重苦しい馬車の中、ミューズはティタンと共に乗っているのだが、顔を上げることが出来なかった。
弟妹達の行ないになんといったらいいのか、そしてそれでもこうして連れてこられて……内心複雑な気持ちだ。
(けれど逃げるわけにはいかない)
自分に出来ることはティタンに誠心誠意尽くすだけだと決意を新たにする。
「ミューズ」
「はい、何でしょう」
突如ティタンから声を掛けられ、それだけ何とか口に出来た。緊張と恐怖で体が震えるのは抑えられない。
「確認だ。君はあのことは知っていたのか?」
ミューズは首を横に振り、否定する。
「そのような事は何も知りませんでした、ですが私の責任です。本当に申し訳ありません!」
言い訳など出来ない、責任は全て長女であるミューズにあるのだから。
出来る限り頭を下げ、懸命に謝る。
「それを聞いて安心した。いや俺は疑っていないが、ルド達など信用していないようだからな」
「それだけの事をしたのだから、仕方ありません」
当たり前の事ですと俯くミューズに、ティタンは困った顔をする。
「とはいえ、君に責任はない。少なくとも俺は怒っていないから、もう謝らなくていいぞ」
「申し訳ありません。ですが、このままでは私の気がすみません。罰でも何でもは受けますから」
尚謝罪の言葉を口にするミューズに、ティタンは少し考える素振りを見せる。
その後腕を伸ばして軽々とミューズを抱き上げると、そのまま自分の膝に乗せてしまった。
「あの?!」
突然の出来事に戸惑いと恥ずかしさでミューズの顔が赤くなる。
「何でもしてくれるといったろ? これくらい我慢してくれ」
ティタンはいたずらっ子のような顔でミューズに笑いかけた。
「それに下ばかり向いていると首が疲れる。目線を合わせたいのもあってな、すまない」
「そうでしたか」
ティタンとミューズの体格差はかなりあるので、確かにずっと下を向いて合わせるのは辛いだろうと納得した。
でもこの距離と感じる体温に気恥ずかしさがある。
「重く、ないですか?」
ミューズとて年頃の女性だ、その点は何より気になってしまう。
「ミューズが? どちらかというと軽すぎて心配だ。これからを考えるともう少し食べた方がいいな」
(健康を考えるともっと太ってもいいくらいだ)
背も低く小柄なミューズが心配になる。
「そうじゃなきゃ子どもも……いや、何でもない」
まだ跡継ぎの事など口にするには早過ぎると、ティタンは己の失言を恥じた。
「子どもがどうかなされました?」
意図が分からずミューズが聞き返してくるが、意識しすぎてしまったティタンは何も言えなくなってしまう。
このような積極的なスキンシップをとりながら、一線を越える言葉はまだ言えない。
(そもそも会って間もないし、子作りについて考えているわけはないか)
邪な考えを持ってしまった事でティタンも顔を赤くしてしまった。
もっといっぱい触れたい気持ちとこの気高い女性をこのままにしておきたい気持ちで葛藤する。
今更膝から下ろすこともなんとなく出来ぬまま、早くアドガルムにつく事を祈るティタンと、急に静かになったことを訝しむミューズ。
車内のやり取りを拡声魔法で聞いていたルドとセシルは、御者席で複雑な顔をしていた。
「積極的なのか消極的なのか、わかりませんね」
「あれで夫婦になるんですよね? 大丈夫でしょうか」
ヘタレな主に心配しかなかった。