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第13話 真面目王女

 ティタンは二度目のセラフィム国にウキウキしていた。


 一度目は緊張と不安でなかなか王城にすら入れなかったのだが、今度は違う。


 女性と話す機会もなく過ごしてきた中で、ミューズのような可愛らしい子が妻になるのだと思うと嬉しくて頬が緩む。


 政略結婚とはいうものの、少しずつでも距離を縮められたらいいなと期待していた。


 たとえ冷遇されようが、彼女が側にいて、その顔さえ見れればいい。


 人質を取ったのだからとセラフィム国に何かしようなど、ティタンは思いもしなかった。




◇◇◇




「お待ちしていました、ティタン様」

 ティタン達一行はミューズ達により、優雅なもてなしを受けた。華やかに彩られた部屋で、香りの良いお茶や可愛らしいお菓子が振舞われる。


「セラフィムでは薬草づくりが盛んです。お茶にしたりこうして焼き菓子にしたりなど、日常的に取り入れております。健康にもいいですよ」

 ミューズはこの前会った時よりも可愛らしいドレスを纏いにこやかな笑顔を見せてくれた。


「この前とはだいぶ雰囲気が違うな、どういった風の吹き回しだ?」

 内心では嬉しく思いつつも、以前の頑なな態度からの豹変ぶりに警戒心が強くなる。


「この前は色々と失礼な事をしてしまいましたので、反省したのです。せめて少しでも償いをと思いこのような催しを開いたのですが、お嫌だったでしょうか?」

 ミューズは眉を寄せしゅんと悲しそうな表情になる。懇願するような視線を向けられ、ティタンは嫌とは言えなかった。


 ティタンが確認の為に、ちらりとセシルを見ると、仕方ないと言った表情で渋々頷いてくれる。


 セシルとて主の恋心は応援したいようだ。


「すまないが毒見はさせてもらうが、それでもいいだろうか?」

 ティタンの言葉を受けて、セシルは前へと出る。大概の薬草は知っているし、毒物もある程度はわかるので、たとえセラフィムが何かを企んでいても防げるはずだ。


「勿論です。こちらもそれくらいは承知しておりますので」

 ティタンの言葉をミューズは当然と受け止めた。


 警戒するのは普通の事だし、寧ろ歓迎のお茶会自体を断られることだってあり得た。


 それなのにこのように承諾してくれるという事で、ミューズは確信する。


 ティタンは良い人だと。


 捕虜の話を聞いてから、噂に聞いていた武人とのギャップに悩んでいたが、優しい人柄なのだと考えが至った。


 それが良い事なのか悪い事なのかはわからないが、深い事まで考える性格ではないように見受けられ、逆にミューズはこの人の人となりが心配になる。


 第二王子という立場なら、上に何かあれば代わりを務めなけらばいけないだろう。


 何だか放ってはいけない人柄に、ちょっとだけ惹かれ始めていた。


 薬草に詳しいセシルの毒見で、お茶会は特に何もなく進む。


 ミューズもホッとしていた。


 今回の催しは国を離れる姉への最後の孝行だと、弟妹達が開いてくれたものである。


 本心からの贈り物にミューズも嬉しかったし、ティタンも弟妹達に優しい、終始和やかな雰囲気だ。


「こちらもお勧めですよ、ミューズ姉様が手塩にかけて育てた薬草によるお茶です」


「まぁ、あれがもう収穫できるくらいになっていたの?」

 ミューズがこの国をにいるうちは収穫は無理だろうと諦めていたものであった。


「少々早くに収穫してしまったため数は少ないのですが、最後にと思いまして」

 茶葉が少なく二人分しか煎れられなかったらしい。


 セシルが毒見で飲もうとしたのをミューズは提案する。


「良ければ私が。少ししかないですからね」

 仮に毒が入っていたとしても、これならミューズも毒を飲むことになる。


「ミューズ王女が大事に育てたものか、味わって飲むよ」

 頭の中で間接キスである事実に仄かに照れながら飲み込む。


 甘い香りが口の中に広がった。


「姉様、蜂蜜も合いますよ」

 ミューズのカップにセーラが蜂蜜を入れる。


「ありがとう」

 仲良し姉妹にティタンも破顔した。


 定期的に里帰りを許していいかもしれないと思った時に、突然視界が揺れた。





◇◇◇





「何を、入れた?」

 朦朧とする意識の中で、ティタンはミューズの弟妹を睨みつける。


 今までの毒見は全てセシルが行なっていて特に異常はなかったし、和気あいあいとした雰囲気で怪しいところはなかった。


 最後に勧められたお茶もミューズが毒見してくれた為に警戒心を緩めてしまい、完全に油断してしまった。


(何の毒だ?)

 散りそうになる意識を何とか保ち、考える。


 ティタンも多少の毒なら耐性はあるのだが、この感覚は今まで味わったことがないものだ。


 時間が経つにつれ頭がくらくらして考えも纏まらない。体にも力が入らなくなってついには膝をついてしまう。


「あなた達、ティタン様に何を飲ませたの?!」


(私も同じお茶を飲んだのに、何故彼だけがこのような状態に!)


 急ぎ介抱しようとティタンに近づこうとするミューズを、ルドが手で制して剣を抜いた。


「我々では判断がつきません。あなたが安全な人かも」

 冷めた口調に自分も疑われているのだと、ミューズはようやっと気づいた。


「やめろ、ルド。ミューズはそんな事しない」

 セシルはティタンのそばでじっと症状や身体をつぶさに観察していく。


「ライカ、先刻の茶葉を取り上げろ。何の葉か見たい。それと残ってる蜂蜜に解毒作用があるかも。毒見をしてからティタン様に飲ませる」


「あぁ」

 ライカも既に剣を抜いており、近衛兵達を牽制しながらティーポットと蜂蜜を乱暴に取っていく。


 セシルはすぐさま蜂蜜を口にし、異常がないかを確かめてティタンに渡す。


 その後渡されたポットを開けて匂いを嗅ぎ、茶葉に触れてじっと見てみるが、首を横に振るばかりだ。


「この葉でこのような効能は出ない。一体何を飲ませたんだ?」

 セシルは知識を総動員して、少しでも負担を取り除こうと解毒の魔法をかけていく。


 それを見てミューズの弟妹達は内心ほくそ笑む。


(葉っぱはブラフで、毒はポットの口に塗ってあった。水に溶けやすい毒は無味無臭だし、全てカップへと移る。蜂蜜も関係ない)


 ミューズのカップに蜂蜜を入れる際に、袖口に隠した解毒薬を入れたので、蜂蜜には何の効果もない。


「埒が明きませんね」


ルドの視線が王女達に向く。


「私たちに触れたら解毒薬はわからなくなるわよ!」

 セラフィムの王族を捕らえようとしたルド達を制する。


「このような事をして、ただですむと思わないでくださいよ」

 ルドの殺気とライカの怒りが部屋中に満ちていく。


「そちらこそ。間もなくティタン様は僕らのいう事しか聞かなくなる。そうしたら君たちは終わりだ、ティタン様と戦う事が君たちに出来るのかい?」

 挑発めいた言葉が発せられた。


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