目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第21話 王子妃の輿入れ

 ようやく見えたアドガルム国にミューズはホッとする。


 道中は長く、途中で宿に泊りながらやっと着いたのだ。


 宿ではルドとライカがミューズのために寝ずの番をしたり、セシルが疲れの取れる薬湯を淹れてくれたりと、至れり尽くせりだった。


 ミューズと共に来た侍女のチェルシーにも、彼らは真摯に接してくれ、とても優しかった。


 従者たちは皆所作から貴族の出であることが伺えた、そして皆ティタンを慕っているのが感じられる。


 そんな彼らをティタンもまた信頼してるのが見て取れて、羨ましく思えた。


 セラフィム国ではミューズと対等に振舞えるものはほぼ居なかった。


 長女として、王女として頼られるばかり。


 あのように仕事を任せられる程の信頼関係を築けたものなど、自分にいただろうか。


「いいなぁ」

 ぽつりと呟いた言葉はティタンに届いてしまったようだ。


 狭い馬車の中、ティタンの膝の上では聞こえて当たり前なのだが。


「何か欲しいものでもあったか? 言えば可能な限り用意するぞ」

 簡単に言うティタンにミューズは首を振る。


「多大な迷惑をかけた私が望むものはありません。あなたにただ従うだけです」


「城についたら甘いお菓子を用意させる。好きなんだろ? チョコレート」


「え?」

 自分の好物を突然言われて驚いた。


 そんな話をした覚えはない。


「チェルシーから聞いた。他にも恋愛小説やふわふわした生き物が好きだとな」


(チェルシー!!)

 侍女の口の軽さに、ミューズはクラっとする。


 その体を支え、ティタンは嬉しそうにしていた。


「遠慮せずに欲しいものや好きなものを言っていいんだぞ? 妻を甘やかすのは夫の役目だろ」

 妻と夫。


 今更ながらその事実にティタンを見る。


「私達夫婦になるんですか……?」


「いや、もうなってるんだけど」

 ミューズは抜け落ちていたその事実に大声を上げた。


「どうしたのですか?!」

 ミューズの悲鳴に馬車は止まり、ルドが扉を開ける。


「いや、その」

 何て説明していいかティタンにもわからない。


 大声を出した後、ミューズはティタンの膝の上で両手で顔を覆い、耳まで赤くしたのだ。


「まさかティタン様」

 ミューズに手を出したのではないかと、チェルシーが疑いの目を向ける。


「違う、これ以上の触れ合いはしていない!」

 自分というよりミューズの名誉のためにティタンは否定をした。


「じゃあ何故?」

 ライカの問いに、ティタンもわからず首を横に振る。


「夫婦に? そうだ、私、人質としていくだけではなかった……」

 つまりは寝所を共にしなくてはいけない。


 その事実に遅ればせながら思い至り、ミューズは再び羞恥で絶叫した。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?