皆の前でお披露目とは言っても、戦の後という事で慎ましやかなものであった。
パーティのような華美な催しではなく、本当に報告のみといったものだ。
貴族達に声は掛けるが強制参加というわけではなく、不参加でも良いとの通達はしてある。
移動や準備などお金も多くかかることなので、今の情勢を考えると無理はさせたいと国王がそう決めたそうだ。
しかしほとんどの貴族は自主的に参加を決め、想定よりも多くの者が王宮に訪れていた。
大事な報告もあると聞いていたからだろう。
◇◇◇
「緊張しますね」
慎ましやか、とは言っても王族が着飾らないわけにはいかない。
三人の王女達はアナスタシアが用意してくれたドレスに、それぞれ着替える。
レナンとミューズは手慣れたもので、着付けから何から全て侍女にお任せしてすんなりと終わるが、マオはそのような事に慣れず、触れられるのを拒否をしていた。
最後の仕上げとメイクだけは何とか侍女を受け入れる。
女性陣の仕上がりを待つ間、三兄弟はゆっくりと話をしていた。
「兄上は緊張などなさそうですね」
エリックの様子にティタンは尊敬と感心をしていた。
このような場に何度も参加しているエリックは、涼やかな顔で椅子に腰をかけ、余裕の表情をしている。
今日のエリックの装いは白を基調とした服と深緑のマントだ、所々金糸にて刺繍がされており目にも鮮やかである。
いささか金の装飾品が多く煌びやかだが、その余裕も相まってとても似合っていた。王太子となるに相応しい威厳に満ちている。
「これでも緊張している、そう見せないだけだ」
ティタンの言葉にエリックはにこやかに返す。見栄ではなく本当の事だ。
「そうですよね、正式に王太子となると発表するわけですし」
クールな兄でも緊張しているんだと、ティタンは少しホッとした。
(そういうわけではないのだがな)
立太子の事よりも、レナンを正式に妻として発表する事の方が高揚感を強く感じていた。
エリックは表にあまり感情を出さないよう教育されているのだが、今はその力を行使して、にやけそうになる口元を必死に引き締めていた。
「ティタン兄様、もう少し座られていては? まだ時間はありますし、そのままでは始まる前に疲れてしまいますよ」
リオンは落ち着きなく歩くティタンに気遣いの言葉を伝える。
「どうしても落ち着かなくてな。服もいつもよりも窮屈なものだし」
ティタンは灰色と紫のバイカラーな衣装を身に着けている。
若干の刺繍はあるものの、割りとシンプルな衣装だ。だが、ファーのついたマントがあるだけで、大柄な体格も相まってかひと際大きく見えていた。
祭礼用のものではない実戦用の剣も下げている。万が一の為にティタンだけは特別に許可されていた。
護衛騎士がいるからと油断はしないし、そこらものものより強いティタンはいざという時エリックの盾となる所存だ。
「じっとしているよりも動いていた方がまだ気が紛れる」
こういう場にいつまでも慣れる事がないティタンは苦笑した。
改まった場は苦手だが、ミューズの為にも今日は立派に務め上げねばならない。
「リオンも随分余裕だな、マオ嬢はとても嫌がっていたと聞いたが、大丈夫か?」
エリックの心配するような好奇の問いに、リオンは困った顔をする。
「大丈夫、と言いたいところなのですが……どうでしょうね。何とか乗り切ってほしいと思います」
「そうだな。まぁリオンが選んだ女性だ、きっと大丈夫だろう」
「そう願います」
最終的には観念してくれそうとは思っているのだが、後で詫びの品でも送らないといけないなと考える。
(甘いお菓子でも差し入れしてあげよ)
文句を言いつつもお菓子を頬張っていたマオを思い出し、思わずクスリと笑ってしまった。
リオンは黒の衣装に白いマントを羽織ってエリックの対面に座っている。マントには銀糸での刺繍がされていて、裏地は髪と同じ青い色のものだ。
全体的にエリックと対比するような、落ち着いた色合いだ。
(エリック兄様はいつでも余裕があって凄いな。僕も早くあぁなりたい)
エリックに何かあればリオンがスペアとしてこの国を守る、ずっとそう言われそう育ってきた。
けれどリオンは本当は表に立ちたいとは思っていない。
エリックの陰で生き、兄を支える事がリオンにとっての幸せだ。
今後は自由奔放なマオと共に過ごし、そして兄を支えていく。それを考えると、楽しみしかない。
三者三様の考えはあるが、兄弟達皆がお披露目の時を待ち望んでいた。