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第12話・お宝さん。

 ――大自然と恐竜の時代、白亜紀。


 見渡すもの全てが、その時代の主人公である“恐竜”に合わせたサイズのものばかりだ。現代では見たこともないような、巨大な樹木や草花。そして、その間を吹き抜ける爽やかな風。


 そんな風光明媚ふうこうめいびな超大自然に転生……いや、恐竜たちの真っただ中へ詐欺同然に放り込まれたウチは……


「とりあえずまだ生きとるで~!」


 ……ほんの数時間で何度も何度も何度も何度も死にかけたけど。





 プチは自身の判断で周囲を警戒していてくれた。


「気が利くだね~」


 さすが、弱肉強食に生きる恐竜だけに警戒心が強い。と思いもしたけど……まあその実、猫パンチが怖くて避難していたのだろうな。


「お、敵か?」


 嬉しそうに立ち上がる、純粋戦闘民族単なるバトルマニアティラノサウルスの恐竜人ライズ。目がキラキラと輝き、めちゃくちゃ生き生きしている。


「プチちゃん、なにかわかる?」

「さあ、なんでしょう?」


 ……うん、思った通りの返事。やはりこの娘は視力が弱すぎるな。最初は『つかえねぇ』なんて思ってしまったけど、今はむしろ『可愛いじゃん』と感じてしまう。


 これは多分……いや、間違いなく、ウチ自身の彼女たちに対する考え方が変わったからなのだろう。


「ん~、我ながら単純だぜ!」


 と、それはさておき。こっちに来ているのって魔王軍かもしれないから十分警戒しなきゃ。


「あれ、まてよ?」


 『この猫人の身体なら木登り出来るんじゃ?』と、思い立って登ってみたらあら不思議。あっさりサクサク登れてしまった。人生初木登りかも。今は猫人生だけど。


 ぶっとい枝に腰を下ろし、プチの指差す方向に目を向けたそのとき。ヒザにサワサワっと懐かしい感触があった。


「な……これは!!」


 木を登った時についてきたのだろう。座っているウチのヒザや脇腹に、『ふにゃ!』っと耳のつけ根をスリスリしてくるベルノ。


「かわええ、これは萌え死ぬ」


 柔らかい髪の毛を撫でるだけでストレスが吹き飛んでいく。これがアニマルテラピーってやつなのか。プチもベルノの可愛さに顔がほころび、なんとも言えない幸せな表情を見せていた。


「お~い、戻ってこ~い」

「……おっと、ティラちゃんごめん。“ほわ~ん”と幸せトリップしてたわ」



 改めて見渡すと、走ってきているのは小柄な……と言っても身長三メートルくらいの走り回るタイプの恐竜だった。人間からしてみれば十分巨大な生物だ。

 RPGではラプトルとか、なんかそんな感じの名前のやつのはず。つまりはよくわからん。


「そもそも恐竜に詳しいアラサー女子なんてまずいねえだろ!」

〔え~と、あの種はキチパチですね〕

「恐竜解説員・女神さん登場!」

〔変な肩書きをつけないでください〕


 ちなみに初めて聞く名だ。ティラノサウルスとかプテラノドンといった超メジャークラスの恐竜ならだれでも知っているだろうけど、キチパチなんて言われてもマニアにしかわからないんじゃないか?


〔獣脚類の恐竜で、名前はサンス…クリット語で「火葬の王」を意味すます。か……化石はモンゴル~のゴビ砂漠にあるウ、ウハー……ウハート、ルゴドの……ジャドプ……フタ層で発見されました〕

「オイ、wikiかなにか丸暗記したんだろ。噛んでるし。つか、獣脚類がなにかわからんわ!」

〔……キチパチは、日本語では〕


 ……こやつ、聞こえなかったことにしようとしてやがります。


〔日本語では……シチパチやキティパティ、シティパティなど様々な名前で呼ばれています〕

「ほう、ウチはキティちゃんがええな!」

〔そういう話ではないのですが……〕


 ティラノはフィジカル極振りのバトルマニアだし、プチは空を飛べる。二人ともライズ化しても、恐竜のときの特性をそのまま持っている。とすると、向かって来ているキティパティは、“走るのが得意な娘”なのかもしれないな。


 ……って、こらこら。


「ティラちゃんストップ、木刀ダメ~~~!」


 あぶないって。この娘ってば、いつの間にか木刀構えてんじゃん。


「なんだよメンドくせえなぁ」

「優しく、優しく捕まえて!」

「ったくよう……」


 ひたすら走ってくるキティパティ。なにかに追われているのだろうか、必死な感じが伝わって来る。


 ティラノサウルスとは言え今は人間サイズだ。三メートルはある恐竜からしたら、ちょっとした障害物くらいの感覚だったのだろう。


 一心不乱に走るキティパティは、そのまま踏みつぶそうと脚を上げた。


 しかしティラノは造作もなくその足を掴むと……振り回して地面に叩きつけてとどめに頭突きをかましていた。


「優しく言うたのに……」


 目を回しているキティパティ。とりあえず急いでチョコを食べさせなきゃ。


 でもさ……


「木から降りられません」

「はあ?」

「猫って、猫ってぇ~」


 ……そうだよな、木に登ったあと降りられない猫の動画とか散々見てきたじゃあないか。


「まあ、なんだ、俺様のこれチョコ食わしときゃいいのか?」

「あ、それで~」


 ――ミルクチョコin!

 ――煙deポンッ!!


「な……なんだすか、これは? オラ、なにがあったんだすか?(キリッ)」


 風にそよぐ桜色のポニーテール。彼女は胸元が大きく開いた黒革のスポーツブラに、鮮やかな赤い法被を羽織っていた。


 背中には“忍”の一文字が躍り、キリッと整った顔立ちに物憂げな瞳が見る者を惹きつけて止まない。


 襟を両手で整えて、口に入ってしまった髪の毛を人差し指で耳にかけ直す。『りん』という言葉が似合う和風女子だ。


 そして鮮やかで派手過ぎない薄いピンク、桜色のジュラたま。名前はキティ。


「ウチの希望通り、キティちゃんの登場やで!」

〔固有名詞なので最初から決まっていますが……〕

「そんなこと言わんと~。ところでキティちゃん」

「なんだすか?(キリッ)」

「へそ、見えてっぞ~!」

「見ねぇでくだせえっす!(キリッ)」


 両手で腹を押さえて“へそ”を隠すキティ。なんかまた可愛い娘がでてきてしまったな。必ず“キリッ”と決め顔を入れてくるのもよき。



 ……なんか、ウチの立場がなくなりそうだよ。

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