『あれはある雪の夜・・・・』
「おいテメェ!勝手に語りだすんじゃねぇ!!」
ファイレーン達の制止を振り切って、
ライカはグリードに斬りかかろうと飛び上がった。
「ネタばらしは、テメェをぶっ倒した後に遺言代わりに聞いてやるよ!!」
そう言って剣を突き立てようとする。
だが――――
ガキィン!!
激しい金属音と共に、その剣は防がれた。
グリーズがグリードの前に現れ、その右手でライカの剣を防いだのだ。
その手は、ドラゴンのように固い鱗と爪をまとっていた。
「ひどいなぁ。人の話はちゃんと聞きましょうよ」
その顔は相変わらず嫌味っぽい微笑をたたえている。
「てめぇ・・・まだいたのか!グリーズ!」
ライカが怒りを込めてそう吐き捨てると、
魔王、シルフィア、ファイレーンもそれに続いた。
「ぬぅ、グリーズがグリードを守りおった!」
「もしかして、グリードの封印が解けたのはグリーズが何かしたから!?」
「きっとそうなのでしょう。
グリーズはグリードの封印を解くために暗躍していた、とみるのが自然ですね。
いや、グリードの命令でグリーズが動いていた、と言った方が正確でしょうか」
「ああああ!名前が似てるからややこしいんだよ!!!」
ライカがブチぎれると、
グリーズは悲しそうな顔で肩をすくめる。
「ひどいなぁ。人の大事な名前に」
『そして、長い年月が流れた・・・』
「うわ、ずっと喋ってたのか・・・!」
シルフィアは、グリードが喋り続けていた事にようやく気付いた。
いつの間にかグリードの語りの導入部分は終わってしまっていたようだ。
「人の話を聞かずにずっと喋ってるなんて、おじいちゃんみたいだね」
またもや床に着地してきたライカに、シルフィアはこっそり呟いた。
しかしグリードは語るのをやめない。
ついに核心に触れるようだ。
『俺は元々、魔王を殺して封印を解こうとしていた。
次元の歪みを利用してドラゴン達をこの世界に攻め込ませていたが・・・、
小さな歪みしか使えなかったせいで、強力な個体は送り込めなかった・・・。
だがある時!』
グリードが目をクワっ!と見開いた。
『この世界の歪みが一瞬だけ増大した。
もともと魔術の暴走が原因の歪みだからな・・・時々そう言うことが起きる。
その時に俺は、一人のエージェントを生み出すことに成功したのだ』
「それがこの私、ということです」
グリードの隣に浮かんでいたグリーズが、自慢げな顔で自分自身の事を指した。
「しかし、魔王を抹殺する機会を伺いましたが、なかなか隙が無く・・・。
魔王軍に嫌がらせをするくらいしかできない日々が続いたのです」
グリーズは今度は悲しそうな顔で顔を横に振った。
『しかしある時、またも世界の歪みが増大した。
その時にこの世界に転生を果たしたのが、勇者ライカ、お前だ』
グリードに名指しされて、ライカは心底イヤそうな顔をした。
もう一度話の腰を折って斬りかかってやろうか、と、
グリードとグリーズの隙を伺っているが、
一応相手も警戒しているようで、なかなか機会を見つけられない。
『貴様は、魔王軍の最大の脅威である
奴を倒せるのなら、残りの四天王、そして魔王を倒すのもワケなかっただろう』
グリードは、シルフィアとファイレーンを嘲笑っているようだ。
二人は苦々しく歯ぎしりをした。
ここにウォーバルがいたらもっと怒り狂っていただろう。
『しかも、グランザは実は生きていたのだ。
弱っていたグランザを我が魔力で操り人形として手ごまとした。
これで魔王抹殺は確実なものとなる・・・はずだったのだ』
「ところが、死の谷の迷宮からちょっと話が変な方向に進んじゃったんですよね。
本当はあそこで、グランザ様に他の四天王の三人を殺させようと、
こっそりドラゴンを連れて行ったり、色々誘導工作したりしてたんですけど・・・」
「・・・!それじゃあ!」
シルフィアは思い当たるところがあって声を発した。
「あそこで通信がつながらなかったのも、
キミからの通信だけ繋がったのも、
全部キミの計画通りだったのか!!」
「ふふふ。そういうことです」
グリーズはよくできました、というように手をぱちぱち叩いた。
片手がドラゴンになっているのでバランスが悪いが・・・。
「ドラゴンで勇者を足止めしている間にグランザ様で他の四天王を抹殺・・・
のつもりだったんですが、
どうにも思った通りにはいかず・・・」
『だがその時、俺はあることに気付いたのだ。
そして貴様らを魔王城におびき寄せることにした』
「・・・?どういうことですか?」
話が見えず、ファイレーンは思わず口を挟んだ。
『それはな、勇者ライカ・・・
という事に気付いたからだ。
転生者が近くにいればいるほど、俺の封印は弱まり、力を行使することができるようになるのではないか・・・と』
「なんじゃと・・・!?それでは・・・」
「まさか・・・!!」
魔王とファイレーンはほぼ同時に、重大な事実に気付いた。
それを見て、グリードは大きく口を開けて吠えた。
いや、笑ったのだろう。
『そうだ!
勇者がいれば俺の封印が弱まるかと思って呼び寄せたのだが、
まさかもう一人転生者がいたとは、この俺も驚きだった!!
ファイレーンよ、お前がそのことを告白してくれたおかげで、
俺の仮説は確信に変わった!』
「そうなれば、後は簡単です。
ファイレーン様と勇者様、二人の転生者の周囲の次元の歪みを解析し、
それに合わせて魔術干渉すれば・・・」
グリーズはわざわざファイレーンの近くにまで降りてきて解説を続けた。
嫌がらせのつもりだろう。
「わざわざ魔王様を殺さなくても、封印を解くことができた、ということですよ」
「なるほどのう。
その話が本当なら、グリーズよ、
お前がグリードの使い魔として現れたのも、ファイレーンがこの世に転生してきて、歪みが広がったから、
じゃったのかも知れんな」
『そういうことだろうな。
まさか転生者そのものが時空を歪ませる因子になるとは・・・。
魔王よ、おまえ自身も、そして封印されている俺自身も気づかぬうちに、
この世界の歪みは不安定になっていた、という事なのだろうな』
「そんな・・・私が転生者であることを告白したばかりに・・・・」
ファイレーンは深く衝撃を受けていた。
こんなことになるなら、調子に乗ってペラペラ喋ってしまうべきじゃなかった・・・。
「ケッ!なーにを偉そうに」
だがライカは相変わらずイラついた顔で剣を構えていた。
本当はすぐにでも斬りかかりたいが、同じくらい文句も言ってやりたいようだ。
「計画とか何とか言ってるが、結局棚からぼた餅なだけじゃねぇか。
大体、オレとファイレーン達との交渉が決裂したところを見てたなら、
最初の計画通りオレと魔王が戦うように仕向けた方が楽なはずだろ。
それなのに焦って俺たち全員揃ってるところで封印解くなんて、
頭が足りないドラゴンだな!!」
それはそうだな、とシルフィアは思ったが、
グリードはそうでは無かったようだ。
『何を馬鹿なことを。
貴様に分かるか・・・・。
異世界に転移したと思ったら、その瞬間氷漬けにされ、
長い間・・・長い間、身動き取れずに封印されている俺の気持ちが・・・!!』
グリードの目がギラリと殺意ににじむ。
『自由になれるなら一刻一秒でも早く、
自由になりたいに決まってるだろうがーーー!!!』
グリードはその大きな口に相応しい大きな声で叫んだ。
これにはライカも後ずさりした・・・というか、その主張に納得してしまった。
「分かった分かった。
じゃあ自由になってよかったじゃねぇか。
さっさと自分の家に帰りなよ」
ライカは出来るだけ建設的な意見を言ったつもりだったが、
当然と言うべきか、その言葉は却下された。
『ふざけたことを。俺は欲望の化身、ドラゴンだ。
この世界を手中に収めるために長い年月を待ったのだ!!』
そう言うとグリードは、体をググッと丸めて力を入れた。
『そして先ほどの問いのもう一つの答えだ。
なぜ貴様らが全員揃っている状況で封印を解いたか・・・だと?』
グリードは目をカッと開いて、そして、全身を――――その巨大な翼や尾を含めて、
力を解き放つように一気に開いた!!
ドガァァァッァアアア!!!
魔王の間は・・・そして、それより上部の魔王城が全て吹き飛んでしまった!!
そして現れた空に向かい、グリードは翼を一振りして飛び上がる。
『それは・・・貴様らがどれだけいようが、この俺の足元にも及ばんからだ!!!』
そしてグリードはその口から特大の
それは魔王城から遠く、死の谷の迷宮の方に飛んでいき・・・。
ズォォォオオオオオオオオン・・・・!!!
巨大な光の爆発を生み出し、死の谷を大きくえぐるクレーターを生み出した。
その光に、夜だったはずの空はしばらくの間明るくなり、
その衝撃は魔王城まで届いた。
余りの規格外の力に、ファイレーンもシルフィアも、再びその身を震え上がらせた。
『これで分かっただろう・・・・。
では取り合えず・・・長年封印されたことの憂さ晴らしに、
魔王と勇者達を血祭りにあげてやろう!!!』
グリードは再び魔王や勇者たちを見下ろした。