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第4話・妖精さん?

〔魔王軍が攻めてくるまで猶予はありません。仲間を増やし、対抗できるだけの戦力をととのえてください。恐竜人ライズとなった仲間にはその者の特徴に応じて、スキルや魔法が付与されます〕


「ふむふむ。戦う力ってことね。……それはそれとしてさ」

〔なんでしょう?〕

「やっぱり異世界に転生させてくれないかな~と……ダメっすか?」

〔ダメです〕


 ……ゴミみたいな人生から転生したらこんななにもない時代に放りだされて、それで恐竜を仲間にしろとかさ。ふざけんなってんだ。


「ウチの人生、なんでこんなしょうもない事ばかりなんや……」


 このティラノがイイってのはわかる。それは否定しない。でもそれとこれとは別の話なんだよな。


「——なあ、それ食っていいのか?」

「それって?」


 顏を上げてティラノを見ると、彼女はウチの頭の上を指差していた。


〔やめてください。私は食べ物ではありません!〕

「え? その声……女神さん?」


 見上げるととそこには、絵本にでてきそうな妖精が飛んでいた。


 身長はウチの手の平より少し大きい位だから二〇センチほどか。薄紫の髪の毛と、緑色が透けて見える透明な羽。もの凄く清楚なイメージだ。


 ……でもこれ、中身は詐欺女神なんだよな。


〔なにを驚いているのですか、八白亜紀〕

「あ、いや、なんで妖精なの?」

〔姿があった方が話しやすいでしょう?〕

「まあ、そうだけどさ」

〔それに、こうやって実体化できるのは“数名しか持っていない貴重な能力”なのですよ。ラッキーと思ってくれてもいいんだからね!〕


 ……なんか微妙にツンデレ口調が入っているような?


「で、食っていいか?」


 ティラノはよだれを垂らしながら、女神さんをハンターの目で見定めていた。


〔八白亜紀、なんとかしてください〕

「もう、丸投げかよ」


 フワフワと飛びながらウチの背中に隠れる女神さん。ってか、こいつはウチをこんなところに送り込んだ張本人じゃん。


 むしろ食われてしまえ。と一瞬思ったけど、目の前で食いちぎられる絵面えづらはさすがに遠慮したい。


 それに、多分口を滑らせたのだろう……今女神さんは『数名しか持っていない能力』って言ったんだよな、『数名』って。


 これって他にも神仲間がいるってことだ。そしてその中には、異世界転移ができる能力を持った神さんがいるかもしれない。


 ……そう仮定すると、手掛かりであるこの女神さんには死なれちゃ困る。


「えっと、ティラノさん相当お腹空いてる感じ?」


 ティラノの横に転がっているチョコの空き箱。いくつあるかわからないくらい山積みだ。


「おう、一週間ぶりだからな」

「そか~、弱肉強食の世界って大変なのね」


 ウチはゴソゴソとカバンから豚骨醤油ラーメンを取りだし、ティラノに手渡した。


「……なんだこれ?」


 濃厚な香りが彼女の鼻孔をくすぐったのだろう。『なんだこれ?』と言いながらも、どんぶりに口をつけてスープを飲み始めた。


 ――ゴクッ


「——ん⁉」


 ティラノの目が鋭く光る! 


 ――ゴクゴクゴクゴクッ


「んんんん……」


 お、これは気に入ったな。ティラノは足をバタバタさせながら一気にスープを飲み干してしまった。麺と具材が虚しく顔をのぞかせているのはご愛敬だ。


「うめー!! なんだこれ、最強じゃねえか!」

「気に入っていただけてなにより。次は麺も一緒にね」

「まだあんのか?」

「もちろん、好きなだけ食べていいよ」


 キラキラとした尊敬の眼差しで見つめてくるティラノ。う~ん、ラーメン好きブロンド美少女なんて、モテ要素満載じゃないか。


「それでね~。あ、食べながら聞いてね。なんか面倒なヤツらが来るから、対抗勢力を作れって、このフワフワしたのに言われてんだけど」


 ……まあウチはやる気ないけどさ。


「ああ? そんなもんは俺様一人で十分だろ」

「ん~、それでも空とか海とかは無理でしょ」

「確かに、飛んでるヤツには俺様の牙は届かねえ。だがな……」


 ティラノはそこに落ちている小石を拾うと、ものすごいスピードで空に向けて投げ放った。

 衝撃波をともないながら一直線に飛び、雲を蹴散けちらして青空に突き抜けていく!


「キーーーーー!」


 突然、空に響き渡る悲鳴。見上げた先には黒い物体が見えて……あ、これはなにか落ちて来てるのか。


 ……って、あれはプテラノドン!?


「ちょ、でかくね?」

「どうよ、俺様にかかれば飛んでるヤツもこの通りだぜ!」


 う~ん、強い。ティラノ強い。さすがは最強恐竜、最初にライズ化できてラッキーだったわ。



 それにしても、ウチ……よく食われなかったな。


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