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第28話 愛と主従②

(皆の前でドレス着て歩くなんて、絶対に嫌です)

 お披露目だなんて、マオは絶対に避けたかった。


 他の王子と王女に会わねばならないし、他の者の前で王女として振るわねばならない。


 他の王女達が姉と違う考えとは限らないから、せめてもっと交流を持ってからにしたかった。出来れば辞退すらしたい。


「姿絵とスタイルは聞いてたからドレスも準備したし、そこまで大きなお披露目にはしないから安心して。主要な人への紹介をするだけだから」

 それでも嫌だ。


 マオは訪れる面倒ごとを想像し、逃げ出したくなっていた。


「ちょっと長旅の疲れが出てしまい……出来れば辞退させていただきたいのですが」

 ふらりとよろける仕草をすればリオンに体を支えられる。


「それは心配だ。サミュエル、マオに回復魔法をかけてあげて。カミュはシュナイ医師から疲労回復の薬湯をもらってきて」

 リオンはテキパキと指示を出す。


「僕の奥さんになるんだから、しっかり皆に見てもらって覚えてもらわないと」


「姿絵があるならそれを配ってもらっていいですよ、だから休みたいのです」

 はっきりと拒絶の言葉を口にし、げんなりとした顔でリオンを見るが首を横に振られるばかりだ。


「駄目。皆にマオは僕のだって知ってもらって、僕はマオのものだと知らしめるんだから。余計な者が近づかないように」

 リオンの目つきが変わる。


 口元は変わらぬ笑みのままなのだが目には昏い光が見えた。


 リオンの手がマオの髪を優しく梳き、もう片方は手に絡ませられる。


「可愛いマオ。もうどこへも行けないし、誰のものにもなれないよ。これがある限り、どこへ行っても僕にはわかるから」

 絡められたリオンの指が、マオのつけている指輪を示す。


「そんな事言ってなかったですよ?」


「聞かれてないからね」

 リオンの言葉にマオはすかさずアルフレッドを見る。


「返品希望するです!」


「ごめん、無理」

 アルフレッドとアナスタシアはマオから視線を逸らした。


「甘い言葉で騙したですね、これでは奴隷なのです!」


「何も騙してないし奴隷なんて言葉は心外だ。必要な仕事はあるけれど、きちんと対価は払うから真っ当な事だと思うよ。僕はマオがいいって言ったし、君も僕の求愛を受けてくれた。君が望んだお昼寝だってさせてあげるからね」

 ああいえばこういうリオンにマオは苛立ちを押さえられない。


「とにかくこれを外すです」


「駄目だよ、お守りだから。それは命の危険から守ってくれるし、悪い虫が来てもすぐにわかるようになってるんだから」

 悪びれた様子などない。


「リオン様なんて、嫌いです!」

 その言葉にリオンは悲し気な表情をするが、それだけだ。


「残念、僕は愛してるんだけど。撤回はしてくれない?」

 懇願するようにリオンに言われ、良心は痛むがプイっと目線を反らす。


「駄目です、これを外さないと撤回しないです」

 そう言われ、リオンは渋々指輪に触れて消し去る。


 手の中に残るは青い宝石だ。


「似合ってたのに」


「駄目なものは駄目なのです」

 リオンは宝石を持った手をマオの首元に近づけた。


「こうの方がいいかな」


「は?」

 宝石のついたチョーカーがマオの首に回された。


 まるでペットにつける首輪で、揺れる宝石は鈴のようだ。


「これも似合う。実は指輪と迷ってたんだけどいいね、白い肌に黒は映えるな」

 うっとりと言われ、マオはわなわなと震えた。


「もう……!」

 抗議の声は、リオンの手に防がれる。


 優しく触れられただけなのに、見つめる視線の圧が強い。


「好きだよ、マオ。だから僕のものだという証だけはつけさせて。ある程度の自由は許してあげるから」

 普段優しいリオンが言ったのは明確な主従関係だ。


 マオがリオンの飼い猫でいるうちはきっと変わらず優しいだろう。


 この関係を逸脱しようとした時は容赦しない、そのような雰囲気をすら感じてしまう。


(とんだ不良債権王子なのです!)

 もう何を言っても聞いてはくれないだろう。言葉に出していう事も出来ず、マオは抗議する事を諦めた。





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