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第30話 お披露目(女性サイド)

 王女達も美しく着飾った姿でお披露目の時を待っていた。


 一番先にアドガルムに着いたレナンはお披露目の話をいち早く聞いていたので、心の準備も万端だった。


 ミューズもその少し後に話を聞いたけれど、人前に出ることは慣れているので特に狼狽える事はなく、その話を受け入れていた。


 最後に到着したマオだけはいまだに心の準備も出来ておらず、二人はマオを気遣い、声を掛ける。


「大丈夫? 急な事で驚いたわよね」

 レナンは親しみを込めた言葉遣いで声を掛け、マオに警戒をもたれないように気を配る。


(マオさんも人質としてこの国に来たはず、同じような立場だし、今後仲良くしていきたいわ)

 慣れないところで不安なのはお互い様だし、少しでも助け合えればと思っている。


「驚いたです、だまされたです……」


「可哀想に。そんなになる程気疲れしたのね」

 既にぐったりと疲弊しているマオにミューズが回復魔法をかけた。


 体がほんわか温かくなり、マオの体から疲労が抜けていく。


「凄い。そのような力を使えるのですね」

 かけられたマオもだが、その様子を見ていたレナンも目を見開いて感動している。


「家族や親しい人以外には秘密なんです、内緒にしててくださいね」

 しぃっとミューズは照れくさそうに人差し指を唇にあてた。


「ありがとなのです、ミューズ様」

 マオは素直に感謝の意を唱えた。


 同じ回復魔法の使い手でもシェスタ国の義姉はこんな事をしてくれたこともない。


「どういたしまして」

 マオの言葉ににこにこと眩しいくらいの笑顔で返された。


 裏表のないその表情に、マオの警戒心も緩む。


「レナン様もお気遣い嬉しいです」


「いいえ、わたくしは何の力もないし、寧ろそんな言葉を言われて申し訳ないわ」

 マオの言葉にレナンはしゅんとなっている。


 驕ることも、ミューズに妬くこともしないレナンの素直さに、マオの心の壁はまた少し薄くなった。


(これが本物の王女様……)

 二人の好感の持てる素直な性格と心根に、眩しくて輝いていて、マオは自分との差を痛感し、心洗われる思いであった。


(見た目も美しいのに、内面もなんて綺麗なんだろう。こんな人になれたらなぁ)

 マオの言葉遣いも態度も諫めることもなく、広い心で受け入れ、損得なく気遣いと魔法を使ってくれる。


 自国の驕り高ぶった王族とは違う女性たちに、マオは上に立つというものはこういう人たちなのだと理解した。


 ひとり矮小な自分が恥ずかしい。


(レナン様はスタイル良いし、ドレスも似合っていて凄く綺麗です)

 レナンは背が高く、細身の身体をしている。長い銀髪は上に纏めていて、白く細い首元を露わにしているのだが、肌の白さも相まって彫像のような美しさだ。


 すっきりとしたマーメイドドレスはレナンによく似合っているが、急拵えにしてはピッタリすぎる。 ドレスを作る職人達が今日の日の為に一生懸命作った事が容易に想像出来た。


 首元で一際輝くネックレスは緑色をしており、それにあわせたのか、他の装飾品もエメラルドで統一されている。


(ミューズ様も優しいし可愛いし、何を食べたらこうなるのですかね)

 ミューズは背が低く小柄なのだが、ふくよかな胸をしていて女性らしい丸みをおびたスタイルをしている。


 ふわりとしたデザインのドレスは薄い紫色をしており、ブレスレットを含めた装飾品も同じ色をしていた。


 ふわふわの金の髪はアップにしていて、細い首元とうなじが艶めかしい。


 幼さと大人の女性の色香があり、更に不思議な瞳の色をしていて、普通の女性とは違う、際立つ魅力を放っていた。


 どちらもタイプは違うけれど、とても魅力的だ。


 羨ましさにため息が出てしまうくらいだ。


「ぼくからしたらレナン様もミューズ様も、どちらも素晴らしい女性なのです。本物の王女様ってこんなに綺麗なんだなって思ったのです」

 見た目もだが、にじみ出る優しさと気高さが凄く美しい。


 侍女たちやマオに無意識に見せる気遣いは、人を見下すなんてしないとわかる。


「マオ様だって王女様よ、それにとても可愛らしいわ」

 黒髪黒目のマオは暑いシェスタにいたとは思えない肌の白さをしている。


 蔑まされることを嫌がったマオは、部屋に引きこもる生活をしていたし、多分本当の父親がシェスタの国のものではないからというのもある。


 青を基調としたドレスのところどころに銀糸で刺繍がされていて、肌の露出を嫌ったため、首元も胸元も腕も、黒のレースで包まれている。 


 装飾品もほとんどなく、指輪すら見えない。


 あのあと首輪のようなチョーカーは抗議して指輪にし直してもらったのだが、今は手袋で隠してしまっていた。


「様付けは、は止めてほしいです」

 マオは本当の王女ではない事、教育を受けていないことなど、自分の事情を隠さず話した。


 良い人達だからこそ後で態度を変えられるのは辛いからと、嫌な部分も全部打ち明けたのだが……


「何てことなの」

 レナンはマオが心配するほどの涙を流す。


「大変だったわね」

 ミューズもハンカチで目元を押さえ、涙をこらえている。


 その様子を見て慌てたのはマオよりも侍女達の方だ。


 ミューズはともかく、レナンのメイクはほぼ全て落ちてしまった。


 急ぎ手直しに奔走する。


「なので、様付けは止めてほしいです。呼び捨てがいいのです」

 焦るマオの言葉に二人は頷く。


「これからは本当の家族のように甘えてもらえると嬉しいわ」

 ミューズは優しくマオを抱きしめる。


 花のように甘く優しい香りに、マオは安心した。


 きっとこの先もこの人たちはマオを虐げないだろう、あの秘密さえ言わなければ。


 マオもミューズの背に手を回した。


 温かい触れ合い、忘れられないものがまた増えた。

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