マオは特に出国準備もすることなく、プロポーズを受けた後はずっと変わらずベッドでゴロゴロと寝転んでいた。
持っていくものは未練含め、何もない。自分の物など、言ってしまえば身一つくらいだ。
そんな何もないマオだがこれから玉の輿に乗るのだと思うと、期待でつい口元がニヤけてしまう。
「第三王子の妻か、なんていい響きでしょうか。きっとだらだらして過ごせるです」
たとえ仕事があっても上の王子の奥さんがやってくれるだろう。
三番目のお嫁さんならそんな多くの仕事はないとマオは楽観的だ。
(王太子になるのは長兄のエリック様だという噂もあるし、ぼくが出張る事なんてなさそうです)
エリックはとても優秀で次の王になるのはほぼ確実だと言われている、それにリオンの上にはティタンという兄もいる。
つまりリオンに順番が回ってくるのは後なはずだ。
「後は新しい義姉が意地悪じゃないといいですが」
マオ以外にも政略結婚の相手とされてしまったパルスの王女とセラフィムの王女、一体どんな人なのか。
望んだわけではないだろうから、心の余裕などなさそうだ。腹いせにいじめられる可能性はあるかもしれない。
(まぁ適当にヨイショしておけばいいですね、矛先がぼくに向かなければいいのです)
どんな人達かは知らないが、どうせここの異母姉達とそう変わらないだろう。
王族なんてプライドが高くて、人を見下すような者の集まりだと、マオは欠伸を一つした後考えるのを止めた。
考えたところで意味のない事だし。
欠伸で出た涙を無意識に拭うと、リオンから渡された指輪が思わず目に映る。
「これ、売るといくらになるですかね?」
万が一アドガルムからも追い出されたりしたら、これを売って少しは生活の足しにしようかなと思ったり。
深い青色の宝石がついた指輪はキラキラと輝いている。
(あの王子は本当にぼくとなんて結婚したいんですかね)
腰が低く、偉ぶる様子もなかったけど、どうせアレも王族だ。
きっと自分のような面白みのない女は捨ててすぐに愛人でも作るだろう。
「お飾りでもこんな高価な物をもらえるんだから、まぁひどい目にはあわないですよね」
一体いくらするのかはわからないそれを見ながら、マオは三度寝を決意して目をつぶった。
◇◇◇
「面白くないわね」
マオ以外の王女達はマオが選ばれた事に不満だ。
「あれだけ強いのなら先に教えてくれればいいのに、絶対意地悪で言わなかったのだわ」
自分達がリオンと会うのを拒否した事は、スルーしている。
「でもなんでマオが? 本当にお父様の血を引いてるかの確証もないし、胸だって小さいのに」
マオは来た当初から小柄だったが、いまでもあまり成長していない。
ドレスを脱げば男の子といっても差し支えなさそうだ。
「あの子に人質の価値なんてないわよね、シェスタで大事にされてないもの」
「マオは本物の王女じゃないって事を皆で言えば、リオン様も考え直さないかしら?」
「リオン様と結婚すればアドガルムへ行けるし、ティタン様にも会えるわ。会うことさえ出来れば私達の魔法にきっと関心を持ってもらえるわ」
王女たちは皆回復魔法が得意だ。
騎士を癒やす聖女として、とくに王家の者は魔力も高い。
マオは魔力はあるが回復魔法が使えない、その事もあり周囲から軽んじられていた。
「マオを蹴落とした後は誰が選ばれても恨みっこなしよ」
「そうね。ゆくゆくはティタン様に選ばれるように。楽しみだわ」
強い騎士の番になることが女性の幸せだとシェスタ国の王女達は刷り込まれていた。