目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第31話 お披露目(本番)

 それぞれの王子達のエスコートを受け、王女達が入場する。


 他国の王女達のお披露目とあって、アドガルムの貴族達は期待と不安の入り混じった目で見つめていた。


 王女達がこの国に来た経緯は皆が知ることだし、勝利したとはいえ戦の被害は少なくない。


 精神的にも、肉体的にも、経済的にも多大な影響がある。賠償金は貰えたがまだ捕虜達もいるし、全てが元通りというわけではない。


 諸手をあげて歓迎、とまではなかなか心情がついていかなかった。


 皆からの視線を受ける中、王太子となるエリックに付き従いまずはレナンが姿を現す。


(エリック様に恥をかかせるわけにはいかないわ)

 背筋を伸ばし、皆の方に優雅な微笑みを向ける。


 緊張はしているものの王太子妃になるのだと奮起し、笑顔で歩みを進める。


 しっかりとプロのデザイナーが見繕った靴や計算された長さのドレスは、とても歩きやすい。

 足元が見えない長さなのに躓くこともない、そしてエスコートしてくれるエリックも歩幅を合わせ、ゆっくりと歩いてくれている。


 もう転ぶなんて事はない。


 ちらりとエリックを見れば視線に気づいたのか、優しい笑みで返してくれた。


 この人を支えられる王太子妃になるんだと呼吸を整え、背筋を伸ばし、真っすぐに前を見る。


 決意を込め、一歩一歩しっかりとした皆の中を進んでいった。


 並んで歩くと背の高さも程よくて、絵画のような美しさであった。


 いつもは冷たい眼差しのエリックも今日は柔らかく微笑んでいるという事で、貴族達も内心で驚いている。


 レナンに対して愛情溢れるその雰囲気に、王太子妃の座を狙っていた令嬢たちからも諦めのため息が聞こえてきた。


 次に姿を見せたのは第二王子であるティタンだ。ファーのついたマントと大柄な体躯の為にか、猛獣にも見える。


 緊張感からか眉間に皺も寄せていて、いつにも増していかつい顔つきだ。


 その隣に付き添う王女が小柄だからか、尚更そう見える。


 ボリュームのあるドレスを着用しているがそれでも小さく、高めのヒールにて体格差をカバーをしていた。


 セラフィム国でも小柄な方であったミューズは、ヒールの高い靴をよく履いてたため慣れているものの、ティタンも殊更気遣って歩いてくれている。


 本当は抱えて歩きたいとお披露目直前にティタンは提案したのが、さすがに駄目だと皆に説得された。


 王子らしからぬ容貌と考えに、マオがティタンにこっそり共感を覚えていたのは秘密である。


 体格差の目立つ二人であるが、こちらもエリック達同様仲が良さそうである。


 お互いを気遣うように見つめ合ったり、歩幅を合わせる姿は微笑ましい。


 可愛らしいミューズの雰囲気がティタンの勇ましさを更に中和しているようだ。


 第三王子のリオンは常に優しい笑顔をたたえ、周囲に挨拶を振りまく一方、マオは笑みもなく付き従う。


 落ち着いた色のドレスもあいまって、黒髪黒目のマオは違う意味で目立っていた。


 先にあらわれた王女とはまるで違い、明らかに王族らしくない。


 居心地の悪さにマオの足は止まりそうだ。


「大丈夫、僕がいるから。僕だけ見ていて」

 リオンは小声でそう囁いた。


 マオが視線をリオンに移せば、優しい微笑が見える。


「僕が守るよ、誰にも手出しなどさせない」

 小さく動く口からは甘い響きを含む言葉が漏れる。


 頭がくらくらした後、マオの耳には余計な言葉は入らなくなった。


 その様子を見ていたエリックは興味深くその様子を見つめ、その後ろに従う二コラは顔を顰める。


「催眠の魔法か。あいつは本当に多才だな」


「このような場であのような魔法を使うとは、とても大胆ですね」

 リオンはマオのつける指輪から魔力を流して、マオの心を操ったようだ。


 おそらく心の負担を減らそうとしたのだろう。褒められたものではないが、今すぐ咎める必要もない。


 おかげでマオは周りの雑音を気にすることなく過ごせているようで、先程とは違い目つきが穏やかになっている。


 三人の王女達を見て貴族たちの鋭い値踏みの目が、少し和らいだ。


 戦の功労者である王子達が妻となる王女をとても慈しんでいるからだ。


 おおよそ政略結婚とは思えない愛情深さが感じられる、動作や表情など恋愛結婚と思わせる雰囲気だであった。


 さて、皆が揃い、いよいよ大事な話となる。


 エリックの立太子、そして属国の王女達について説明がなされていった。


 正式な王太子妃と王子妃として受け入れる事、宗主国となったアドガルムからは今後属国へと人を送り、関係を密にしていく事。


「西にある帝国へも使者と書状、そして貢物を持たせた。宗主国となるという事は領土も国力も上がるという事だから、事前に戦う意思がない事を告げておかないと、後々に面倒な事になるからな」

 帝国は数々の国と民族の頂点に立つ国だ。


 皇帝という絶対君主のもと、統一されている。


 アドガルムを含め、このあたりの国はそれぞれ帝国と不可侵条約を結び、侵略しない代わりに定期的に貢物を治めている。


 争うつもりもないし、自由を得る為なら多少の財を渡すのは致し方ない。


「まだまだ戦の爪痕も残り、解決していない問題も多い。捕虜の解放により新たないざこざも生まれるかもしれないが、そこも含め慎重に動いていく。平和と安寧の為、これからも皆助力を頼むぞ」

 国王アルフレッドの言葉を皆が静かに聞いていた。


 本当の平和になるにはまだ終わりではない。一つ一つ慎重に片づけ、自分たちの生活を守らねばならぬ。


 計らずも先の戦のおかげで、国王に逆らうという考えは減っていた。


 見事敵国を退け沈静化した、次代を担う王子達がいるのだ。


 この王子たちを押し退けて王位を狙うなど、アドガルムに住むものならば誰も思うことすら出来ない。


 三兄弟は皆仲が良く、そして各々の特性を理解し、動いている。


 バランスの取れた三人は味方であるうちは非常に頼もしい。


 異論もなく、貴族たちへのお披露目と報告は無事に終わった。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?