(皆の前でドレス着て歩くなんて、絶対に嫌です)
お披露目だなんて、マオは絶対に避けたかった。
他の王子と王女に会わねばならないし、他の者の前で王女として振るわねばならない。
他の王女達が姉と違う考えとは限らないから、せめてもっと交流を持ってからにしたかった。出来れば辞退すらしたい。
「姿絵とスタイルは聞いてたからドレスも準備したし、そこまで大きなお披露目にはしないから安心して。主要な人への紹介をするだけだから」
それでも嫌だ。
マオは訪れる面倒ごとを想像し、逃げ出したくなっていた。
「ちょっと長旅の疲れが出てしまい……出来れば辞退させていただきたいのですが」
ふらりとよろける仕草をすればリオンに体を支えられる。
「それは心配だ。サミュエル、マオに回復魔法をかけてあげて。カミュはシュナイ医師から疲労回復の薬湯をもらってきて」
リオンはテキパキと指示を出す。
「僕の奥さんになるんだから、しっかり皆に見てもらって覚えてもらわないと」
「姿絵があるならそれを配ってもらっていいですよ、だから休みたいのです」
はっきりと拒絶の言葉を口にし、げんなりとした顔でリオンを見るが首を横に振られるばかりだ。
「駄目。皆にマオは僕のだって知ってもらって、僕はマオのものだと知らしめるんだから。余計な者が近づかないように」
リオンの目つきが変わる。
口元は変わらぬ笑みのままなのだが目には昏い光が見えた。
リオンの手がマオの髪を優しく梳き、もう片方は手に絡ませられる。
「可愛いマオ。もうどこへも行けないし、誰のものにもなれないよ。これがある限り、どこへ行っても僕にはわかるから」
絡められたリオンの指が、マオのつけている指輪を示す。
「そんな事言ってなかったですよ?」
「聞かれてないからね」
リオンの言葉にマオはすかさずアルフレッドを見る。
「返品希望するです!」
「ごめん、無理」
アルフレッドとアナスタシアはマオから視線を逸らした。
「甘い言葉で騙したですね、これでは奴隷なのです!」
「何も騙してないし奴隷なんて言葉は心外だ。必要な仕事はあるけれど、きちんと対価は払うから真っ当な事だと思うよ。僕はマオがいいって言ったし、君も僕の求愛を受けてくれた。君が望んだお昼寝だってさせてあげるからね」
ああいえばこういうリオンにマオは苛立ちを押さえられない。
「とにかくこれを外すです」
「駄目だよ、お守りだから。それは命の危険から守ってくれるし、悪い虫が来てもすぐにわかるようになってるんだから」
悪びれた様子などない。
「リオン様なんて、嫌いです!」
その言葉にリオンは悲し気な表情をするが、それだけだ。
「残念、僕は愛してるんだけど。撤回はしてくれない?」
懇願するようにリオンに言われ、良心は痛むがプイっと目線を反らす。
「駄目です、これを外さないと撤回しないです」
そう言われ、リオンは渋々指輪に触れて消し去る。
手の中に残るは青い宝石だ。
「似合ってたのに」
「駄目なものは駄目なのです」
リオンは宝石を持った手をマオの首元に近づけた。
「こうの方がいいかな」
「は?」
宝石のついたチョーカーがマオの首に回された。
まるでペットにつける首輪で、揺れる宝石は鈴のようだ。
「これも似合う。実は指輪と迷ってたんだけどいいね、白い肌に黒は映えるな」
うっとりと言われ、マオはわなわなと震えた。
「もう……!」
抗議の声は、リオンの手に防がれる。
優しく触れられただけなのに、見つめる視線の圧が強い。
「好きだよ、マオ。だから僕のものだという証だけはつけさせて。ある程度の自由は許してあげるから」
普段優しいリオンが言ったのは明確な主従関係だ。
マオがリオンの飼い猫でいるうちはきっと変わらず優しいだろう。
この関係を逸脱しようとした時は容赦しない、そのような雰囲気をすら感じてしまう。
(とんだ不良債権王子なのです!)
もう何を言っても聞いてはくれないだろう。言葉に出していう事も出来ず、マオは抗議する事を諦めた。