごわしてて動き辛いんスよ。それになんか胸苦しいし……」
「我慢して、頼むからそこは我慢して! つか、サラシで胸が苦しいとかウチも言ってみたいわ。マジで、切実に‼」
……いや、ホント焦った。とりあえず上着は脱いで胸にはサラシ。そして白いボンタンに素足。下まで脱ぎはじめなくてよかった。
「お姐さん驚いちゃったよ、もう」
「でも、
ティラノとおそろいの特攻服。それだけはキッチリとたたみ、汚れない様に脇に抱えていた。
それにしても、ルカって何気に筋肉質なんだよね。腹筋が薄っすらと割れているし、ヘソも可愛いし。
「ヘソ……」
「なぜオラのヘソ見てるだすか!!(キリッ)」
……イカンイカン。キティもスポーツブラに
二人とも美形でへそ出しがデフォルトとか、ウチが男だったら絶対に放っておかないぞ。
と、まあ、それはさておき。
「女神さん。これで五人やで!」
〔はいはい、すでにグレードアップさせておいたんだからね!〕
語尾がたまにツンデレ調になるのって治せないのかな? なんか調子狂うんだよな~。
見た目は今までと変わらな……いや、これは……。
「女神さんや」
〔なんですか御隠居〕
「この、手書きの”す~ぱ~“って文字はなに?」
〔グレードアップした超カバンですので!〕
と、ドヤ顔で言っていますが……ウチのネーミングセンスにツッコミ入れながらこれか。
「あ~、ところで、どうやって取り出せばいいの?」
ウチはデカデカと書かれた手書き文字を見なかった事にして、肩からカバンを下ろしながら使用方法を聞いてみた。
〔そうですね……欲しい食材を想像しながら取りだせば、極力希望に沿った物が出てくるでしょう〕
「極力って、またアバウトな言い方だな。ねぇみんな、なにか食べたいものある?」
――シーンと静まり返る
あれ、なんで誰も口を開かないのだろう? ここまで無反応だとウチが相手にされていないみたいじゃないか。
……と思ったけど、よくよく考えてみれば、今まで生肉しか食べた事のない白亜紀の生き物に『なにか食べたいもの』なんて聞いても答えが返ってくるはずがない。
これは失言、ちょっとばかし申し訳ない気分になってしまった。
「あ、え~と……」
「ネネ~、ジュース飲みたい」
このなんとも言えない空気感に焦っていたら、ベルノの助け舟が着岸した。これはイージス艦くらい心強い、そして可愛くてナイスだ!
「お、いいね。皆で飲もうか!」
果汁系のジュースならみんな大丈夫だろう。と、カバンに手を突っ込み、頭の中でジュースを想像しながら……しながら……しながら……
「おい、女神……」
〔なんでしょう?〕
「でてこねえぞ」
いくらカバンの中をまさぐっても、なにも手に触れるものがなかった。
〔八白亜紀、あなたが希望したのは“食材”です。完成した料理はでませんよ?〕
「マジか、そのくらい
〔そのかわり、食器や調理器具はだせるんだからね!〕
相変わらずサービスがいいのか悪いのかわからない女神さんだ。
それにこの言い方って『フライパンは出るけど火は自分で起こしてください』って言うよな、絶対に。
ウチは再度カバンに手を突っ込み、想像をフル回転。しばらくまさぐっていると、ひんやりとした丸い物が手の中に入ってきた。
「……よしっ」
——これだ!
「シャクシャクと爽やかな山梨の桃!」
頭上に掲げたそれは、太陽に照らされて水滴がキラキラと光っていた。ウチはほいっと、ティラノに投げて渡す。『お?』と反応してしっかりキャッチするティラノ。
「そして、トロっと芳醇な福島の桃!」
こちらもほいっと手渡す。
「さあ、しぼって~」
ティラノの手の下にコップを置いて『ここに入れて!』と目で訴えた。
「お、おう……」
甘い良い香りをす~っと吸い込むと、ティラノは桃を握り潰した。
手の中からあふれ流れる、キラキラ透明な100%絞りたてジュース。
「ベルノ、ジュースだぞー。ティラちゃんがつくってくれたんだぞー」
手渡したコップを両手に持ちジュースをまじまじと見ると、ベルノはティラノを見つめた。
「飲んでいいのニャ?」
と首をかしげながら聞いた。
「ああ、ど、どうぞ。お飲みくだ、ませませ?」
「ありがとですニャ!」
「どう、いたまして……」
「あれ? ティラちゃん照れてる?」
「う、うるせーヨ」
顔を赤らめて、あきらかに照れているティラノ。
相手がベルノだらからというのもあるかもしれないけど、こういう異種族の交流とか初めてなのが大きな理由なのだろう。
小さい体と短い手足で喜びをアピールしている子猫のベルノ。屈託のない笑顔は至宝と言っても過言じゃない。
スカートをフリフリさせながら一心不乱に飲んでいる姿が、たまらなく
「ほらほら、こぼしてるぞ~」
「な、なんかマスターさんって……」
「ベルノのママみたいだすな(キリッ)」
「――いいえ、
ここはキッパリと言っておかないと、そのうち本当にママ扱いになってしまいそうだよ。
♢
「おーい、亜紀っち~」
全員分のジュースを絞って、ベタベタした手を川で洗い流したティラノ。
……って、いつの間にか名前呼びになってる。まあ、悪くないよな。“初めて”のマ、マ、マブだから。
口に出すと恥ずかしいから絶対に言えないのだけれど。なんたって、これはボッチが軽く死ねる言葉なのだから。
「はいはい、なにかあった?」
「こいつ完全に酔いつぶれてるぜ」
そこには、リザードマンが真っ赤な顔で目を回してひっくり返っていた。
〔完全に酔い潰れていますね〕
「マジか。ラーメンで酔ったのかよ……」
「叩き起こしましょうか? 姐さん」
「いや、寝かせておいてあげて~」
彼等の処遇を聞いていたら、なんだか他人事に思えなくなってしまった。そもそもウチが引き籠ったのは、ブラックな職場で追い詰められたのが原因だったから。
「と、ところでマスターさん。あの角の生えた人はどうするのですか?」
「あ、そうか。なにか忘れていると思ったら」
……踏みつぶされたミノタウロスだ。
恐竜の大きさがアドバンテージになったレアケースのモンスター。
「あ~、アイツ大丈夫か?」
「ティラちゃん……君も忘れてたのか」